11話 帰還

2020年12月8日

     <<前へ 目次 次へ>>

「もう我慢ならン! ワタシはいくゾ!」
「アレサ! 落ち着くのジャ!」
「そうダ! オレたちがいってもどうにもならんゾ!」

 時刻は夕方。ゴブリンの村、中央にある広場。
 そこに村のゴブリンたちが、話し合いをするため、集合していた。

 内容は、オークたちの襲撃に関すること、それからベラムスのこと。
 ベラムスの母であるアレサが、助けに行こうとしているのを、ほかのゴブリンたちが必死に止めていた。

「ワシらが行ったところデ、オークには敵うまイ。ここはベラムスに賭けるしかあるまイ」

 村長がそう言った。

「賭けるっテ、ベラムスはまだ五歳だゾ!」
「確かにまだベラムスは幼い。しかし、オークをあっさりと倒したあの魔法……ベラムスには何か特別な力が備わっておるのジャ」
「それはそうだガ……しかし、ちょっと前まであんなに小さかったベラムスだゾ……」

 アレサは不安で不安で仕方ないみたいだ。

「どっちにしロ、オークの拠点がどこにあるのかわからないのでハ、いくことは不可能ジャ。腹をくくって待つしかなイ」
「グゥ……」

 アレサは唇をかみしめる。

 ほかのゴブリンたちも不安げな顔をしていた。

 ただ、ベラムスはどうせ死んでしまっているだろうから、この村は放棄していまのうち逃げてしまおう、と提案するものはいなかった。

「大丈夫だヨー。ベラムスは約束やぶらない子だもン。きっともうすぐ帰ってくるヨー」

 デラロサが明るい口調でいった。
 この場で唯一不安げな表情をしていないのはデラロサだけだった。
 彼女だけはベラムスが帰ってくると信じて疑っていなかった。

 そして、

「アー。ベラムスダー!」

 デラロサが明るいトーンでそう言いながら、かけだしていった。
 ほかのゴブリンたちも驚いて、村の入り口のほうを見る。

 そこには、後ろに一体のオークを引き連れている、ベラムスの姿があった。

「オカエリー」

 デラロサがベラムスに近寄りそう言った。

「ただいま戻った」
「そのオークはなニー? お友達になったノー?」
「いや、こいつは……」

 説明しようとすると、

「ベラムス!」

 アレサが名前を呼びながら駆け寄ってくる。ほかのゴブリンたちも遅れて駆け寄ってきた。

「オマエ、無事デ……そのオークはなんダ!?」

 ゴブリンたちはオークのバルボラに怯えているので、ベラムスは事情をすべて説明した。
 そして、オークに謝らせたあと頭を下げさせる。

「ソ、村長。オークのやつはなんて言っテ、頭を下げてるンダ?」
「ゴブリンを侮辱したこト、ゴブリンを殺そうとしたこト、どちらもすまなかったト……」

 ザワザワとゴブリンたちが騒ぎ出す。

「本当に敵のボスを倒したのカ!?」「あのオークが謝っていル!?」「この村に攻めてくることは、なくなったのカ!?」「ベラムスはやっぱリ、ただものじゃなかっタ……」

 ゴブリンたちが騒いでいるなか、

「やっぱりアタシの言うとおりだったでショ!」

 と、デラロサが誇らしげに言った。

「それにしてモ、ベラムス。オマエなにも言わずに飛び出すなんテ、無茶なことしやがっテ。ワタシがどれほど心配したト……」

 そう言ったアレサは、怒り半分喜び半分という複雑な心境だった。

「無茶ではない。高い勝算があったから私はいったのだ。心配をかけたのはすまなかった」
「相変わらずオマエハ……」

 澄まして表情を変えないベラムスを見て、アレサは若干呆れる。

「まあいいジャロ。すべてうまくいったんジャ。きょうは宴を開くとしよウ!」

 村長がそう宣言した。

 その夜、ゴブリンたちは、ベラムスが無事帰ってきたことと、オークたちの襲撃を防いだ祝いとして宴を開いた。

 ちなみに宴には、オークのバルボラもなぜか参加。
 最終的に被害を受けずにすんだからか、ゴブリンたちは根に持たないタイプなのか、オークにたいして怒りを持っているものはいないようだった。

 ただバルボラは、常にベラムスが近くにいて目を光らせているため、借りて来た猫のように身を縮こまらせている。あまり居心地はよくないようだった。

 そして宴は終わり、いろいろあった一日が終わった。

     <<前へ 目次 次へ>>