48.ソウルロードへ

2020年12月20日

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「ついてきて」

 クラリカがソウルロードへの入り口まで、案内してくれるというので俺は大人しく後をついていった。
 洞窟を出て、島を歩く。

「ここだよ」

 と言って止まったのは、何の変哲のない砂浜だった。

「ここに何があるんだ?」
「ソウルロードの入り口さ。こういう一見何もなさげな場所に、ソウルロードへの入り口ってのはあるんだ」
「そうなのか……どうやって入るんだ?」
「魔法で入り口を作る。ちょっと待ってて」

 クラリカは呪文を唱える。とても長い呪文だ。特に何かを見ながら唱えているというわけではない。
 こんだけ長い呪文を覚えられるなら、メクの呪文だって覚えてそうなもんなのにな。何で忘れたんだこの人。

 呪文を唱え終える。しかし、入り口とやらは現れない。

「何も起きないぞ」
「……あー、呪文間違えちゃった。やっぱ見ないと無理か」
「何度そりゃ。最初から見ておけよ」
「何回も唱えているから今度こそいけるかなぁーって、無いそんな事?」
「そんなことない……わけでもないな……」

 元の世界で、無駄に複雑なパスワードを設定して、何度も使ったからもう暗記できてるだろって、メモを見ずに打ち込んだら、駄目で結局メモを見ることになった。何てことは何度かあった。

 クラリカは今度はメモを見ながら、長い呪文を唱えた。
 唱え終えると、空間に穴が現れた。奥は霧がかかっているようで、全く見えない。

「この先がソウルロード。怖い場所だから気を引き締めていくよ」
「分かった」

 クラリカの言葉に、俺は頷いた。確かに穴の先から、嫌な雰囲気をバンバン感じる。俺はだいぶ強くなったとはいえ、別に最強になったというわけではないだろう。気を抜いたらやられるかもしれない。

 俺とクラリカは、慎重に穴の中に足を踏み入れた。

 穴に入った瞬間、嫌な気配が増大した。正直ちょっとだけ恐怖心を感じる。

 中に入っても相変わらず前は見えない。霧がかかっており、めちゃくちゃ歩きにくい。

「この霧どうにかならないのか?」
「もうちょっと歩けば霧がないところに出るよ」
「それならよかった」
「まあ、でもそっからが、本番なんだけど」

 本番か……敵が出てくるということだろう。気を引き締めて進まないとな。

 クラリカの言葉通り、しばらく進むと霧が晴れた。

 見えるようになると、幻想的な光景が広がっていた。

 どこまで続いているか分からないほど、向こうのまで続いている、一直線の道。道幅は広く、100mはありそうだ。地面は真っ白。
 空にはオーロラのような幻想的な光が出来ていた。

 綺麗な場所といえば綺麗な場所だが、俺は得体の知れない不安感を胸に抱いていた。

「すごい場所だな……そういえば上着を引っ掛けて落としたって言ってたけど、どこで引っ掛けたんだ? 何か引っ掛けるような場所はないように見えるけど」

 先にはただただ、平な地面が続いているだけで、他には何も見えなかった。

「ずーーーーっと先に歩いていくと、集落だったぽいところがあるんだよ。誰もいないけど、家だけはあるんだ。そこを調査していたら、敵に襲われて逃げてきたってわけ」

 ずーーーっとを強調するように伸ばしたので、かなり先にあるのだろう。出来れば早く出たい場所なのだが。

「道は一本だし迷うことはないから安心だね。行くよ」
「ああ」

 俺とクラリカは歩き始める。

「そういえば、何でこんな場所に行こうと思ったんだ?」

 何にもなくて暇なので、雑談を交わす。

「私は好奇心旺盛なんだ。この場所を見つけた後、どんな場所か調べてみたくなってね。ただ、洒落にならない場所だって分かってからは、いかないようにしてたんだけど。命は惜しいからね」

 好奇心でこんなところに来るとは……やはりだいぶ変わった人のようだ。

 それから先にずっとずっと歩いていく。あまりにも長く、最初は雑談をしていたが、次第に口数も減ってきて、無言で歩いていた。

「来る」

 いきなりクラリカが、身構えながら呟いた。何が来るか分からないが、俺も一緒に身構える。

 数秒後、空から何かが飛来してきた。

 飛んできてものを目で見たが、何かはっきりとは分からなかった。

 同じ大きさ丸く白い球体が、一個一個繋がって、蛇みたいになっており、それが空を泳ぐようにして飛んでいた。

 たまの大きさは結構大きく、バランスボールより二回りほど大きい。そのたまが二十個は繋がっているので、巨体である。

 どこに顔があるのかも分からない、奇妙すぎる生物である。いや、生物なのかも分からない。何なんだこいつは。

 鑑定で見てみると、何か文字化けした文字が表示された。正体不明である。どれだけ強いのかわからないのは、若干不安だ。

「あれ何なんだ?」
「私は玉蛇って呼んでるけど、実際何なのかは分かんないね。こっちを無視することもあれば、攻撃してくる時もある。攻撃されたら撃退するまで、どこまでも追いかけてくるから、倒すしかない」
「強いのか?」
「弱くはないが、私一人でも倒せるレベルだ。君がいれば問題はあるまい」

 倒せるのか。まあ、でも無駄な戦闘はしたくないから、どっか行って欲しいけど。

 俺の願いは届かず、玉蛇はこっちに向かってきた。
 戦うしかなさそうだ。

 メテオを玉蛇に向かって落とす。
 ちょうど体の真ん中あたりに直撃して、球が三つほど粉砕された。
 玉蛇は地面に落下して、動かなくなった。

 死んだようだ。

「一発か。うーん、流石だな」

 クラリカは感心したように唸った。

 俺は玉蛇の死骸に近づいて吸収しようとしたが、なぜか出来なかった。

「吸収できない。こいつ生き物じゃないのか?」
「確か、君のスキルは死体を吸収して強くなるって奴だったね。そいつは、正直、内臓だとか脳だとか生物らしい機関がまるでなかったから、生物じゃないかと思ってんだが、実際そうだったかもな」

 内臓も膿もないのか?

