43.情報

2020年12月20日

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「知り合いではないが、わしらは生命の魔女に用があってきた。どこにおるのじゃ生命の魔女とやらは」
「何の用ですか?」
「わしにかけた呪いを解けと言いに来た。お主も弟子なら何か知っているはずじゃろう?」
「呪い? 師匠が呪いをかけるなんてないですよ。そんな人じゃないです」
「このわしの姿を見れば一目で呪われていると、分かるはずじゃろう!」
「??」

 ルリは首をかしげる。

「とにかくこんなところで話をするのも何ですし、暖かい場所へと案内しますよ。付いてきてください」

 ルリはそう言って歩き出した。

「どこに行く気なんだ?」
「家ですよ」

 家? 
 こんな山の中に家を建てているのか?

 しばらく付いていくと、複雑な文字がびっしりと書いてある、岩壁の前に到着した。

 ルリは岩壁に手当てる。
 すると、壁が動き出し、入り口が出来た。

「ここが家です」

 ルリはそう言って、中に入っていくので俺たちも中に入る。
 全員入った瞬間、入り口は封鎖された。

 中は細い道だった。
 魔法か何かだろうが、天井に灯りがあるので暗くはない。
 中に入ると急に暖かくなった。
 レーニャは「極楽にゃ~」と気持ちよさそうな声を出していた。

 しばらく歩き続けると、扉があった。
 ルリは扉を開けて先に進む。
 俺たちもルリに続いた。

「これは……」

 扉の先の光景を見て俺は驚いた。

 広い円形の部屋だ。
 ど真ん中に謎の球体が浮かんでいたり、何か羽の生えている猫のような生物が飼われていたり、本棚が大量にあったり、用途の分からない器具が複数置いてあったりと、確かに魔女の住んでいそうな部屋という感じだ。

 同じく魔法の使えるメクであるが、彼女も部屋にある物の大半が用途不明の物らしく、何じゃこの部屋はと感想を漏らしていた。

「えーと、そういえば師匠もどきの方以外、名を聞いていませんでしたね」
「もどきではなく、わしはメクじゃ。メク・サマフォース」
「俺はテツヤ・タカハシだ」
「レーニャにゃ」

 それぞれ自己紹介をした。

「改めまして私はルリと申します。十年くらい前に師匠の弟子になりました。当時はまだ幼く五歳でしたね。ちなみに種族は人間ですよ。タカハシさんと一緒ですね」
「それで、わしはお主の師匠を探してきたのじゃが、ここにはおらんのか?」
「ええ、今はいません。少し前に出たっきり、中々帰ってこないのです」
「……またたらい回しにあったか……じゃが、まあ今回は弟子の情報じゃし、ほか二つよりは正確じゃろう。次こそは見つかりそうじゃな。して、生命の魔女は今はどこにおる」
「モーエン島という場所に、バカンスに行くと言ってましたよ」
「どこじゃそこは」
「えーと……」

 ルリは地図を持ってきて、南の方にある島を指さした。

「ここです」
「ここか? かなり遠いのう……この国は北部にあって、この島は南部のルスターの近くか……相当時間がかかりそうじゃぞ」
「時間がかかると、行っている間に生命の魔女がここに戻って入れ違いになる可能性がないか?」
「むう……」

 そもそも一年もあっていないとルリは言っていた。
 今もモーエン島にいるのかは、疑問である。

「いっそのことここで待ってみてはいかがですか? 知り合いがいなくて私、少し退屈していたんですよ。メクさんをずっともふもふしていると、師匠のいない寂しさを紛らわせることが出来ると思います」
「お主、一年間待っているといっておったな。いつ戻るかは告げていったのか?」
「そのうち戻ってくると言われて、まだ帰ってきておりません……以前は三年ほど家を空けたこともございました。でも、必ず戻っては来るんですよ」
「ぬう……」

 ここで待つとなると、いつまで待たされるか分かったもんじゃないな。

 どうするか俺たちは悩む。

 入れ違いになるのは嫌だが、長い間待たされるのも問題がある。

「わしは行くべきじゃと思うな。ここで待っていてもいつ戻るか……島に本当にいるかもわからんが、仮にどこかに行っていたとしても、最近まで島にいたということは間違いないじゃろうから、手掛かりはある可能性が高いしのう」
「俺も行くべきだと思う」
「ア、アタシは二人に従うにゃ」
「じゃあ行くという事で決まりじゃな」
「え、えー。もふもふさせてくれないんですか」

