第十八話 ケルン

2020年12月20日

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「ケルンに会いたいか……」
「あまりおすすめは出来ませんね」

 ルルット城、城主のケルンの人格を知っているジェードランとカフスは、渋い表情を浮かべた。

「何か問題ある人なの?」
「知将として名高い女です。その頭脳を使って、色んな人間を罠に嵌めてきてのし上がってきたようですね」
「元は俺と同じく身分が低かった成り上がりものだ。まあ、成り上がり方が俺とは正反対のようだがな」

 二人の話が本当なのかは、会ってみないと分からないが、頭がいいだけなら大きな問題はないと、マナは思った。
 会話さえできれば魅了は可能なので、即殺しにかかって来ない限りは、魅了は成功するだろう。

 ハピーは、ケルンの話を聞いて会わせてはいけないと思い、

「そんな人とマナ様を会せたら何をされるか! やめるべきです! 危険です」

 そう主張した。マナはアンタが言うかと少し呆れる。

「……たぶん大丈夫だから、何とかそのケルンと会わせてくれない?」
「うーん……しかし、ケルンと俺に親交はないしな……ルルット城は、この国の北部に位置しており、バルスト城からも距離があるから、会ったことも少ない。まあ、あいさつ程度はあるがな」
「そうなんだ。でも、ジェードランってこの国の中じゃ実力者なんでしょ?」
「間違いなく実力者だ。俺以上の立場となると、飛王含め三人くらいしかいない。ケルンも下である」

 実力というのは、収めている領地の大きさ、人口、それから場所、政治的な影響力、色んなものを総合的に計算してのものだ。

 ジェードランの治める土地は、まず広大で生産力も高い。人口も多く兵の数も多い。
 城主のジェードランも、三対六枚の翼を持っているため、一目置かれている。
 相当な実力者であると断言して、間違いないだろう。

「ジェードランほどの実力者なら、そんなに会ったことのない遠くの城主でも、パーティーかなんか開けば、招待できるんじゃないの?」
「……むう。確かに俺ならば大勢の貴族を集めることが出来る。それに頭がいいとされているケルンを招待すれば、来てもおかしくはない。大勢の貴族が集まる席に出席して、コネを作ったり、情報を集めたり、色々メリットがあるからな」
「じゃあやってみて。お願い」
「いや……しかしだなぁ」
「マナ様、パーティーを開くのは、結構お金がかかるものでして……バルスト城にはそれほどお金の貯えがあるわけでなく……」
「出来ないの?」

 マナが悲し気な表情を受けべてそう聞いたので、ジェードランとカフスは言葉を詰まらせる。

「……やってやろう」

 マナの悲しい表情を見たくないと強く思っていしまっていたジェードランは、不本意ながらやると言った。

 マナは太陽のような笑みを浮かべて、お礼を言った。

「ありがとうジェードラン!」
「クソ……何で俺を言われただけで嬉しいんだ……」

 まだ自分の感情に納得のいっていないジェードランは、表情は不機嫌そうに、内心は嬉しい気持ちでそう呟いた。

 ちょうど一か月後が、ジェードランがバルスト城城主を務めるようになった日なので、それを記念して開くことにした。
 アミシオム王国中の城主や貴族たちに、招待状を送った。

 続々と参加を表明する書状が帰ってくる。
 国内有数の実力者であるジェードランの頼みなので、よほどジェードランを嫌っている者か、絶対に外せない大事な仕事のある者以外は、参加を表明した。

 そして、

「ジェードラン様、ケルン殿からの返答の書状が届きました」

 カフスが書状を持ってきた。

「来たか」

 書状を受け取り、ジェードランは中身を読む。

 そこにはぜひ参加したいという内容が書かれていた。

「成功しましたね」
「上手くいったのは良かったが……しかし、俺がパーティーか……」

 ジェードランはパーティーを積極的に行っている城主ではなかった。

 今の立場はほとんど戦場で勝ち取ってきた。口で何かを勝ち取ったことはない。

「マナ様の目的を叶えるためです。致し方ないでしょう」
「クソ……俺は飛王にならないといけないというのに……」

 悔し気にジェードランは呟いたが、もうマナを慕う事はやめられないと、心どこかでは気づいていた。


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