42.イエティ

2020年12月20日

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「にゃ~……寒いにゃ~」

 俺たちはかなり高い位置まで登ってきていた。
 レーニャが凄く寒そうにしている。

 俺は道中の氷属性の魔物を吸収してきたため耐性が上がっており、寒さを感じないため、気温が下がってきているということは認識できていない。

 山の道も上に行けば上に行くほど、険しくなってくる。
 冷静に考えたら、少し装備が軽すぎる気がしてきた。

 滑落した場合、俺の防御力で何とかなるのだろうか。
 試してみないことには分からないが、流石にそんなリスクは犯せないな。
 俺は大丈夫かもしれないが、レーニャが滑落するのは流石にまずいだろうから、気を遣いながら登らないといけないな。

 それからしばらく登り続けると、レーニャがだいぶ疲れてきているようだ。

 ちょうど洞窟を発見したので、俺たちはそこに入って休むことにする。

 洞窟は暗い。
小光スモールライト】を使用して、周囲を照らす。

 しばらく洞窟の中で休憩していると、低い唸り声が聞こえてきた。

 複数の足音が近づいてくる。

 人間の足音ではない。
 ドスンドスンと、体重の物凄く重いものが歩かないと出ない音である。

 俺は音が聞こえてきた方を向く。

 最初は暗くて何も見えなかったが、徐々に音を出した者の正体が見え始める。

 白い毛に覆われた二足歩行の魔物だ。
 身長は二メートルは超えていそうだ。
 顔は凶悪そのものである。

 その魔物が十体こちらに向かって歩いてきていた。

「こいつらは……イエティじゃな」

 メクが魔物を見てそう呟いた。

 イエティって雪山にいるっていう伝説の生物か?
 この世界では魔物の名前であるようだな。
 俺は一応鑑定してみる。

『イエティ Lv.30/36
 氷属性の人型の魔物。【氷拳アイスパンチ】で敵を凍り付かせる。弱点は炎属性だ。
 HP 312/312
 MP 24/24
 スキル 【氷拳アイスパンチLv4】
 耐性 【氷耐性Lv8】』

 アイス・ジャイアントスネークよりは弱そうである。
 まあ、これは一体のイエティの鑑定結果なので、ほかの奴はもっと強いという可能性もある。
 俺は調べてみるが、全員大差なかった。
 限界レベル41が、このイエティの集団の中では最強だった。
 十体いるが、これなら楽に倒せそうだ。

 イエティはゴリラのようにドラミングをして、威嚇してくるが攻撃はしてこない。

 多分ここは俺たちの縄張りなので、出ていけとでも主張しているのか。

 向こうから来ないなら、何となく倒したくはないよな。
 大体魔物ってのは、向こうから攻撃してくるもんだからな。

 とはいえ、この洞窟を出て休憩は出来ないしな。
 外に比べると、中の方が当然のごとく暖かいし、出たくはない。

 俺が攻撃もせず逃げもせず、その場でじっとしていると、痺れを切らしたイエティたちが襲い掛かってきた。

 こいつも炎属性が弱点だ。
 俺は【炎玉フレイム・ボール】を乱射して、一匹ずつ確実に葬り去っていく。

 レーニャも戦闘し、一体のイエティをあっさりと退治した。

 イエティを全滅させる。
 俺は全てのイエティの死体を吸収した。

 十体合計で HP624上昇、MP48上昇、攻撃力33上昇、防御力31上昇、速さ45上昇、スキルポイント31獲得

 流石に十体も吸収したら結構上がったな。

 特にHPが最近すごい勢いで、上がってきている。

 もうイエティはいないようで、俺たちは洞窟でしばらく休憩してから山登りを再開した。

 そして、しばらく登り続けると、凄まじい雄たけびが上空から聞こえてきた。

 驚いて上を見ると、とんでもなくデカいドラゴンが空を飛んでいた。

 町で倒したドラゴンより、二回りはデカい。

 そのドラゴンはもう一度雄たけびを上げて、俺たちの眼前へと急降下して降り立った。

「ここは下等生物の入っていいような場所ではないぞ」

 物凄く低い声で、ドラゴンが喋った。

 このドラゴン喋りやがったぞ?

