第21話 シン戦

2020年12月20日

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 ペペロン達はアジトに侵入し、順調に奥へと進んでいた。

 警報が鳴り、ゴーレム達が一箇所に集まっていき、ほとんど敵と出くわすことなく進んでいた。
 たまにゴーレムに出くわすこともあったが、1体だけなので、警報を鳴らされることなく一瞬で処理し、先に進んでいた。

「さて、もうそろそろ、登録装置がある部屋、登録ルームに到着する」

 しばらく進んで、登録ルームのだいぶ近くまで来ていた。

(そろそろ奴が来るか……? 向こうに行く可能性もあるが……)

 ペペロンは警戒を強め歩いていた。
 このアジトにはペペロン達でもある程度、倒すのに手間取る可能性のある、とある敵がいる。
 それがそろそろ出てくるのではないかと、警戒をしながら歩いていた。

 すると、前方から、ダダダダダ! となにかが走ってくるような音が聞こえてくる。徐々に音は大きくなってきており、ペペロン達の元に近づいてきているようだ。
 数秒経つと走っている者の姿が見える。

 和服を着た長い黒髪の男が、腰に装備した刀の柄に手をかけながら、走ってきている姿があった。男の額と両方のこめかみから角が生えている。
 人間の男と同じくらいの大きさの、2体の戦闘用ゴーレムが、男の両脇を走っている。このゴーレムも男と同じように和服を着ており、刀を装備している。

 三角鬼のシンだ。後ろに付いているゴーレムはサコンとウコンだ。サコンは男の左側を、ウコンは男の右側を走っている。

 シンはこのアジトの用心棒的存在で、普段は眠っている。一定以上の強さを持つ敵が、登録ルーム付近に近づいた場合、それを感知する能力を持っている。その能力で敵を感知した瞬間、シンは目を覚まし、ゴーレムを2体召喚した後、全速力で侵入者を排除しにいく。

 ものすごい強さを誇っており、かなり厄介な敵であり、ペペロンもシンの存在をだいぶ警戒していた。
 もしかしたら、ファナシア、ポチがいる方へ行った可能性もあるとペペロンは思っていたが、予想は外れたようだ。

(無駄に時間を喰うことになるけど、襲われたなら倒すしかないな……)

 本当は結構強いため、相手にしないで済むなら、相手にしないつもりではあったが、こうなっては逃げる事は難しい。
 ペペロンは剣の柄を握り、応戦の構えを取る。

 シンが居合斬りを仕掛けてくる。かなりのスピードだが、ペペロンも剣を瞬時に抜いて対応する。

 ゴーレムのサコンとウコンも攻撃してくる。サコンの攻撃をララが、ウコンの攻撃をガスが受け止めた。

「ララはサコンを、ガスとエリーはウコンを、私はシンの相手をする。エルフ達はララと、ガス、エリーを弓で援護してくれ、私に援護は必要ない」

 ペペロンはそう命令した。
 命令を聞いた部下達は一斉に了承の返答をした。

(さーて、相手はシンか。まあ、強い相手ではあるが……勝てない相手でもないか)

「久しぶりの強者。胸が踊る」

 シンはそうボソと呟いた。ゲームでは金を稼いだりするためにBBCに所属しているんではなく、強いやつと戦いたいという理由で所属している、という設定だった。現実となっても変わってなさそうだな、とペペロンはシンの呟きを聞いて思った。
 ちなみに強者と戦うというのが、シンがBBCのアジトにいる理由なので、彼が敵を見つけても警報がなることはない。戦いの邪魔をされても困るからだ。

「一の太刀。兜割」

 シンはそう呟きながら、刀を上段に構える。そして、地面をひと蹴りして、一瞬でペペロンに接近し、頭めがけて刀を振り下ろしてきた。

 これをまともに受けるのは、少し危険だと瞬時にペペロンは判断し、回避する。

 ほぼフルパワーで刀を振り下ろしたから、隙ができるはずだとペペロンは思ったが、シンは一瞬で態勢を立て直し隙を作らない。

 その後、シンは「フォー・アームド」の魔法を使う。一定時間腕を四本増やす魔法だ。シンの腕が四本増え六本になった。その魔法を使った直後、「クレナイ」の魔法も使う。体力を消費して、血で作られた刀を作り出す魔法だ。この刀で相手を切ると、体力を吸収することが出来る。
 その刀をシンは同時に五本作成する。体力の多いシンなら、そこまで痛い消費にはならない。

 シンは五本の刀を全て持つ。元から持っていた名刀『マサムネⅢ改』と合わせて六刀流となった。

(来たな面倒なのが……)