 ルリは残念そうにする。

「今回は情報感謝する。何かお礼をした方がいいじゃろうが……」
「あの、ずっとじゃなくていいから一日だけもふもふさせてください」
「……な、なぬ?」
「一日だけでも寂しいという気持ちが少し晴れると思うんです。お願いします」
「……」

 お礼をした方がいいと思っていたメクは、その願いを断ることが出来ず、大人しく一日中もふもふされることになった。

「凄いもふもふです……」
「……」

 メクはルリに抱かれてもふもふされていた。
 かなり不本意そうであるが、抵抗はせず大人しくしていた。

 メクがもふもふされている間に、俺は生命の魔女がどんな人物なのか、弟子であるルリに尋ねてみることにした。

「君の師匠はどんな人物なんだ?」
「素敵な人ですよ」

 ニコニコと笑顔で答えた。
 生命の魔女に好感を抱いているという事は、その笑顔から伝わってきた。

「よく人助けをするし、私にも優しく魔法を教えてくれるし……今回みたいに長く出かけることもありますけど、バカンスのためとか言いながら、実際は人助けもしていると思うんです。とにかく素敵な人なんですよ」
「ふん。何でそんないい奴が、わしに呪いをかけたのじゃ」
「だからそれは呪いじゃないですって」
「呪いじゃなければ何なのじゃ」
「私は何で呪いだと思っているのかがよく分かりません。その姿可愛いじゃないですか」
「滑稽なだけじゃ! それにこの姿じゃと飯も食えんし、戦うことも出来ん。はっきり言って不便と言わざるを得ん」
「えー? 元に戻ればいいじゃないですか」
「元に戻れたらそうしとるわい! 最近はテツヤのおかげで一定時間は戻れるようになったが、それ以外は戻れんのじゃ!」
「え? 戻れないんですか? 何で? 師匠はその姿になっても元に戻りますよ」
「自由に姿をぬいぐるみから、元の姿に変えられるということか。まあ、使用者はそれが出来ていいかもしれんが、わしはずっとこの姿じゃ」
「それはちょっと困るかもしれませんね」
「ちょっとどころではないわい!」

 メクは怒って叫んだあと、何かを思いついたかのように、手を叩く。

「そうだ。よく考えればお主弟子であるのならば、この呪いを解くことも出来るのではないか?」
「えーと、難しいです。私はまだ見習いでぬいぐるみになる魔法は教えてもらえてないんです。教えてほしいとは言っているんですけど……」
「そうか……」

 メクはがっかりして肩を落とした。

 俺たちはそのあと、隠れ家で一夜を明かした。
 隠れ家はそれなりに広く、俺たちが寝るには十分なスペースがあった。

 そして翌日、

「もっともふもふさせてください~!」

 ルリがそう泣きついた。

「駄目じゃ! あれは昨日で終わりじゃ!」
「うう、寂しくなります」

 ルリが涙を浮かべる。

「そうにゃ、ルリも一緒に来たらどうかにゃ? そうすればルリの師匠にも早く会えるかもしれないにゃ」
「私も一緒にですか? その発想はなかったですね」
「テツヤと師匠も別にいいにゃ?」
「俺は問題ないぞ」
「わしも別に構わんが」
「うーん、長く家を空けるのはあまり良くはないんですが……それに、あまり外に出るのは好きではありませんし……でも、師匠に早く会えるかもしれないのはいいかもしれませんね」

 ルリは悩む。

「あ、でもメクさんをもっともふもふできるのは良さそうですね」
「待て! 仮に一緒に行くとしても、あれは昨日限りだ!」
「そ、そんな!」

 メクがもふもふを拒否したことで、再びルリは悩み始める。

「師匠~もふもふくらい許してあげればいいにゃ」
「駄目じゃ。そういうお主が、猫の姿になりもふもふされればよいのではないか?」
「あ、あの姿になるのは情けないから嫌なのにゃ! それにルリがもふもふしたいのは師匠で、アタシではないにゃ」
「あ、あのー、もふもふ出来ないのは悲しいですが、やはり早く師匠に会えるという事で、お邪魔でなければ皆様とご一緒したいです」

 最終的にルリは行くと結論を出した。
 魔女の弟子であるルリが仲間に加わった。

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