第四十九話 成功

2020年12月20日

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 断られたあとドールットはしょげていたが、好感度が下がることはなかった。

 こうなったら大抵の頼みは聞いてくれるだろう。
 エマのやっていることを阻止するため、力を借りることも可能なはずだ。ただ、ここで変な頼み方をして猫神ではないことがバレたら、好感度が一気に落ちる可能性もある。きちんと言葉を選んで、頼みごとをする必要があった。

「実はお主に頼み事があるにゃ」
「頼み事でございますか。なんなりとお申しつけ下さい」

 ドールットは跪く。完全に服従しているようである。先ほどまで執務室で偉そうにしていた男と同一人物とは思えない。

「この城の飛王のことにゃ。奴は今地下に籠りにゃにかやってるにゃ?」
「え、ええ。何かやっているようです。詳しいことはきかされていませんが」

 それを聞きマナは一度咳ばらいをし、事前に考えていた嘘を言った。

「奴は全世界の猫に災いを及ぼすような極悪非道な行いをやっているにゃ。それを絶対に止めたいにゃ」
「猫に災い……!?」

 ドールットは目を剥いた。猫好きの彼にとってショックを受ける言葉だったようだ。

「そ、それは確かですか!?」
「確かにゃ。具体的にどうするかまでは分からにゃいけど、とてつもにゃく不吉な事をやっているのは感じ取ったにゃ」
「……本当なら許せませんが……しかしなぜ飛王が猫を」
「奴は犬派にゃのにゃ!! 猫たちを抹殺し、犬に天下を取らせる腹積もりなのにゃ!」
「な、何だってー!!??」

 ドールットは衝撃のあまり叫び声を上げる。
 ちなみにエマが犬派と言うのは真っ赤な嘘である。前世では、どっちとも好きで甲乙つけがたいと言っていた。

「ゆ、許すまじ飛王エマ……即刻止めなければ……」

 荒唐無稽な話に思えるが、好感度が200あるためかドールットはあっさり信じた。怒りに震え顔を真っ赤に染め上げている。今にもエマの下に行こうとしているほど興奮していたので、マナは落ち着かせる。

「ま、待つにゃ。飛王は強力にゃ。アタシとお主だけではとても太刀打ちできないにゃ」

 ドールットはハッとする。エマに数年間仕えてきたドールットは、その圧倒的な強さを深く理解していた。

「アタシは猫神だから大抵の敵にゃら倒せるくらいの力を持っているけど、飛王だけは別にゃ。もっと大勢でないとやれないにゃ」
「仲間が必要ですか。この城にいる兵たちは動かせますが……」
「数で押しても難しいから、少数精鋭で行きたいのにゃ。実はこの城に来る前に強力な戦士たちを探して来たにゃ」
「志を同じくする……猫を愛する戦士たちですか?」
「そ、そうにゃ」

 戸惑いながら嘘をついた。あとでジェードランたちと口裏を合わせないといけないだろう。

「これから協力者たちをこの城に連れてくるから、開城してほしいんだけど、出来るかにゃ?」
「今この城の管理は私に任されておりますので、そのくらいお安い御用です」

(う、上手くいったにゃ! ……じゃなくて上手くいった。よし、これで皆と一緒にエマを止めに行ける!)

 マナは小さくガッツポーズをした。

「じゃあ早速呼んで来るから、頼んだのにゃ!」
「はっ。マナ様のお姿を確認したら開城いたします!」

 ドールットの返事を聞き安心したので、早速城を出る。
 大急ぎでジェードランたちが駐留している場所まで向かった。

「ただいまー」
「マナ様、おかえりなさいませ!!」

 駐留地点に戻ると、ハピーが真っ先に全速力で駆けてきた。抱き着こうとしてきたので、それを華麗に回避する。空振りをしたハピーはコケて、地面に転がった。

「お、おお! マナよ、無事に戻ってきたか!」

 ケルンは薄っすらと目に涙を浮かべていた。敵の城に潜入するという事で、相当心配していたようである。

「思ったより早く戻ってきたが、目的は達成できたのか?」

 ジェードランは厳しめな口調でマナに質問したが、口元が僅かに緩んでいた。無事帰ってきて安心感があるのだろう。

「うん。ばっちり。だけど、ちょっと変わった方法でやったから、注意することがあるかな」
「何だ、その変わった方法といのは」

 マナは、ドールットが猫好きで、それを利用して魅了したこと、ジェードランたちは猫好きの戦士だと説明してあること、全て話した。

「ドールットか……何度か見たことあるが奴が猫好きとは……しかし、俺は犬の方が好きなんだが」
「それ、ドールットの前で言っちゃだめだからね」

 ジェードランに警告をしていると、ハピーがおずおずとしながらお願いをしてきた。

「あの、その……猫耳と尻尾を生やしたお姿を見せていただけるわけにはまいりませんか?」
「却下」
「そ、即答!? も、もうちょっと考えて下さい!」
「考えるまでもないわ! あんな恥ずかしい格好、二度とごめんだよ!」

 顔を赤らめて叫んだ。ドールットを魅了しようとしてた時は、魅了しなければならないという強い思いがあったため何とかしたが、後から振り返ると死にたくなるくらい恥ずかしい事をしていた。

「し、しかし……猫耳と尻尾をしたマナ様は、想像するだけで涎が出てしまうほど、可愛らしいお姿だと思います」
「き、汚い! 涎垂らすな! 恥ずかしいから嫌だと思ってたけど、そうじゃなくてもアンタには見せたくない!」
「そ、そんなぁ! お願いしますよぉー!」

 涙を浮かべながら迫ってくるハピーに、どんだけ見たいんだとドン引きする。やっぱりこいつは変態だ。

「マナよ。恥ずかしいのは分からんではないが、しかし、ドールットに会う時はどうするのじゃ? そのまま会うわけにはいかんじゃろ」

 ケルンの指摘に、痛いところを突かれたとマナは顔をしかめた。確かにドールットと会う時は、もう一度あの格好をしなくてはいけない。

「飛王のやっておることを止めるのは、お主の悲願なんじゃろ? なら、多少恥ずかしいのは我慢しなくてはならん」

 そう言われてハッとした。ケルンの言う通りだ。
 エマは絶対に止めないといけない。そして自分の気持ちを伝えないといけない。そのためにちょっと恥ずかしい思いをするくらいなんだというのだ。マナは反省していると、ケルンの呟き声が聞こえてきた。

「……まあ、わしもマナの猫耳は見てみたいしの」
「アンタも見たいだけのかい!」
「あ、いや……だ、だって絶対可愛いじゃろ! 魔写具がここにないのは残念じゃが……わしの目にばっちり記憶しおく!」

 開き直った様子でそう言い、ケルンが目を見開いた。こうも熱心に見つめられてしまうと、恥ずかしさが倍増してしまう。マナは顔を真っ赤に染めて考える。

「……うー…………あ、そうだ! あの姿を見せるのはドールットだけで、ほかの人には内緒にしてるってことにしておこう」
「な、なぬ? そんなこと怪しまれてまうぞ」
「大丈夫大丈夫。そもそも、普通信じない話をドールットは信じたんだし。何言っても信じるよ」
「か、考えが甘いぞ!」

 どうしても猫神になった姿が見たいケルンは、説得を試みるが、マナはミラージュを使わなくても何とかなると確信を得ていたため、結局そのままの姿で行くことになった。

「それじゃあ、城に行くよ!」

 マナの合図で飛王城へと向け、進軍を開始した。

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