19.噂を耳にする

2020年12月20日

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 翌日、俺たちはいつものように、ギルド一階で朝食を食べる。今日も俺たち以外の冒険者が、朝食を食べていた。

「ぐぬぬ……本当なら昨日わしも食べられたはずじゃのに……」

 メクは恨みがましい目つきで、朝食をとる俺たちを見ていた。昨日2分だけ元に戻った時、飯を食べるチャンスを逃したのをかなり後悔しているようだ。

「あと2日経てばまた元に戻れるんだからさ……」
「ぬー。2日が長く感じるのう。何十年とこの姿じゃったから、2日など何でもない時間のはずなんじゃが。何か待つものがあると、時間とは長く感じるものなのじゃのう」

 ぬいぐるみが人生経験豊富な老人みたいな事言ってる姿って、結構シュールだな、と俺は思う。

「アタシも早く師匠が元に戻った姿見てみたいにゃー」
「ふっふっふ、元のわし姿を見て腰を抜かさんことじゃな。テツヤなど、顔を真っ赤にして慌てふためいておったからのう」
「……今度からかったら、【解放】を使ってやらないと、言わなかったか?」
「す、すまんすまん。ついな。あまりにも面白かったからのう」

 それで謝ってるつもりか全く。そんなに面白かったかねー俺の狼狽えているところが。

 その後、俺たちは朝食を食べ終わり、

「今日は自由都市ヴァーフォルに行く準備をするんだったな」
「そうじゃの。ヴァーフォルまでは結構遠いし、危険な場所を通る必要があるから、準備を怠ってはならん。食料に水、途中で野宿する必要があるからその道具、色々必要じゃ」
「1つ聞きたいんだが、この町からヴァーフルまで、馬車で行ったり出来ないのか?」
「残念ながらないのう」
「そうか。じゃあ買い物しにいくかー」

 俺たちは買い出しに行こうとしたその時、近くの席に座って、朝食を取りながら談笑していた冒険者達が、

「そういえば、エルフの国ファラシオンに、勇者が攻め込んだらしいな。エルフと人間たちはそこまで悪い関係じゃなかったのにな」
「ああ、聞いた聞いた。何でもすでに城が2つくらい陥落したらしい。その勇者外道らしく、男と年寄りの女は皆殺しにして、若い女エルフを徹底的に集めてやがるらしい。胸糞わりー話だよなぁ」

 そんな会話をしていた。
 その会話を聞いたメクが、

「なんじゃと……?」

 と低い声で呟いたあと、男たちに近づいて、

「その話もっと詳しく聞かせろ!」

 と大声で言った。

「うわ、何だこいつ」
「なんかの魔法生物か?」
「詳しく話を聞かせるのじゃ! いつ勇者は国に攻めいった!? 何人で攻め込んだんじゃ!? 何で攻め込んだんじゃ!? 被害状況はどれくらいじゃ!?」

 メクは冷静さを失ったように冒険者達に向かって叫ぶ。

「いや、俺たちも噂で聞いただけだから、詳しい話は知らんよ」
「いつかは一応知っているな。10日くらい前じゃなかったっけ? しかし、たった10日で複数の城を落とすとは、勇者が恐ろしく強いって話は本当のようだな」
「しかし、なんでそんなに必死にエルフについて聞くんだ? 知り合いでもいるのか? 詳しい話は町の情報屋にでも聞けよ。じゃ、俺たちは急いでるから」

 冒険者達は去っていった。

 メクはその後、体を震わせながら、

「行かねば……」

 そう呟いた。

 メクは呟いたあと、1人で冒険者ギルドを出るために走った。

「待て! メク!」

 俺はメクを追いかけようとする。

「お主らは来るな! これはわしの問題じゃ! 巻き込むわけにはいかん!」

 メクがそう叫んだ。それでも俺は追うのをやめない。俺の方がメクより速いから、追いついて手を取って強引に動きを止める。

「1人で行ってどうするんだ! 俺たちも行く!」
「そうにゃ! 1人で行こうとするなんて水臭いにゃ!」
「今回の戦いは言うなれば人間との戦争じゃ。戦争にお主らを巻き込めぬ。人間であるテツヤはなおさら巻き込めぬ」
「メク1人で行っても出来ることは、限られているだろう!」
「……仮に何も出来なくても行かねばならぬ。わしはエルフの女王だったのじゃ」
「女王?」
「そうじゃ。まあ、今は死んだことにされておるだろうがの。
それでも女王として国の危機を見逃すことはできん」

