20.入国

2020年12月20日

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「メ、メク様……」
「おお? お主はレマではないか。大きくなったのう。なんじゃ将軍と呼ばれておったが、だいぶ出世したのか?」

 どうやらあのレマと呼ばれた女エルフの将軍は、メクの知り合いみたいだった。

「メク様ー!」

 と叫びながらレマ将軍が、メクに抱きつこうとする。
 しかし、ちょうど抱きつく寸前、メクの体がぬいぐるみになってしまう。

「あれ?」
「あーあ、効果が切れてしもうた」

 レマ将軍は下を向く。

「あの、メク様は?」
「わしじゃわし、わしがメクじゃ」

 レマ将軍の表情が凍り付いた。しばらく、そのまま黙り続け、

「メク様ーーーー!?」

 と絶叫した。

 ○

「何と、呪いのせいで……ああ、おいたわしや……そのような姿になってしまって……」

 レマ将軍がメクの姿を見て、涙を浮かべながらそう言った。

 とりあえず俺たちは、レマ将軍の手引きでエルフの国に入れてもらった。
 一度元の姿を見られたメクは、ぬいぐるみの姿になっても、メクであるとは信じてもらえたようだ。
 そして、俺とレーニャについては、信用のできるものだから入れてくれとメクが説得したら、入れてもらえた。
 まあただ、町中を歩くときはかなり敵意の視線を向けられて、居心地が悪かったのだが。

 現在俺たちは、エルフの王都の王城まで通された。その城の一室でレマ将軍と話し合いをしているところだった。

「しかし、どのようなお姿になられようともお戻りになられたのはよかったです。もう死んでらっしゃるのかと思っておりました」
「すまんな。このような姿で帰ってもどうしようもないし、完全に呪いを解いてから戻ろうと思っておったんじゃが。今回の事態では見過ごせず来ることにした」
「そうですか……それで、その呪いをそちらの人間の方がお持ちになるスキルで、一時的に解けるようになったと」
「そうじゃ。名前はテツヤ・タカハシじゃ」
「テツヤ・タカハシさんですか。私はレマ・オーレドアと申します。この度はメク様の呪いを一時的にでも解いていただきありがとうございます。テツヤ様は人間であられますが、メク様が信用に値する者だとおっしゃったのでそれを信じることにいたします。よろしくお願いします」

 握手を求められる。

「よろしくお願いします」

 俺は握手に応じた。

「そちらの獣人の方も、メク様の友人との事ですが」
「友人ではなく弟子にゃ! あたしはレーニャにゃ。よろしくにゃ」
「お弟子さん……ですか。よろしくお願いします」

 レーニャもレマ将軍と握手を交わした。

「それでメク様……しかし、その呪いはいつ誰に掛けられたのです?」
「ある女に掛けられたのじゃが……今はそれについて詳しく話している暇はないじゃろう。わしらは勇者を討ちに来た」
「そうですか……メク様が来られるなら百人力でございます」
「今、勇者はどこにいる?」
「現在、ラクフェナを制圧した後、王都より南西にある、ブラクセルに進軍中との話です」
「ラクフェナからブラクセルへか、まだ遠いがもしかして、王都に向かって来るつもりなのか?」
「分かりません。いかんせん行動が読めなくでですね……攻めてくると思った場所が、ことごとく外れるのです」
「ふむ」

 たぶん、軍人から見たら、ただの素人である勇者の行動が意味不明なんだろう。適当に近くにあった城を攻撃しているとか、たぶんそんな理由なんだろうけど。

「勇者どもがブラクセルに着くまで、あとどれくらいじゃ?」
「7日ほどかかるかと」
「それなら間に合いそうじゃな。ブラクセルの救援に向かい。そこで勇者を討つ」
「勇者を討ちにいかれるのなら、精鋭兵をお貸しします」
「ぬ? わしこんな姿なのじゃが、付いてくるものはおるのか?」
「大丈夫でございます。皆、国への忠誠が厚い者ばかりでございますゆえ、私がきちんと説明すれば、必ずメク様の指示に喜んでしたがうでしょう」
「そうか、それなら良いのじゃが。何人ほど貸してくれるのじゃ?」
「100人お貸しします」
「ふむ、頼もしいのう。では出発は明日とするか」
「は! 大急ぎで準備を開始します!」