 ドラゴンって喋るもんなのか?
 でも町で倒したドラゴンは喋っていなかったのだが……

 俺は鑑定をしてドラゴンを見てみる。

『エンシェントドラゴン 個体名:ルバーヴォン Lv.71/74 102歳
 すべてにおいて高い能力を持つ、ドラゴンの上位種。
 言葉を操り、魔法も使いこなす。飛行速度も非常に素早い。 
 HP 1221/1221
 MP 602/602
 スキル 【アイスブレスLv6】【ファイアーブレスLv5】【ポイズンブレスLv5】【再生リジェネ】【速度上昇スピードアップLv5】
 耐性 【氷耐性Lv9】【炎耐性Lv9】【毒耐性Lv9】』

 エンシェントドラゴン……こいつが……

 めっちゃレベルが高いし、HPもかなりの数字だ。俺よりは低いのだが。

 ただ言葉が話せるとなると、案外会話で何とかなるかもしれない。

「さっさと立ち去らなければ、消し炭にしてやろう。さあ、今すぐ山を下りろ」
「この山で探している人がいるんだ」
「人などお前ら以外におらん。さあ消えろ」

 生命の魔女はいないのか?

 いや、やはり自分の目で頂上付近に行かないと、確信は持てないな。
 隠れながら暮らしているという可能性もあるからな。

「どうしても会いたいから、探すくらいはさせてくれないか?」
「ならん。今すぐに立ち去れ」

 エンシェントドラゴンのルバーヴォンは、牙を剥いて俺を威嚇してきた。

 仕方ない。戦うしかないようだ。

「レーニャ、メク、少し下がっていろ」
「にゃ、にゃ~……」
「た、戦う気か? こいつは恐らくエンシェントドラゴンじゃぞ……一旦引くべきでは……」
「大丈夫だ」

 二人は後ろに下がった。ルバーヴォンの威圧感に押されて、少し怯えているようだった。
 細かいステータスは見えないが、あくまでHPやレベルを見る限りでは、決して倒せない敵ではないと思う。

 こちらを明らかに見下しているため、油断もしているだろう。

 まず一撃強烈な攻撃をお見舞いしてやろう。

 俺は【隕石メテオ】を使用した。

 ルバーヴォンの背中にめがけて【隕石メテオ】が一直線に落下していく。
 スキルレベルが低かったころに比べると、【隕石メテオ】はかなり大きくなっている。ルバーヴォンも巨大なドラゴンではあるが、直撃したら大ダメージを受けるのは間違いないだろう。

 相手は油断していたため、回避不可能な位置に落ちてくるまで、攻撃に気づかなかった。

 慌てて回避しようとするが時すでに遅し、【隕石メテオ】がルバーヴォンの背中に命中した。

「グオオオオオオ!!」

 痛みでルバーヴォンは大声を上げる。
 鑑定で見る限り、まだ死んでいないが、三百ほどHPが減っている。

 あと何度か命中させる必要があるな。

 俺はもう一度使おうとすると、ルバーヴォンは飛び上がる。

 攻撃してくるのかと身構えると、

「きょ、今日のところはこれくらいで勘弁してやろう! だが山を出ないといずれひどい目に遭うからな……!」

 と言いながら飛び去って行った。
 若干涙目だった気がする。

 俺は呆気に取られてあんぐりと口を開ける。

 しばらくすると、上空から「い、いたいよ~!!」という情けない叫び声が響き渡ってきた。

 あれか、あいつ口では貫禄たっぷりに演じていたが、かなりのヘタレだったのか?

