49.激闘の末

2021年4月15日

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「……マ、マジ?」
「マジ……どこにもない。逃げてくる時、落としたと思う」

 な、何と。ここまで来てミスが……
 必死だったから仕方ないので、責めることは出来ないが、痛いミスだ。

「どの辺に落としたんだ?」
「分かんない。でも、集落のところだったら……」
「あのデカいのまだいるのか?」
「いるかも……」
「一旦ここから出て、奴がいなくなるくらいにまた来てから、また来るか?」
「うーんそれは……そもそも、どれくらいでいなくなるか分かんないからなぁ……私が前来たのは、数年前の話だし。下手したら数年あそこに居座ってるかもしれない」
「そ、そうか……うーん」

 メクにしたら1秒でも早く元に戻りたいだろう。希望が見えて、数年待ってくれとは言い辛い。

「仕方ない取りに行くか」
「き、危険だよ。あんな得体の知れないデカい奴相手に……」
「別にぶっ倒そうってわけじゃないから、何とかなるはず」

 倒すとなると、流石にデカすぎるが、攻撃手段があの遠距離からのビームだけなら、避けながら行けば良いだけなので、問題はないだろう。

「メクには早く元に戻れるようになってほしいんだ。行かないと」

 俺がそう言うと、クラリカがこちらを見つめてきた。

「あの子が好きだったのか君は」
「なっ……すっ!?」

 予想外のことを言われて、俺は動揺する。

「いや、す、好きとかじゃなくて、仲間としてだな。戻りたがっているのは知ってるからさ」
「ふーん、まあそう言うことにしておこう」

 若干ニヤつくクラリカ。確かにエルフ姿のメクは、びっくりするほど美人だが、恋心というか、そういうのは、ちょっと違うかも知れないというか。

「と、とりあえず行くぞ」

 俺は誤魔化すように集落に引き返し、クラリカが後に続いた。

 集落に着くまで、メモ帳は落ちていなかった。やはり集落の中に落ちているみたいだ。

 あのデカい直方体の謎の生物? はまだいた。こっちに向かって攻撃をしてくるので、それを避ける。
 早い攻撃ではあるが、避けられないほどではないので、当たる事はなかった。

