第20話 危機

2020年12月20日

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「動くなよリーチェ」

「分かってるよ」

 登録ルームを目指しアジトを歩き続けるリーチェとパナの2人。
 現在、ゴーレムの足音が聞こえてきたので、物陰に隠れてやり過ごそうとしているところだった。

 ゴーレムが通りすぎる。それを確認して2人は隠れるのをやめ、再び歩き始めた。

「……あとどれくらい?」

「もう少しだ」

「……もう少しで」

 歩いた距離はそこまで長くないのだが、身をかがめて慎重に気を張りながら歩いていたので、肉体的にも精神的にも疲労は大きかった。

 しかし、もう少しで着くと言うのなら、今ここで弱気を吐くわけにはいかない。リーチェは気合を入れ直して、歩き出した。

 その1分ほど後。

 ズシーン、ズシーンとゴーレムの足音が聞こえてきた。

「またゴーレム……」

 さっきゴーレムがいたのに、またか……とリーチェは少しうんざりしたような口調で呟いた。

「だいぶ登録ルームに近づいている証拠だ。登録ルーム周辺にはゴーレムが少し多く配置されているからな」

「そうなんだ」

 それを聞いてリーチェは少しだけ機嫌が良くなる。

「とにかくゴーレムは近づいてきているから、物陰に隠れるぞ」

「うん」

 2人は近くに物陰がないか探す。大きな石像が置かれていたので、2人はそれの後ろに隠れた。

「通り過ぎるまで動くなよ」

「何度も言われなくても分かってるって」

「お前ちょっと本当に分かっているのか怪しいんだよな」

「なんだと、失礼な」

 ゴーレムがだいぶ近くに来たので、これ以上無駄口は叩いていけないと思い、2人は黙る。
 そして、ゴーレムが結構近くまで来たと言う時、

「ん?」

 パナは足元で何やらもぞもぞという感覚を感じたので、足元を見てみる。

 すると、そこには……

 ゴから始まって、リで終わる黒光りして見ただけで生理的嫌悪と恐怖が同時に湧き上がってくる、嫌われ者の虫がいた。

 パナはそいつを見た瞬間、基本クールであまり変化しない表情を珍しく青ざめさせ、

「ひゃあ!」

 と普段では考えられないほど、女の子らしい悲鳴を上げながら、その虫から逃げた。

「パ、パナ!?」

 リーチェが困惑して、パナを見る。足元を見ると例の虫の姿がある。こんなのにビビるのかと思いながら、リーチェは剣でGを斬り殺したが、それどころではないことに気づく。

 ブオオオオオオオオ!! ブオオオオオオオオ!!

 黒光りする例の虫から逃げたパナが、ゴーレムに見つかってしまう。

「しまっ……!」

 パナは音を聞いて正気に戻る。
 かなり近い位置にゴーレムがいる。

 2メートルは超える巨大な岩の体。頭はゴツく少し光を放つ目が2つある。

 そのゴーレムがパナに向かってパンチを放ってきた。

(や、やばい!)

 焦って対処が遅れる。これは当たる。当たって死ぬ。
 一瞬で自分の死をパナは連想した。

 しかし、パナの連想通りにはならなかった。

 リーチェが刀で、ゴーレムの拳を受け止めたからだ。
 右手で柄を左手で峰の辺りを掴み、なんとか刀一本でゴーレムの大きな拳を受け止める。

「ぐぐぐぐぐううう……!」

 かなりキツそうな表情をしながらも、リーチェは何とかゴーレムの拳を受け止めた。

「パナ! 早く!」

 リーチェは真後ろにいるパナに、逃げるように言った。
 パナは慌てて後ろからどく。

 パナが退いたのを確認して、リーチェは思い切り横に飛んだ。

 パンチを受け止めていたリーチェがいなくなり、ゴーレムのパンチがリーチェの後ろにあった石像に直撃する。
 石像はパンチを受け壊れる。そのまま倒れてゴーレムの頭に落下した。
 その衝撃でゴーレムの動きが、一瞬停止する。
 リーチェとパナはその隙を突き、ゴーレムの側を通り抜け逃げ出した。

 ゴーレムは少しすると動き出し、リーチェとパナの2人を追いかけ始めた。

「なんで助けた! あのまま隠れていればお前は無事見つからずに、済んでいたかもしれなかったんだぞ」

 走りながらパナはそう叫んだ。

「目の前で死にそうな人を放っておけるわけないでしょ!」

「お前、私のこと嫌いじゃなかったのか!?」

「BBCの奴らに従おうとしているパナは嫌いだったよ! でもこうして抗おうとしているパナは嫌いじゃない!」

「そうかい」

 少し照れ臭そうにパナは言った。

「それと、ゴキブリなんかで怖がっているパナは、意外性があって可愛かったなぁ」

「う、うるせぇ! あの虫だけはどうしてもダメなんだよ!」

「アハハハハハ」

 パナの反応を見て、リーチェは楽しそうに笑う。

「……で、今って結構やばい状況?」

 笑い終わった後、リーチェはパナにそう尋ねた。

「まあ、やばいが ……目的は最初と変わらん。登録ルームに行って、登録装置に登録すれば、ゴーレムの攻撃対象にはされなくなる。ただし、さっきの警報でBBCの連中も起きてしまっただろう。いくら登録してもゴーレム以外の連中には通用しないし……奴らが来るまで早めに、登録ルームに行って脱出しないとな」

「う……うん!」

 かなりヤバそうな状態ではあるが、まだ希望が完全になくなったわけではないと分かった。
 リーチェとパナはとにかく走りながら、登録ルームを目指す。

「ゴーレムだ!」

 前方からゴーレムの足音が聞こえてきた。
 後方からは先ほどのゴーレムが迫ってきており、道は一本道、道幅もあまり広くない。

「ヤバババ!」

 袋小路の窮地に、リーチェはかなり焦る。

「っち、使うしかねーか」

 パナは懐から何かを取り出す。
 赤い岩だ。

「それって爆岩!?」

「連中からくすねてきたんだ。いざという時は使えるだろうと思ってな。まさに今が使いどきだ。おい耳ふさいどけよ」

 パナは取り出した爆岩を、前方から来ているゴーレムに投げつけた。パナは投げたあと、耳を塞ぎ、リーチェも同じように耳を塞ぐ。
 爆岩がゴーレムにぶつかった瞬間、大爆発する。

 アジトを大きく揺らすほどの衝撃と音が発生する。

 爆発の威力はかなり強く、爆心地にいたゴーレムは粉々に砕け散った。爆発で飛び散ったゴーレムの破片は何とか回避に成功して、2人は無傷だった。

「急いで先に行くぞ!」

「うん!」

 2人は再び走り出して、ひたすら登録ルームを目指す。

 そして、しばらく走り、

「この部屋だ!」

 道の脇に扉があった。上に登録ルームと書かれている。

「さっそく入るぞ」

「うん!」

 2人は登録ルームに入った。
 すると、

「……てめーだったか、パナ」

 登録ルームの中には、アジトのリーダー、ペルストが鬼のような形相を浮かべて佇んでいた。

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