 女王だったのかメクは。まあ何にせよ故郷の危機に奮い立たないわけはないだろう。しかし、当然1人で行かせては駄目だ。

「やはり俺たちも行く。メクだけに行かせるわけにはいかん」
「だからテツヤお主は人間じゃ。人間と戦うことになるにじゃぞ?」
「勇者は俺にとっても因縁の相手だ。そいつが大事な仲間の故郷に非道な真似をしているのを、放っておけるわけがない」
「そうにゃ! アタシは師匠がいなかったらとっくの昔にのたれ死んでたにゃ! その恩を返すときが来たのにゃ!」
「……お主ら」

 メクは少し考え込む、そして、

「……頼む、力を貸してくれ」
「任せろ」
「任せるにゃ!」

 こうして俺たちの次なる目的地は、自由都市ヴァーフルから、エルフの国ファラシオンに向かう事になった。

 ○

 まず向かう前に、情報屋から情報を買った。
 それなりに金がかかったが、有意義な情報を教えてくれた。

 勇者がエルフの国ファラシオンを攻め込んでいるのは、間違いないらしい。
 戦力は勇者を含めて100人程度だが、それでも勇者があまりにも強すぎるため、エルフは対抗出来ていないらしい。

 すでに城がいくつか陥落し、村もいくつか焼き払われたそうだ。

 話を聞いたあと、とにかく急いで向かう事にした。

 ファラシオンは人間の国の北側にある。俺たちがいた、メーストスの町からは北東方向にあった。

 行き方は、東に行くと死の谷がある。そこから北に行くと、死の谷にかかっている橋があるのでそれを渡る。

 その橋を渡って、北東方向に歩いて行くと、ファラシオンに辿りつく。
 距離は結構遠い。1日では着かないので、急いで準備を済ませて、俺たちは町を出た。

 そして、3日ほどひたすら歩き、とあるエルフ達の村に到着した。

「これは……」
「ひ、ひどいにゃ」

 俺は衝撃を受け言葉を発する事もできなかった。

 その村は焼き払われていた。家は焼け落ち炭化している。さらに地面にはエルフ達の死体がゴロゴロと転がっている。

 生で無残な死体を初めて見た俺は物凄く動揺する。何だこれは、現実の光景なのか?
 これは勇者の仕業なのか? 間違いなくそうであろう。
 なぜ地球のそれも同じ日本から来ているのに、こんなマネが出来るんだ。どこまで外道なんだ。

 怒りが徐々に湧き上がってくる。

「ゆ、許せん……」

 メクが怒りに震えながら呟いた。
 その後、メクは生き残りがいないか調べるが、生きているものはいなかった。まあ、皆殺しにされなくても、この惨状なら逃げ出しているはずなので、誰もいないか。

「一刻も早く行きたいところじゃが、奴らの居場所が分からぬ。王都まで行き情報を得るぞ!」

 メクは震えながら、怒りを必死で抑えるように言った。こんな光景を見ても怒りで我を忘れないメクは、凄い精神力を持っていると思った。

 その後メクについていき、王都まで向かった。

「いやーエルフの国を攻めて正解だったな」

 勇者武井駿は、城の最上階にあるイスにふんぞり返りながら座っていた。

 彼の傍には大量のエルフの女達が、首輪に繋がれた状態で佇んでいた。

「こんな大量にいい女を抱けたし、さらにエルフの野郎ども、よえー癖に意外と殺したら貰える経験値がすげーうめーんだよな。80超えてから殆どレベルは上がっていなかったけど、エルフども殺しまくったおかげで、90超えたんだよな。このステータスすげー伸びて今のステータスヤベェーまじで。今ならなにが来ても負ける気しねーわ」
「私共もシュン様のお強さには、驚かされるばかりです」