 レマ将軍がそう言って、準備を開始した。
 明日ここを経ち、ブラクセルという場所に向かうことになった。

 ブラクセルまでいくと決めた後の事。
 俺達はエルフの国、ファラシオンの女王に会うことになった。

 実は現在のファラシオン女王はメクの妹になるらしい。年齢は7つほど下だそうだ。
 レマ将軍が、女王様にメクの来訪を告げた所、今すぐ会うと言ったそうだ。

 俺達は女王の間まで通される。

 王座に女王が腰をかけていた。
 金色の長い髪。豊かな胸と白い美しい肌。豪華な服を着ており、頭には複数の宝石がはめ込ませた、サークレットをつけている。
 メクが元に戻った時の姿と非常に似た容姿で、姉妹であるということを感じさせる。

「おお……、サクよ……立派になったなぁ」

 メクが感動したように呟いた。何十年ぶりの再会なんだし、そりゃあ感動もするか。
 名前はサクというのか。メクと少し似ているな。

「その声は……姉上……どのような姿になろうとも、私には分かります……」

 サクさんも、感動したように震えている。
 彼女は立ち上がり、メクに向かって駆け寄る。

「姉上!」
「サク!」

 姉妹が感動の再開をして抱擁を交わす……と思ったら、

「今までどこいってたんじゃボケェええええ!」
「ぐへっ!」

 いきなり豹変したサクさんが、メクを思いっきり蹴飛ばした。
 蹴飛ばしたあと、全速力でメクが落下する地点まで移動。
 見事にキャッチし、

「てめぇ、どんだけ、わしが迷惑を被ったと思っておるのじゃ! やりたくもない女王なんぞやらされ、天才だとか史上最高だとか言われた先代の女王と比べられ、ストレスにさらされる毎日。三回くらい胃に穴が開いたんだよ! どうしてくれるんじゃこらぁ!」

 ボコボコとメクを殴りながら叫ぶ。

 えぇぇぇ!? 女王様こんな人だったの!? すっげーおしとやかで大人な感じだったのに、えぇ!? バイオレンス過ぎないかこれ!?

「待て待てサク! わしも好きでこんな姿になっとるわけじゃないし。だいたいさっきから殴っておるが、無駄じゃし。全然痛くないし。お主が疲れるだけだからやめとけ」
「うるさーい! だったら何でこんな姿になっとるんじゃ!」

 今度は地面に置いて踏みつけ始める。

「踏んでも無駄じゃて! 謎の女にやられたんじゃ! 決してわしは悪くないぞ!」
「この姿になっても戻ってくればよかったじゃろーが! その姿で女王やっておればよかったじゃろーが!」
「無理を言うでない! どこの世界にこんな珍妙な格好をした女王がおるというのじゃ!」

 疲れたのか女王様は肩で息をし始める。
 そして、俺たちの方を向いて。

「あら、お見苦しいところをお見せしました。私こそファラシオンの女王をやっております。サク・サマフォースといいます。よろしくお願いしますね」

 ペコリと大きく頭を下げて、サクは俺とレーニャに挨拶をした。

 さっきのアレは見間違いだったのでは? と思うほど、上品な挨拶だ。

 俺とレーニャは、呆気に取られながらも「よろしくお願いします……」「よろしくにゃ……」と挨拶を返した。

「全く相変わらずじゃのう、サクは。お転婆なやつめ」

 転がっていたメクが立ち上がりながらそう言った。
 やっぱさっきのが本性なのか。

「……まあ、姉者が戻ってきた事は嬉しいのじゃ……よく戻ってくれたのじゃ」
「すまんな……迷惑をかけて」

 今度こそ感動の再会の抱擁を交わした。

 その後、これからブラクセルまで行くという事で、女王様から激励を受けた。俺達は激励を受けた後、女王の間から出る事になったが、メクだけが取り残された。なにやら話があるらしい。まあ、積もる話でもあるのだろう。

 俺とレーニャは今日泊まる部屋まで行った。


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