24.ヴァーフォル

2020年12月20日

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 とある城。

「……駿のやつが?」

 勇者、大島弘は、駿が死んだという情報を耳にしていた。

「ええ、エルフの国を攻めて敗北、死亡したようです」

 側近である、アレベラスから弘は報告を受けていた。
 鎧を装備した男である。歳は二十台半ばくらいだ。

「……死亡」

 その言葉を聞いて、弘は俯いた。
 駿が死んだという事が悲しいからではない。
 死んだという事に恐怖を抱いた。
 もしかして、いずれ俺も? 彼はそう不安になっていた。

「弘様は私たちがお守りするので、ご安心ください」

 弘の不安な気持ちを察したのか、アレベラスがそう言った。
 だが弘は、こいつら俺より弱いんだから、安心なんか出来るかと、不安な気持ちは晴れない。
 楽観的な考えの多い、勇者たちだったが、唯一弘だけは、ネガティブな思考をよくするタイプだった。

(駿の奴も俺よりは弱かった。だからやられたんだ。俺は奴とは違って強い。やられないはずだ)

 そう思いこもうとしたが、不安は完全には消え去らない。

「ああー! クソ! どこか攻め込むぞ! 敵を倒しまくってレベルをもっと上げれば、流石に負けなくなるはずだ!」

 そう結論を出した。

「どこに攻め込みますか……?」

 アレベラスが尋ねる。

「そうだな。地図を持ってこい」
「はっ!」

 アレベラスが急いで地図を持ってくる。

「そうだな……よしここにしよう」

 地図を指差した。

「ここは守りが堅い場所ですよ?」
「俺が攻めるんだし、大丈夫だろう」
「……まあそうでございますね。しかし少々準備をしたいのですが」
「早めに済ませろよ」
「はっ!」

 弘たちが次に攻める場所が決まった。

 ○

 エルフの国ファラシオンを出て、俺たちはヴァーフォルへと向う。
 ヴァーフォルは遠く、長旅になるが、必要な道具は全てファルシオン王宮の人たちが用意してくれた。

 道中俺は、魔物を大量に吸収した。
 出会った魔物は、片っ端から倒して吸収していた。

 右腕の刻印を消すには、だいぶ時間がかかることだろう。
 あいつが言って来たことが本当であるならば、その間に必ず危機が訪れるだろう。
 深淵(アビス)の力に頼ってしまわなければならない状況を作らないためには、もっと強くなる必要がある。

 道中に出てくる魔物に、たいした奴はいなく、今の俺なら全て一撃で倒すことが出来た。

 ファルシオンを出てから三十日ほどで、ヴァーフォルに到着した。

「ここがヴァーフォルか」
「久しぶりに来たが、相変わらず大きな町じゃのう」
「人がいっぱいいるにゃん!」

 入り口に大きな門があり、中に入ると様々な種族の者たちが、通りを歩いていた。

 俺たちが滞在していたメーストスも、さまざまな種族がいた
 あそこをそのまま規模を大きくしたような町だ。
 ヴァーフォルでは見なかったような種族の者もいる。
 ゆっくり見物したいところだが、観光しに来たわけではないしな。
 それよりも、流石に長いあいだ歩いて疲れた。

「とりあえず、お主らは長旅で疲れておるじゃろうから、宿を見つけて休んでから、明日、図書館で、わしの呪いや刻印について調べて見るかのう」
「そうするか」

 俺たちは宿を探す。
 安めの宿を見つけて、そこに一泊した。

 翌日。
 俺たちは宿で疲れを取ったあと、メクの案内で図書館に来ていた。

「ここがヴァーフォルが誇る世界最大図書館、ヴァーフォル図書館じゃな」
「デカ……」
「大きいにゃ……」

 建物のあまりの巨大さに、俺とレーニャは気圧される。

 図書館という感じではなかった。
 巨大な城と言った方がいいかもしれない。
 これだけ大きい建物なら、色んな本があるだろうが……。
 しかし、調べ上げきれるのだろうか?
 三人では限度ある気がする。
 それ以前に門番がいるのだが、これって好き勝手入っていいようなもんじゃないよな?
 メクに尋ねてみよう。

