第七話 カフス

2020年12月20日

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 ハピーは焦った表情で、出口に仁王立ちする男の名を呟いた。

「カフス殿……」

 カフスは、ハピーを鋭い目つきで睨み付ける。

「ハピー。なぜ裏切った」
「……ジェードラン殿には申し訳なく思っております」
「情でも湧いたか。その姫に」
「情……ではありません。マナ様に仕えるのが私の宿命であると思ったからでございます」

 その返答をカフスは鼻で笑った。

「ふん、その子供がジェードラン様より、主君としてふさわしいと?」
「間違いありません。なぜならマナ様は女神を超える、究極の存在であられるのですから」
「女神を超えた?」

 ハピーは興奮し鼻息を荒くして、

「そうです! 見て下さいこの真っ白なお肌と、可愛らしすぎるお顔立ち! 世界中の財宝や芸術品を集めても、マナ様の美しさには叶わないでしょう! 髪の毛も無類の美しさを誇り、一本で城が買えるほどの価値があると私は思います! そして、声も可愛らしく聞いただけで、悶絶しそうになるほどで、その上、匂いも良くて服に顔を埋めたくなります。畏れ多いので出来ませんが、理性が無かったらつい粗相をしてしまいそうになります!」

 自信の欲望をさらけ出した。

 それを聞いたマナは、全力で叫ぶ。

「き…………気持ち悪っ!!!!」

 何度かハピーを気持ち悪いと思ったが、一番気持ち悪いと思った瞬間だった。全身に鳥肌が立っている。

「姫に洗脳の能力が隠されていたか。あるいは頭でも打ったか……」

 カフスは、完全にハピーがいかれている思い、その原因を予想する。

(た、確かにおかしくなったのはアタシが魅了を使ってからだけど、でも隠してただけで元々おかしかったからそいつ! アタシのせいじゃないから!!)

 心の中でマナは言い訳をする。

「とにかく今の私はマナ様の忠実な下僕です。命令は必ず遂行します。そこをどいてください」
「通りたいのなら力尽くで通ればいい。まあ、不可能だろうがな」
「それはどうでしょう。カフス殿、今あなたは一人です。仲間と一緒に来たわけではないのでしょう?」
「ああ、足手まといの速度に合わせていたら、遅れたかもしれんからな」

 確かにあのカフスという男以外は誰もいないようだと、マナは出口を観察して気づく。

(あいつ翼が五枚の欠損翼……見た限り只者ではなさそうだけど、ハピーも翼は四枚あって一枚しか差が無いから、何とかなるかも)

 決して勝ち目はないわけではないとマナは思うが。

「仲間など必要はない。お前を倒すのに俺一人で十分だ。お前が俺に勝ったことが今まであったか?」
「確かにカフス殿は私より数段腕が立つ。翼の差は一枚なれど、今まで手合わせして勝てると思ったことは一度もございません」

 二人の話を聞いて、マナは焦る。

(え? そうなの? じゃあやばいじゃん)

「しかし今の私は普通の状態ではありません。大幅に実力が向上しております」
「……どういうことだ?」

 ハピーの話を聞き、カフスは警戒して目つきをさらに鋭くする。

「隠し通路を歩く際、途中でマナ様をお姫様抱っこしながら歩いていたといえば、分かるでしょう」

 カフスは、ハピーが何を言いたいのかがまるで分らず、沈黙する。

「……ここまで言って分かりませんか……即ちマナ様をお姫様抱っこをし歩いてきたことで、今の私はマナ様のパワーを全身に吸収し、実力が数段にアップしているのです。翼一枚の差など物の数には入りません!」

 堂々とそう宣言するハピーを、マナとカフスはしばらく沈黙しながら見つめる。

「だから、アタシにそんな効力無いから!!」

 マナは魂のツッコミを入れた。

「やはり頭の方に問題があるようだな」

 呆れたようにカフスが呟いた。

 ハピーは腰から剣を引き抜き、カフスに向かって駆ける。
 両手で剣を握り、全ての力を込めて剣をカフスに振るった。カフスは大剣で剣を受け止める。

「……ほう……確かに以前のお前より、太刀筋が鋭くなっている。ただの戯言というわけでもないようだな。だが」

 二人はつばぜり合いをする。額に青筋を浮かべ、必死に押し込もうとするハピーとは裏腹に、カフスの方はまだ余裕があるように見えた。

「ぐ……っ!」
「俺に勝つほどではない!」

 カフスは全力を込める。
 力負けしハピーは押し切られそうになり、たまらずつばぜり合いを避けて、横に転がった。

 カフスは力が強いだけではない。
 剣速、技術も達人級である。

 息つく暇をハピーに与えず、斬りかかる。

 体勢が悪く避けることは出来ない。ハピーは剣で剣を受け止めようとする。

 しかし、剣の威力があまりに高く、手から剣を離してしまい、弾き飛ばされてしまった。

「しま……」

 剣を拾いに行く暇など与えず、カフスはハピーの首元に剣を突き付けた。

 勝敗はわずか三十秒ほどで決した。

「動くな。姫に洗脳された可能性がある以上、すぐには殺さないでやる。だが、今動けばここで殺す」
「……」

 マナに忠誠を誓っているハピーに動かないという選択肢はない。

「例えここで死のうとも、マナ様のためならば本望です!」

 ハピーが動こうとした瞬間、マナが、

「動くなハピー!」

 命令をした。

 マナからの命令なので聞かないわけにもいかず、動きを止める。

「マ、マナ様、しかし……」
「ここで死んでも犬死だよ。それにどうせその男はアタシを殺せはしないんだ。絶対に動くんじゃない」

 マナの言葉は正しかったし、命令には逆らえないので、ハピーは動かずじっとする。

(こうなったら……アタシがこいつを魅了するしかない)

 ハピー以外の者にどれだけ効力があるのか、上手くいくのかはまだ未知数であるが、こうなったら魅了の力に頼る以外に方法はなかった。

 マナはまずカフスの目を見つめ情報を見る。

 名前 カフス・ファマント 20歳♂
 好感度-10 好きなタイプ 強い者 好きな物 自分の剣 趣味 なし
 性格 堅物 義理堅い 根は優しい

(えーと……好感度最初-なんだ……ハピーを洗脳したと思われているからなのかな……てか、情報が少ないというか……これで魅了って出来るの? ハピーみたいに簡単に魅了されてくれればいいけど……)

 マナはカフスの目を見続けて、カフスも鋭い目つきで睨み返してくる。
 目は合っているのだが、ハピーみたいに好感度が上がったりはしない。

 やはりそう簡単にはいかないと思っていたら、好感度が30上昇した。

(お!? 上がった!?)

 と思って期待したが、その後、上がることはなかった。

 なんで上がったのか原因が分からず、マナは戸惑う。

「子供であるが、俺の目を見て怯えぬか。中々肝は据わっているようだな」

(怯まなかったことが好感度が上がった理由か……これ以上は上がらないか……)

 好感度が20になったが、これではまだまだ足りない。

(でも、好感度上がったし魅了の力はちゃんと働いていると思う。正直、見ることのできた情報だけじゃ、何をすれば好感度が上がるのか分からない。強い人が好きって書いてあるから、強いところを色々見せていけばいいかもしれないけど、今のアタシは弱いから難しいだろうしな……何とか会話して好感度を上げる方法を見つけないといけないね)

 城に戻るまでカフスと一緒に歩くことになるだろう。
 その間に会話をして、魅了をしようとマナは決意した。

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