第二十二話 緊急事態

2020年12月20日

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「これは言っちゃいけないことなんだけど……マナちゃんには特別に教えてあげる。私は本当はパラソマっていうの。ケルン様は私の主で、私は……なんていえばいいかな、替え玉なのよ、ケルン様の」

 彼女は本名を名乗った。
 マナがスキルで知った名前と同じであった。

「何でケルンは、パラソマさんを替え玉にしてるの?」
「ケルン様は慎重なお方で、あまり外に出たがらないの。私とケルン様は容姿が瓜二つなの。だからこういうパーティーがあるときは、私が替え玉として出席するのよ」
「似てるってどこまで一緒なの? 翼の数とか髪の色とかも一緒なの?」
「ええ、ケルン様も私と同じ赤色の髪だし、長さも同じくらい。体格も一緒で容姿も同じ。翼の数も一緒よ。ケルン様は頭は良いけど、自分で戦うのはあまり得意ではないの」

 全て一緒ないと替え玉は務まらないかと、マナは納得する。

「ケルン本人に、アタシを会せてくれないかな?」
「そうね……誰にでもお会いになるわけではないけど……マナちゃんなら危険を感じることもないだろうし、お会いになられるかもしれないわ」
「そうなの? じゃあ、頼んでほしいんだけど……」
「出来ればマナちゃんのためにやって上げたいけど、私はこの城から出られないかもしれないの」

 パラソマは悲しそうな表情を浮かべてそう言った。

「どういうこと?」
「ケルン様はこの城で、何かする気らしいの。私も詳しい内容は聞いていないんだけど……もしかしたら、そのせいでこの城の主に捕らえられるか、処刑されるかもしれないって、ケルン様は仰ってた」
「それなにの替え玉としてきたの?」
「ええ、それが私の役目だから。ケルン様には大きな恩もあるし、命令は聞かなければならないの」

 マナはパラソマから話を聞き、今すぐジェードランに伝えなければならないと思った。
 何をしてくるのか不明だが、この城にとっていいことであるとは、到底思えない。
 しばらくはバルスト城にいる気であるマナにとっても、他人事ではなかった。

 急いで部屋から出ようと外に出る。

 すると、視界が白い煙でふさがれた。

 なぜか廊下に煙が充満している。

「か、火事? いや……この城って石造りで燃えそうな物なんて……」

 考えていると煙が部屋に充満してきて、視界が塞がれる。

 その直後、何者かがマナの目の前に来た。
 しかし塞がれているので、誰かは分からない。

 マナの鼻に布を押し当ててきた。

(こ……これ……)

 前世で嗅いだことのある匂いだった。
 クランプ薬と呼ばれる、複数の毒がある草を調合して作る毒薬で、嗅いだ者の意識を失わせる効果がある。

 布を押しのけなければと思うが、体に力が入らず、そのままマナの意識は完全に失われた。

「どうなっている!!」

 ジェードランとカフスは、混乱していた。

 いきなり城の廊下に煙が立ち込めてきたのだ。
 火事が起こるような建物でもないため、なぜ煙が充満しているのか全く理由が分からなかった。

「誰かが煙玉を使ったのか?」
「その可能性が高いかと」
「狙いはなんだ?」
「分かりませんね。ジェードラン様の命であるかもしれません」
「誰が俺の命を……? 心当たりは多くて特定できん」

 成り上がる際に、ジェードランは人に恨まれるような真似を何度も行って来た。

 自分が狙いのような気がしたジェードランは、なるべく防御を固めて視界のある場所までカフカと共に移動する。

 城のテラスまで出て、ようやく煙のない場所に出た。

「しばらくここで煙が晴れるのを待ちましょう」
「そうだな。しかしマナは大丈夫か?」
「この煙自体は、吸っても無害なものですので、大丈夫かと」
「そうではない。この狙いがマナであるという可能性はないか?」
「マナ様を狙う理由がありますでしょうか?」
「この国の者にはないが、人間の国にとっては人質なんだぞ」
「それはそうですが……バルスト城にマナ様がいると、人間は知っているのでしょうか?」
「調べ上げたかもしれんだろう! クソ狙われているのは自分だと思いすぎていた。探しに行く!」
「ま、待ってください! 煙の中に行くのは危険です! 俺が行きます!」

 カフスは止めようとしたが、ジェードランは煙の中マナを探しに行く。

 勘を頼りに応接室へと向かった。
 長い間住んでいる城なので、何とか到着した。

「マナ!!」

 返事はない。

 視界は塞がれているため、部屋にいるか目視では確認できない。

「あの、マナちゃんは外に行きましたよ」
「ケルン殿か?」
「あ、はい」
「どこに向かいました?」
「さあ? しかし、この煙は何なんでしょうか?」

 ケルンの質問にジェードランは答えず、マナの捜索を続行した。

 数分後煙は晴れたが、マナの姿は見つからず、城から忽然と姿を消していた。

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