 集落に入る。近づいたら、若干危なくなるがそれでも避けることは可能だ。クラリカの防御魔法もあるので、一応ミスって当たっても、一撃までなら何とかなる。

「あった!」

 メモ帳を発見した。拾おうと近づいたその時、直方体が、赤黒い色に変色した。血の色である。

 潜在的な恐怖心をその時感じた。

 やばい、と思うと、直方体が分裂。立方体が五十個くらい出来て、そいつらがこちらに一斉に飛んできた。

「な、何だ!?」
「こ、このパターンは知らないけど、なんかやばそう!」

 とりあえずメモ帳を拾い、逃げようとするが、回り込まれた。
 分裂しているが、元がビルのように巨大なので、一体一体が普通の家くらいの大きさがある。

 俺は剣を抜いて、斬りかかるが、通じずに剣が弾かれてしまった。

 その後、赤い立方体が、レーザー光線のような、赤いビームを放ってくる。

 回避する。光線が当たったとこが、炎上した。炎属性の攻撃のようである。

 全ての立方体が、光線を打ち始めた。クラリカらが何とか対炎属性の防御魔法を使用し、敵の攻撃を防ぐ。

 無制限に連発できるというわけではないようで、敵の攻撃が止む。反撃のチャンスだ。

 剣は効かなかった。ならスキルで攻撃しようと思い、ダークブラストを放った。今度はダメージが入り、立方体は粉々に砕け散った。

「どうやら、魔法は効くみたいだね……しかし、この状況……まずいね。私も防御魔法を何回でも打てるわけじゃないし。逃げるには数が多すぎる」

 俺はダークブラストを放ち、もう一体を攻撃して破壊した。連発して、近くにいる立方体を壊し続ける。

「クラリカは、防御に専念してくれ。攻撃は俺がやる」
「そうするのがいいね。お願い」

 敵の攻撃が来そうな気配を感じたら、クラリカの防御魔法で攻撃を防ぎ、やんだら、魔法を解いて、俺が攻撃して破壊していく。

 このパターンで、一体ずつ立方体を破壊していく。数が多いが、とりあえず何とかなるか、と思ったが、そう甘くはなかった。

 数を半分くらいまで減らしたら、立方体がさらに分裂を開始。細切れになり、針のようになる。

 それが一本一本、物凄い速度で、こちらに向かって飛んでくる。

 クラリカが防御魔法を唱えて、防御する。一本一本直撃するたびに、壁にヒビが入って行く。

「っく、壊れる!」

 守りきれず壁が破壊された。
 俺は持っていた剣で、一本一本斬り落として行く。斬り落とされた針は、地面に落ちた後、消滅した。もう一回、襲ってくるということはないようだ。

 しかし、全てを斬り落とすことは出来ない。
 何本か斬り損ねて、体に直撃する。物凄い勢いで飛んできたうえ、さらに結構固いので激痛が走るが、俺の体も防御力が高いので、突き刺さりはしなかった。

 ただめちゃくちゃ痛い。最近、ダメージを食らってなかったので、久しぶりにここまで痛みを感じた。ここでひるんでいたら、もっと痛くなってしまう。俺は歯を食いしばって、痛みに耐えながら、針をたたき落とし続けた。

 針は俺だけでなく、クラリカもめがけて飛んできている。
 防御力が高い俺でさえ、あれだけのダメージがあるんだ。クラリカの防御力がどれほどか分からないが、食らうと不味そうなのは間違いない。

 クラリカに来た針も全部たたき落としていく。

 光の矢を放つ魔法を使って、クラリカも針を撃ち落としていった。

 しかし、あまりにも数が多すぎて、捌ききれなくなる。

 頭に何度か当たって、脳が揺さぶれれたが、何とか耐えて、叩き落とし続ける。

 突き刺さらないとはいえ、こんな攻撃を何十回も受けたら、下手したら死ぬかも知れない。
 とにかく必死で剣を振り続けた。

 クラリカの方に、大量に針が向かった時は、庇うように前に出て、代わりに針を受けたりもした。

 実際は恐らく10分くらいだろうが、主観的には十時間くらいの時間、針を捌き続けたが、剣を振った疲労と、攻撃を何度かくらった影響で、剣の速度が鈍くなり始めた。

 連続で針をくらい、気を失いかける。

 その瞬間、クラリカに飛んでいった針に反応することができなかった。

 ズシャッ! という音と共に鮮血が飛び散って、俺の顔にかかってきた。

「クラリカ!」

 俺は叫んだ。しかし、まだ針は飛んできていた。クラリカの様子を確認する余裕はない。必死で叩き落とした。

 しばらくすると、遂に針がなくなった。痛みと疲労でフラフラだが、再生リジェネスキルのおかげで、怪我はほとんど治っていた。

「クラリカ……」

 クラリカは心臓に針が突き刺さり、倒れていた。夥しいほどの血が地面に流れている。生きているとは思えなかった。

「クソ……」

 もっと、俺に力があれば……
 拳を強く握りしめた。

「あー、痛かった」
「は?」

 呑気な声が聞こえてきて、俺は思わずクラリカの方を見た。

 針が突き刺さったまま立ち上がり、それを引き抜いている。

 引き抜いた直後、胸の傷はみるみるうちに塞がっていった。

 あまりに光景に俺は動揺した。

「え? は?」
「死んだと思った? 生命の魔女の私がこの程度じゃ死なないよ。死んだら、復活する魔法を重ねがけしてるから、10回くらいなら死んでも大丈夫なんだよね私は。まあ、でもあの攻撃が魂に直接攻撃してくるやつだったら、やばかったかもだけど、ただの物理攻撃だったみたいだね」

 10回生き返れるって。チートかクラリカは。

「君もだいぶ食らって怪我をしてるだろうから回復してあげる。ってあれ無傷だ。スキルでも持ってるの? あの防御力があって、回復するスキル持ってるって、君はとんでもない奴だね」
「死んで生き返るような奴には言われたくない」

 クラリカが回復してくれた。一瞬で痛みが消える。俺は「ありがとう」とお礼を言った。

「しっかし、何なんだろうねー、あの奇妙な奴は。もうちょっと調べたいけどなぁ」
「……調べるなら、メモ帳をめくに届けた後、一人でやってくれ」
「一人じゃ無理だよー。うーん、諦めるかー」