 駿の目の前には複数の部下達が跪いており、その部下の1人がそう言った。

 彼は自分のやっている行為を一切悪びれた様子もなく言った。
 駿は椅子から立ち上がり、

「さてと、そろそろ出撃するか。王都にいる女王はそれはもう絶世の美女らしい。早くそこまで侵略しねーと」

 そう言って城から出ようとする。

「あ、それとそこにいる女ども、飽きた。てめーらで好きにしていいぞ」

 駿はそう言い残して城を出た。

 ○

「王都についたな」

 俺達はしばらく歩いてエルフの国ファラシオンの王都に到着した。
 王都には門がありかなり厳重に警備されている。

「なあ、これって入れるのか? 俺、人間なんだけど」

 よく考えれば、そもそも人間の俺は今はエルフに恨まれる立場だろう。
 王都に入れてくれるとは思えないし、それ以前に捕まって処刑される可能性すらある。

「今はわしが2分だけだが元の姿に戻れるじゃろう。わしがテツヤが害の無い人間じゃと説明すれば、入れてくれるはずじゃ。何せわしはこの国の女王じゃったからのう」
「つっても結構昔の話だろ? メクのこと知っているエルフは今もいるのか?」
「エルフは長命の種族じゃ。まだまだわしのことを知っておる者も、大勢おるじゃろう」
「それならいいけど」
「では【解放】をわしに使ってくれ」
「わかった」

 俺は【解放】を使って、メクの元の姿に戻そうとする。

「お、やっと師匠の元の姿が見れるにゃん!」

 ようやくメクの姿が見れそうで、レーニャはわくわくしているようだ。

 そして、俺は【解放】を使い、メクを元の姿に戻した。

「よし、戻ったな」
「おー! すっごいきれいにゃん!」

 見たのは二度目だが相変わらず、すげー美人。やはりどうしても元の姿のメクといると、緊張してしまうな。

「じゃあ、行くぞ」

 メクが門に向かって歩いていく。俺たちも付いていく。
 門の前には武装した門番が2人立っている。

「メク・サマフォースがただいま帰還した! お主ら門を開けるのじゃ!」

 メクは門番の前に立ちそう言った。
 2人の門番は、メクの姿を見た瞬間、恐れひれ伏し門を開け……ず、はぁ? 何だこいつ? と言いたげな目でメクを見る。

「おい、お亡くなりなられた元女王様の名を語るとはどういう了見だ。ふざけているのかお前は」
「な、なに? わしがその女王様本人じゃ! 見たことないのか?」

 そうメクが言うとまたも何言ってんだこいつというような表情を2人の門番は浮かべて、

「あのな。戯言を言うのもいい加減にしろよ。現女王様に容姿的に似ているから、騙そうと思っているんだろ?」
「これ以上言うと不敬罪で捕まえるぞ」

 あのー、メクさん。自信満々で言ってたけど全然知られてないようなんですが……?

「……っていうか、貴様の後ろにいる奴! 1人はケットシーだが、もう1人は人間じゃないか!」」
「なぜ人間を連れてきた! 怪しい奴だ! 全員捕らえろ!」

 ちょ! 捕まえられる流れになってしまってるじゃん! やばいじゃん! かなりやばいじゃん!

「ちょっと待たぬか! わしは本当にメク・サマフォースじゃ! おぬしらが知らぬのなら、昔からおるエルフを連れて来い!」
「もう戯言は聞き飽きた! 後ろにいる人間ともども、一緒に来てもらう。まったく何をたくらんでいるのだか……」

 ど、どうすんだよメク! そう思いを込めた視線をメクに送る。メクもどうしたものか悩んでいるみたいだ。もうすぐで2分経つ、そうなるとどうしようもないぞ。
 捕らえられそうになった時、

「何を騒いでおる」

 誰かが来た。一際豪華な装備を身につけている女エルフだ。メクがその女エルフの姿を見た瞬間、「あやつは……」と呟いた。

「レマ将軍! 実は怪しいやつらが」
「ん? 怪しい奴ら……?」

 レマ将軍と呼ばれた女エルフが、メクを見たその瞬間。

「メ、メク様……?」

 信じられないものを見たかのような表情を浮かべて、呟いた。

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