 相手が刀を六本持っているというのは、結構めんどくさい。下手くそならいいが、シンの場合は巧みに使いこなしてくるので、かなり厄介だ。

 本来なら魔法を使って、強化してから応戦したいところだが、現在使用可能な魔法は限られている。

 高レベル戦闘で使い物になる魔法は、ブリザードくらいしかない。
 他の魔法は、シン相手では使ってもそれほど効果はないだろう。

 結構面倒な状況にペペロンは心の中でため息を吐く。

(ま、別に勝てないわけではないけどな)

 そう思ったペペロンに、

「六刀・乱れ斬り」

 シンが攻撃を仕掛けてくる。

 巧みに六本の腕を操り、ペペロンに斬撃を次々に繰り出してくる。
 ペペロンはその攻撃をすべて受け止める。

 僅か数秒のタイミングの間違いも許されないが、完璧にペペロンは防ぎきる。

(普通なら、死ぬかもしれない恐怖で、精度が落ちそうなもんだけど、冷静に動けてるな。やっぱスキルのおかげで、動じにくくなっているんだろう)

 冷静にそう分析する余裕すらあった。

 そして、敵が一旦、乱れ斬りをやめて、後ろに下がろうとする。

(今だ!)

 ペペロンはそのタイミングを読みきっていた。相手がどのくらい攻撃をしたら、スタミナが切れてきて、一旦攻撃をやめてくるか、そのタイミングが分かっていたのだ。

 防御を9割がた捨てて、ペペロンは全力でシンに斬りかかる。
 狙いは首。即死させる事が狙いだ。

 しかし、僅かに狙いがずれて肩口の辺りを斬ってしまう。
 シンの肩口から多くの血が噴出してくるが、肩なので即死まではしない。

(あ、やべ)

 一撃で殺せなかったのはかなり手痛いミスである。シンは肩口を攻撃されたあと、痛みに怯む事無くペペロン叩ききろうと、刀を振る。防御を捨てて攻撃したペペロンはだいぶ隙がある。

 もう少しで斬られるというとき、地面をくるりと転がって何とか難を逃れる。小さい体が上手く生き、回避に成功した。
 転がったあと瞬時に起き上がり、シンの首を再び狙い斬るがガードされる。

(危ない危ない。死ぬ所だった)

 生死の境を彷徨うような戦闘でも、ペペロンの心は揺れ動かない。いたって冷静なままだ。

(元の体だったら腰が抜けて動けなくなってたはずだよな。俺、基本へたれな男だし。冷静スキルには感謝しないとな)

 ペペロンがそう思っていると、

「貴様みたいな強者とやるのは、初めてである。実に楽しい戦いだ」

 こっちは別に楽しくはないから、さっさと殺されてくれと、ペペロンは思うが口には出さなかった。

「とっておきを出すとしよう」

(とっておき?)

 シンに何か奥の手があるという話をペペロンは聞いた事はなかった。
 もしかして、ゲーム時代と、現実となった今とでは、持っている技に少し変化でもあるのだろうか? 
 それはさらに面倒な事になるな。いや、面倒ではすまないかもしれない。対処を誤って死ぬ事もあるかもしれない。何せはじめてみる攻撃となるだろう。確実に対処できる保障など何処にもない。

(……つっても、何年俺がマジック&ソードやってるんだって話しだし……心も冷静なままで、実にいいコンディションの今、何が来ても対処できる自信はある)

 ゲームと現実とでは違う事もあるだろうが、それを考慮してもペペロンは自分の戦闘の腕に自身を持っていた。

「シックス・マジック・アームズ」

 シンがそう言った瞬間、6本の腕が、宙にフワフワと浮き始める。
 さらに、その腕、全てに「クレナイ」で作った血の刀を持たせる。

 元の六刀にさらに六刀加わった。

(十二刀流……これは流石にやば……)

 シンは浮かんでいる腕を動かして、ペペロンを同時に攻撃する。

(くはないな)

 ペペロンはニヤリと笑みを浮かべ、

「ブリザード!」

 といい魔法を使った。白い氷の息吹が発生し、腕たちを
 包み込む。氷の息吹に当たった腕たちはかちんこちんに凍りついた。

 シン自体にも息吹は当たったが、彼は平気なようだ。腕は凍ったのにシンが凍らなかった理由は、シックス・マジック・アームズで作成した魔法の腕には、氷属性に対する耐性がないが、シン自体は高い氷属性耐性を持っているからだった。

(恐らく俺が魔法を使ってなかったから、使えないものだと思い込んでいたのだろう。残念だったな)

 ペペロンはそう推測する。腕たちを凍らされて、シンが大分動揺する姿を見ると、ペペロンの推測も当たっているようだった。

 シンは予想外の対応と、魔法で刀と腕を作った際の疲労で、少しだけ隙ができていた。

 滅多にない隙を見逃すペペロンではない。
 一瞬で距離を詰めて、シンの心臓部分に剣を突き刺した。

「がは……! 見事……」

 シンは最後にそう言って、大量の血を胸から流し、絶命した。

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