 俺は玉蛇の玉を拳で砕いてみたら、確かにただの石みたいな素材でできていて、中に何か詰まっているということはなかった。わけの分からないやつがいる世界だな。

「さて、先に進もう」

 クラリカに促されて先に進むが、不気味さを感じずにはいられなかった。

 歩いていると、さっきの玉蛇には、何体か出くわした。襲われない確率の方が高く、六体出くわして、襲ってきたのは一体だけだった。どういう基準で襲うのと襲わないのを決めているとのか、謎である。

 この玉蛇以外は、今の所何も出てきていない。

「あ、あった」

 クラリカが指を刺した先に、集落があった。

 本当にあったんだな。集落があるところだけ、道の横幅が広くなっている。

「気を引き締めてね。あの集落には本当にやばいのがいるから。奴がいたから、私も尻尾を巻いて逃げ出したんだ」

 クラリカが警告をしてきた。玉蛇は雑魚だったとはいえ、何かやばそうなものがいそうな雰囲気は、バリバリ感じる。警戒心を俺は高めた。

 慎重に集落に近づく。

「何もいないようだね」

 敵の気配も、住民の気配もない。異様な場所だった。

 家は何の変哲もない、平凡なレンガ作りの家である。真っ白い床に、三十件ほど立ち並んでいた。
 割と異様な光景だ。何なんだろうなこの場所は。

「この前もそうだったけど、敵は空からやってくる。今回も来るか今は分からないけど、何もいないからって油断したらダメだよ」

 注意されて俺は頷く。

「それにしても妙だね。あの家、何軒か破壊されてたはずなのに、全部無傷だ。自動的に修復されるのかな。それとも同じ場所に見えて、全然違う場所だとか」

 前回行った時、逃げる際、家を破壊したりしたのだろか。
 同じ場所に見えて、違う場所というのは……あり得ないと言いたいところだが、こんな変な場所だと、ありそうで怖い。

 俺たちは慎重に集落に足を踏み入れた。

「確かこっち……」

 クラリカが記憶を思い出しながら、歩く。俺はそれについて行く。

「この家だ。間違いない」

 家の中に入る。家の中も、特に変わったところはない。

「あった!」

 クラリカが声を上げた。上着が、椅子にかけられていた。

「あー、思い出した。ここでくつろいでたら、奴が来たんだ。引っ掛けたんじゃなかったね」

 微妙な記憶の違いがあったようだが、そんなのどっちでもいい。

「手帳はあるのか?」
「あると思うよ」

 クラリカは上着を手に取って、調べる。

「あったあった。これだ。うんうん、呪文も書いてある。これがあれば、メクちゃんも元の姿に自由に戻れるようになるよ」
「ほ、本当か?」

 クラリカは頷いた。俺はほっと一安心する。そして、良い報告を受けて、喜ぶメクの姿が目に浮かび、口元が少し緩んだ。

 その瞬間、ヒューと、何かが落下してくるような音が聞こえてきた。

「な、なんだ?」
「や、やばい! 外に出るよ!」

 大慌てでクラリカが外に出るので、俺も一緒に出る。

 外に出ると、何か巨大な物が、空から落下してきた。

 そして、ズドーン!! と轟音を立てながら、地面についた。落下の衝撃で、地面が大きく揺れる。
 落下地点にあった家は、落ち潰されて、原型をとどめていなかった。

「な、何だあれ?」

 落ちてきたものの正体は、見ても分からなかった。

 真っ白い、ビル並みに巨大な、直方体の謎の物体である。鑑定してみたが、前の玉蛇と同じく文字化けして鑑定できなかった。

 敵なのかこれ? と、観察していると、ピカッと光を放った。

「危ない!」

 クラリカが叫んだ瞬間、目の前に、壁が現れる。その壁に何かが飛んできて、直撃して、日々が入った。

「あ、危ない。アレに当たると魂にダメージを食らっちゃうんだ」
「今の魔法で防御してくれたのか?」

 クラリカが頷く。

「ありがとう。でも、魂にダメージを喰らうとどうなるんだ?」
「戦闘力が一気に落ちるんだ。スキルとか魔法とかも、使い辛くなる。食らいすぎると死んじゃうし。とにかく逃げるよ! あいつはあそこからは動かないんだ」
「分かった」

 戦う理由もない。メモ帳も取ったし。無視するのが一番だろう。たぶん死体吸収も無理だろうし。

 俺たちはすぐに謎の生物? から逃げた。

 途中何発か、魂を削るという攻撃を撃たれたが、全部回避した。

「ここまでくれば、もう奴の攻撃も届かないだろう」
「よかった。早速帰って、メクの呪いを解いてくれ」
「うん……あれ?」

 クラリカが、取ってきた上着をガサゴソと漁る。何をしているのだろうか?

「どうした?」
「いや、えーと、ちょっと待って?」

 やたら焦っているようだ。顔に冷や汗をかいている。

 まさか……

 俺は嫌な予感を感じた。

 そして、その予感は的中していた。

「ごめん。メモ帳落としてきちゃったみたい」

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