「なあメク。ここって簡単に入れるものなのか?」
「金がかかるが一応誰でも入れるようになっておる。ただ全ての書物を読むことはできん。高度な情報を知りたい場合は、色々面倒じゃがのう」
「面倒って具体的にどう面倒なんだ?」
「この町の有力者に気に入られる必要がある。まあ、テツヤは強いしの。何とかならんでもないと思うぞ」

 有力者に気に入られるね。
 なるべく媚を売るみたいなことはやりたくはないな。
 それしか方法がないなら仕方ないけどさ。

「今日のところは、読める物の中なら探せばいい。最初から読める物も数は多いから、そう簡単に調べ上げることは出来ん。もっとも誰でも読める書物の中に、
 お主の刻印の情報であったり、わしにかけられた呪いを解く情報が書かれている可能性は低いがのう」

 とにかく最初は読める範囲から探して、この町の有力者とやらに気に入られて、高度な情報を知りに行くのがいいだろうな。

「じゃあ入るかの」

 俺たちは図書館に入った。
 値段は五ゴールドで、大した金額じゃなかった。
 門番から、注意事項を説明される。
 図書館内では騒ぐな。
 勝手に本を持ち帰るな。
 本を傷つけるな、などだ。

 破った場合、出禁になったり、多額の金を払わされるらしい。中にも警備兵がいて下手な真似はできないと念を押された。
 よっぽどトラブルが多いのだろう。

 この世界での識字率はあまり高くないので、字が読めるものはそれなりに身分の高いものだけだろうから、そこまで念を押す必要はないと思うんだが。

 図書館の中に入る。

 メクから、司書に本について尋ねてみろと言われた。
 呪いなどの情報が書いてある本はどこにあるのか、俺は司書に尋ねてみた。

 司書に案内され、本がある場所まで行く。

「結構呪いって書かれた本あるな」

 ざっと見、二百冊くらいその手の本がある。
 魔法やスキルで相手に与える呪いについて、書かれているようだ。
 メクのは呪いだからここでいいとして、刻印は正直呪いなのかどうかよくわからないので、ここでいいのかわからない。
 ほかにどこに行けばいいのかわからないので、とりあえず俺もここで調べることにしよう。

「全部読むのはきつそうだにゃー」
「この姿じゃ読むのは、なかなか面倒そうじゃな」

 俺たちは本を読み始めた。
 メクはぬいぐるみの姿だが、何とか本を読んでいる。かなり読みにくそうだが。
 レーニャは一応字が読める。メクが教えたわけではなく、記憶喪失だが、文字だけはなぜか最初から知っていたそうだ。

 ただ理解力には問題があるため、逐一メクにどういう意味なのか尋ねていた。

 そして数時間調べて、

「ないなー」
「お腹減ったにゃ〜」
「そうじゃな。今日のところは一旦出て、飯を食べに行くかのう」
「この町のご飯美味しいんだろうにゃー!」

 しかし金もそんなにないし、この町でも冒険者でもやる必要があるようだな。
 今日のところは、図書館を出て、飯を食べることにした。

 ○

「うまいにゃー!」

 近くの店で飯を食べていた。
 麺料理を出す店でラーメンみたいな料理が出てきた。
 味は俺の知っているラーメンとは、だいぶ違うのだが結構うまかった。

「そういえば聖女リコさまが、明日帰って来られるらしいわ」
「へー、ひとめお目にかかりたいものだな」

 聖女リコ?
 ファンタジーに定番の聖女ってのだが、リコって名前なんだな。何か日本人っぽい。

 ん?
 でも、リコって名前どっかで聞いたような……。

 あ、思い出した。
 深淵王に言われたんだった。
 同時期に発生した異端者って。
 要するに俺と一緒にこの世界に来た、あの女子高生の名前がリコなんだろう。

 偶然……と考えていいんだよな?
 そこまでこの世界に来て日も経ってないし、この短期間で聖女と呼ばれるようになっているなんて、流石に不自然だ。
 いや……彼女も俺と同じく特別なスキルがあるだろう。
 それを使えば不可能とは言えないか。

 これは一度その聖女リコって人を、見てみる必要がありそうだな。


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