 こんなところに来るのは、もう二度とごめんである。

「とにかくメモ帳はゲットしたし、すぐ帰るぞ。長居はしたくない」
「わかったよー」

 俺たちはソウルロード出口に向かった。

 ○

 ソウルロードを出て、メクとレーニャの元に戻る。

「テツヤ! 無事だったにゃ!」

 レーニャが嬉しそうに飛びついてきた。

「戻ってきたか!! して、メモ帳はあったのか!?」
「ああ、ちゃんとあったぞ」
「ほ、本当か!!」

 メクが飛び上がって喜んだ。

「つ、遂に呪いを解く日が……待ち侘びたぞ……さあ、早くメモ帳を渡すのじゃ!」

 クラリカがメモ帳を渡す。
 メクがページをめくって確認する。

「どれどれ……物凄い数の呪文があるのじゃが、どれがわしの呪いを解く奴かのう?」
「分かんない」
「は?」
「このメモ帳のどれかで解けると思うけど、分かんない。適当に作った魔法の呪文とか、色々あるしさ。あと、君にかけたのは呪いじゃないって、何度言えば」
「ま、待て! それじゃあ、メモ帳にあるのをしらみ潰しに唱えて行くしかないのか!?」
「うん、そうなるね」
「な、なんじゃとー!!」

 最後の最後で、面倒な作業が残されていた。

「まあ、500くらいだし、何とかなると思うよ。頑張って」
「貴様ひと事みたいに……元に戻ったら一発殴るからな……」

 メクはメモに書かれている呪文を、一つずつ唱え始めた。

 200くらい唱えたが、メクの呪いは解けない。

「ほ、本当にあるんじゃろうな……」

 全然解けないので、メクは不安に思っているようだ。

 250くらい唱えた時、メクが光を放った。

 そして、エルフの超美人の姿になった。

「おー、解けた」
「やったにゃー」
「良かったねー。てか、メクちゃん
 すごい美人だねー」

 そのあと、これはテツヤ君の気持ちも分かると、余計な一言をクラリカは付け加えた。違うって言っているのに。

 元に戻ってから、メクは自分の体や手などを確認。

 そして震えて、

「よ、良かったのじゃ〜」

 と万感の思いを込めて呟いた。その目には涙が浮かんできた。
 俺のスキルの力で、何回か元に戻ったとはいえ、時間制限を気にすることなく、ずっと元の姿に戻れるようになったのは、間違いなく大きいだろう。涙も出てくるだろう。

 メクはそのあと、いきなり俺に抱きついてきた。

「ありがとうテツヤ……お主のおかげじゃ!」

 いきなり抱きつかれて、動揺する。
 以前も抱きつかれたことはあるが、二回目だからといって慣れることはない。同じくらいドキドキした。

 メクはゆっくり俺から離れて、

「今度何かお礼をせねばならんな」

 そう言った。

「い、いや、別にお礼は……仲間だし当然というか」

 おろおろしながら答える。

「いや、お礼をせねばわしの気が済まん。何がいいかのう?」
「な、何と言われても……」

 即座に思いつくことはない。
 どうしても男なので、エロいお願いが頭の隅に浮かんできたが、一瞬でかき消した。

「もしかしたら、不埒なことをしたのかの?」
「そ、そんなことあるか!?」
「そうか、わしは別にそれでも良いのじゃが。あとで何か考えるかの」

 それでも良かったと言われ若干後悔する思いが浮かんでくるが、何後悔しているんだと、自分に言い聞かせた。

「良かったねー。戻れて一件落着だね」

 ニッコリと笑ってそういうクラリカを見て、メクが額に青筋を浮かべる。

「元に戻れたし、文句を言うつもりはない。じゃが、一発殴らせろ」
「え?」
「問答無用じゃ! 鉄拳制裁!!」

 メクの積年の恨みを込めた拳が、クラリカの頬に突き刺さった。

 -------【あとがき】ーーーーーーーー

更新はきりの良いところまで書いて、まとめて行うつもりです。次回は2021年4月15日に更新します。更新のお知らせは、サイドバーのお知らせか、公式ツイッターで行います。

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