 逃がしたから【死体吸収】で強くなるチャンスを逃がしたが、まあ、追い払えたので良しとしよう。

「えーと、じゃあ先に進むか」
「そ、そうじゃな」
「何か怯えて損した気分にゃん」

 途中洞窟などで休憩も挟みつつ、俺たちは山を登り続けた。

 しかし、こんなところに本当にいるのだろうか。
 登り続けていて、何度も疑問に思ったのだが、ここまで来ておいて確認もせずに帰るのは流石に嫌なので、俺たちは登り続ける。

 周りは雪と霧で確認できないので、ここが頂上付近なのかどうか分からないが、かなりの時間登ったが発見は出来なかった。

「うーん、いないにゃ~……」
「噂はデマじゃったのかのう……」

 二人とも少し諦めの気持ちが出てきているようで、がっかりしたようにつぶやく。

「まだ諦めるのは早い。ここで見つけきれなかったら、メクの呪いを解く手がかりを完全に失ってしまう」
「……そうじゃな」
「そうにゃ。頑張って探すにゃ」

 俺たちは気を引き締め直して、捜索を行う。

 しばらく歩いていると、

「あ!!」

 誰かが叫んだ。
 俺の声でも、メクの声でも、レーニャの声でもない。

 全く身に覚えのない、幼い少女のような声であった。

 声の聞こえた方を慌てて確認すると、霧ではっきりと姿を見ることは出来ないが人影があった。

「師匠!! 帰ってきたんですね!!」

 その少女(?)はこちらに駆け寄ってきて、メクを抱え上げた。

「ぬお、何をする!」
「師匠、待ちくたびれたのですよ! 一年も待ったんですから!」

 とても嬉しそうにそう言った。
 声の通り、少女だった。
 年齢は十代中盤くらいだと思う。
 緑髪のツインテール。
 大きな目が特徴的な少女だ。
 魔女が身に着けるような、とんがり帽子をかぶっており、この寒さの中で寒くないかと言いたくなるくらい、ラフな服装をしていた。

「ちょ、ちょっと待つにゃ! 師匠はアタシの師匠にゃ! お前何なのにゃ! 師匠を離すにゃ!」

 レーニャがメクを奪い取るため、掴む。

「な、何ですかあなたは! 師匠から手を離してください!!」

 レーニャと少女がメクを引っ張り合う。

「や、破ける! 離すのじゃとにかく! 破けても死にはせぬが、気分的に良くないのじゃ!」

 二人とも思い切り引っ張り合いするものだから、メクが引きちぎれそうになっている。この体で両断されても死なないようだが、俺もそんな姿は見たくはない。

 レーニャと少女の二人もメクの叫びには気づいたようで、同時にメクから手を離した。

「ふう、助かった。一体何なのじゃ」
「師匠、何だか喋り方が変ですよ」
「わしはお主を弟子にした覚えはない。誰じゃお主は」

 メクがそう言うと、少女は物凄くショックを受けたような表情をした。

「な、なんですと……? このルリを忘れたと……? 名前もあなたが付けて下さったではないですか…………そんな……酷すぎます……」

 ついに少女は泣き出してしまった。
 ルリという名前だそうだ。

「あー、落ち着くのじゃ。話が見えんが、お主の師匠とやらは間違いなくわしと同じ格好をしておったのか?」
「当たり前です」
「わしの名はメク・サマフォースじゃ。お主の師匠は何という名じゃ」
「え? メク? サマフォース? 師匠の名はクラリカと言ったはずですよ」
「では別人じゃ。わしの名はクラリカじゃない」
「えー? 嘘ですよ。だって師匠以外そんなヘンテコな格好……」
「ヘンテコで悪かったな!」
「あれ? でもそういえば色が違いますね……師匠は白色じゃなかったような…………あ、そうです! 確か師匠は黒色でしたよ!」
「真逆の色ではないか! なぜ間違えた!」
「うっかりしていました。長い間お会いしていないので、忘れていましたよ。あなたは私の師匠ではございませんね」

 誤解は解けたようだ。

 しかし、さっきから師匠師匠と言っているが……
 恐らくメクと色違いの格好をしているようだ。
 村で聞いた時の話によれば、魔女はメクと同じようなぬいぐるみの姿に変身したらしい。

 それを総合して考えると……

「お主のいう師匠クラリカとは、生命の魔女と呼ばれておらんかったか?」

 俺の考えをメクが代わりに言った。

「はい、そうですよ。あれ? もしかして皆さん師匠のお知り合いなのでしょうか?」

 ルリはあっさりとそう返答した。


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