47.呪文

2020年12月20日

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 自己紹介をしてきたので、俺たちも自己紹介を返した。

 メクはツンとした態度を取りながらも、一応自己紹介をした。

「テツヤくんに、メクちゃんに、レーニャちゃんだね。ふーん……」

 クラリカは俺たちをじっと見つめてくる。
 この目で見られると、何だか心の奥底までも見透かされているようだった。

「テツヤくんは、かなり強いんだね。驚いたよ。君と戦ってたら、ポポターダス達も全滅してたかもね」

 強さを見抜かれて、俺は驚いた。今まで限界レベルが低いということで、弱いと思われることは多々あったが、強いと言われたことは初めてだった。流石魔女と言った所か。

「そうにゃ。テツヤはあんな変な魔物ならすぐにかたずけるほど強いにゃ」

 レーニャが誇らしげにそう言った。

「何で分かったんだ? 俺は限界レベルが低いんだけど……」
「ん? そうなのかい? 私は他人の力を直接見抜けるから、わざわざ限界レベルなんて見ないんだけど……何と、1なのか君の限界レベルは! それでこの強さとは、何か特殊なスキルを持っているのかな?」

 クラリカは俺の限界レベルを調べたようで、驚いていた。

 スキルを持っているのは当たっている。
 高い洞察力があるようだった。

「テツヤの強さは今はどうでもよいわい。おいクラリカとやら、お前がわしをこの姿にしたというのなら、今すぐ元の姿に戻せ」

 そのあと、クラリカには聞こえないよう「そして、戻したら一発殴る」と小声で付け足した。まあ、何十年もこの姿での生活を余儀なくされたので、一発殴るで許すのは、逆に器が大きい気がする。

「何で君がそんなに怒っているのか私には分からないけど……その魔法『人形変化』は気分がいい時に、祝福するつもりでかけてあげる魔法なんだ」
「祝福? 呪いの間違いじゃろ!」
「えー? どこが呪いなんだい? その姿でいるうちは死ぬこともなくなるし、歳も取らないし最高なんだ。私もこの魔法を使っているおかげでもう何百年も生きても、この通り若々しい姿を保てているし。良い魔法だよ」

 確かにクラリカの見た目は、20歳前後くらいに見える。とても何百年も生きているようには思えない。

「自由自在に元に戻れたらの話じゃろそれは! わしは長い間ずっとこの姿なんじゃぞ!」
「え? 元に戻れないの? 何で? 元に戻るための呪文は教えてると思うんだけど」
「教えてもらっとらんわ!」
「えー? ……うーん、まあでも、私はこう見えて抜けてるところあるからさぁ。忘れちゃってたかもね」

 てへっと、クラリカは笑う。その態度のメクは激怒する。

「忘れちゃったじゃないわい!! 己のせいで何年この姿になったと思って居る!」
「まあ、いいじゃん。可愛いよその姿も」
「どこがじゃ! 間抜けなだけじゃ!」
「そうかなぁ」
「とにかくその呪文を今すぐ教えろ!」
「分かったよー。あーでも、呪文は人によって違うんだよねー。私が元の姿に戻る時と、君が元の姿に戻る時に使う呪文は違うってわけ。呪文は長いし、正直人にかけたのは覚えてないんだよね」
「な、何じゃと?」

 絶望的な情報に思えた。それならクラリカにも元に戻すことが出来ないのか?

「大丈夫大丈夫。あんまりこの魔法は使わないし、使ったら念のために、呪文のメモを必ず取るようにしているから。多分この棚にあるよ」

 クラリカは部屋の中にあった棚を漁りだす。
 俺は少しほっとした。メクも同じくほっとしたのか「ひやひやさせよって……」と呟いていた。

 ただ、ほっとしたのも束の間、棚を漁るクラリカが、あれ? とか、おかしいなぁ……とか言い始めた。

 そして、棚を漁るのをやめて、

「ごめん。ない」

 謝ってきた。

「な、ないじゃと?」

 メクは唖然とした様子で、声を震わせながら呟いた。

「んー。何でないんだろう? どこに行ったのかな?」

 クラリカは思い出そうとする。

「何でなくすんじゃ! その棚にずっと入れてるものじゃないのか!?」
「いやー、自分が元に戻る呪文も、そのメモに書いてあってさ。もし呪文を忘れちゃうと流石にやばいかもしれないから、遠出する時とかは、メモ帳を持って行くんだよねー。その時に落としたのかなぁー。今思い出したら、確かに棚にメモ帳を戻した記憶がないや」

 クラリカはそう呟き、メモ帳を取り出して、何やらメモを書く。

「これで良しと。自分が元に戻る時の呪文はまだ覚えていたから、良かったよ」

 どうやら、自分が元に戻る時の呪文をメモしていたようだ。
 そのマイペースな振る舞いに、メクが憤慨する。

「良くないわい!! わしはどうなる!!」
「……残念ながら」
「ふ、ふざけるな! どこで失くしたのか思い出すのじゃ! 今すぐ!」

 メクはクラリカに詰め寄って怒鳴った。

「うーん、そうだねぇ……以前遠出した場所と言えば、ソウルロードだね。あー、確かに危なくなって、逃げた時に上着をひっかけて、落としちゃった気がする。あの時、落としたのかなぁ?」
「どこじゃソウルロードとは」

 博識のメクでも知らないような場所なのか。
 よほど知名度が低い場所なんだな。

「ソウルロードは何というかな……別世界みたいな場所かな? 簡単には行くことが出来ない場所なんだけど……そこにはとにかくやばい奴がいるから、弱い人が行ったらすぐに死んじゃう。私でさえ、逃げるのがやっとだからね。正直二度と行きたくないんだけど」
「何でそんな場所に行ったんじゃ!」
「好奇心みたいなものでね。何があるかなぁーって。面白い場所だったし、二度と行きたくはないけど、行ったこと自体は後悔してないよ」

 そんな軽い理由で、やばい場所に行くのかこの人は。
 やっぱとても変わった人っぽいよな。

「そこにしかないというのなら、行って来るのじゃ! お主が危ない目に遭おうが知ったことか!」
「えー……まあ、確かに君が元に戻れないのは、悪いとは思うけど……でも結局死んじゃったら、戻って来れないからなぁ」
「ぬいぐるみの姿で行けば、行っても死なずに戻って来れるんじゃないか?」
「うーん、それがちょっと変わったところだからなさぁ。あの姿でも、ダメージが入っちゃうみたいなんだよ。体ではなく魂に直接ね。だから行きたくないんだよなぁ」

 魂に直接って何か怖い響きだな。
 どんな場所なんだよソウルロードって。

 怖い場所だが……これは俺も行った方がいいかもしれないな。

 クラリカだけが行って、死んでしまって戻って来れなかったら、メクはもう二度と元の姿に戻れなくなる。
 ならば俺も一緒に行って、成功率を上げたほうがいいだろう。

「俺も一緒に行けば、多少は楽になるんじゃないのか?」
「君が……? そうだね。確かに君がいれば助けになるかも」
「ま、待て、テツヤ。正直ソウルロードがどんなところか分からんが、それだけに流石にお主でも危険な目に遭う可能性あるぞ。やめておいた方が……」
「危険な目には遭うかもしれないが、メクが元に戻れるなら安いもんだろ。行くよ俺は」
「テツヤ……」

 メクはそれ以上反対はしなかった。

「アタシも行くにゃ!」
「あー、君は行かない方がいいかもね。死んじゃうよ」
「そ、それでも行くにゃ!」」
「レーニャ……お主は行くでない。お主も随分強くなったとはいえ、行ってしまえば足手纏いになる恐れがある。わしも、この姿でやられる危険性があるというのなら、行かん方がいいじゃろうな……口惜しいが、わしらはここに残るしかない」
「にゃ~……」

 レーニャは行きたいようだが、メクに諭されて結局行かないと決めた。

「じゃあ、ソウルロードの入り口に行くから、付いてきて」

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