16.グレーターデーモン

2020年12月20日

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 な、なんだこいつは?
 入る時はいなかったよな? 外から来たのか?

 かなり強そうに見えるが、どうなんだろうか?
 俺は鑑定を使ってみる。

『グレーターデーモン。個体名:リーザース。Lv.88/88 11112歳♂
 HP 642/642
  MP 499/499
 高位の悪魔。平均的な限界レベルが高く、非常に強力。さらに多彩なスキルを持つ。
 闇属性の攻撃を得意とし、光属性の攻撃は弱点となる。』

 ……レベル88!?
 HPやMPも俺より全然高い。
 ほかのステータスや所持しているスキルは分からないけど、俺より強い敵なんじゃ……

「あ、あれはグレーターデーモンか……? 何故こんな所におるのじゃ……」

 メクは驚愕しているようだ。知っているのかあいつを。
 普通こんな強い奴が、この洞窟に出る事はないらしい。

「ど、どうするにゃ? 何となくわかるにゃが、あれめちゃくちゃ強いにゃ」

 レーニャも怯えている。

 黒騎士ほど絶対的存在には見えないが、かなり強いのは間違いないだろう。
 幸い、奴は俺たちの存在に気付いていないようだ……
 立ち去ってくれればいいが……

 今日の俺の運勢は良いっぽいから、素直に立ち去ってくれるはず。

「さて、来たようですね。仕事をしなくては」

 グレーターデーモンが、視線をいきなりこっちに向けて、そう言ってきた。

 おい! 見つかったっていうか、最初から見つかってたのか! 気づいたそぶりは見せてなかったのに。

 グレーターデーモンは、俺のいる場所に向かってゆっくりと歩いて来る。
 俺は身を身構える。

「初めましてこんにちは。ワタクシはグレーターデーモンのリーザースと申します」

 深々とお辞儀をしながら、自己紹介してきた。
 何だこいつ。こんな禍々しい顔をしておきながら、意外と礼儀がいい?
 もしかして、襲ってこないのか?

「皆様に用があって参りました」
「なんの用で……?」
「ワタクシを召喚した者からの要望で、皆様より頂戴したい物がございます」
「な、なんでしょう?」

 俺は苦笑いしながら尋ねた。悪魔は少し笑みを浮かべて、

「魂です」

 そう言った。その直後、俺に襲い掛かってきた。
 俺は咄嗟に後ろに下がって避ける。

 ちくしょう! やっぱり襲ってくるんじゃねーかよ!
 誰の要望で俺達を狙う!? 何か人に恨まれるような事したか!?
 された覚えはあるが、した覚えは無いぞ!?

 文句を言っていても仕方が無い。
 問答無用な感じだし、会話も無駄だろう。

 逃げ場も無い。

 戦うしかない。

「レーニャ! 【獣化ビースト・モード】と【肉体強化フィジカル・アップ】を使うのじゃ! 協力してかかれば、勝てぬ敵ではない!」
「分かったにゃ師匠!」

 メクも戦うという、結論を出したようだ。さっそくレーニャに指示を出す。
 いきなり【獣化】を使わせたという事は、とにかく短期で決めにいくつもりか。

 レーニャが【獣化】を使用し、虎の姿になる。
 俺はそれに合わせて、剣を引き抜き、グレーターデーモンのリーザースに斬りかかった。
 あっさりと爪で受け止められる。それでも俺は何度も剣を振り攻撃。

 一応、独学でだが剣の練習をしていたため、それなりに扱いは上手くなっている。

 俺の連撃に相手も反撃をする隙がないようだ。
 そして、レーニャが横からリーザースの腹を鋭い爪で切り裂こうとする。
 リーザースはいったん大きく後ろに下がり、レーニャの攻撃を回避した。

「ふむ。そちらの方、限界レベル1なのに、良い動きをなされますね。ステータスが気になりますが、ワタクシの【鑑定】では、レベルと簡単な説明までしか確認できませんね」

 こいつ鑑定を持ってやがるのか。

 豊富なスキルがあるって書いてあったしな。

 光属性が弱点とも書いてあったけど、光属性の攻撃手段なんか持っていない。
 弱点を突いて攻略する事は不可能か。

「ワタクシはあまり接近戦は得意では無いので、これからはスキルを使って戦わせてもらいますね」

 リーザースはそう言った。

 俺もスキルを使おう。【炎球フレイムボール】のスキルを使おうとしたその瞬間、

 視界がいきなり真っ黒に染まった。

 なにが起こった? 俺は首をキョロキョロと動かすが何も見えない。どういうことだ?

「テツヤ! 前じゃ!」

 後ろからメクの声が聞こえてきたと思った瞬間、俺の胸の辺りに大きな衝撃が走る。
 何かがぶつかってきたような衝撃だ。俺は後ろに派手に吹き飛んだ。

 な、なにが起こった……?

 致命傷ではなかったようだが、胸の辺りに強い痛みを感じる。

 思えば、あまりダメージというものを受けてなかったので、久々にここまで痛みを感じた。

 起きると視界は戻っていた。
 何だあのスキルは……?

「生きていますか。かなり丈夫なのですね。今ので普通なら上半身が吹き飛びますのに」

 なにやら物騒な事を言っている。

「何をされたんだ俺は?」

 メクに聞いてみた。

「わしの予想では、【闇眼ダーク・アイ】で一時的にお主の視界を奪って、その後、【闇爆ダーク・ブラスト】で、お主を攻撃して来たのじゃろう。悪魔の常套手段じゃ」
「視界を奪ってくるのかあいつ……かなり厄介だな」
「【闇眼】を回避する方法は効力の範囲外に出るしかなく、非常に厄介なスキルじゃが、その半面、連発できぬという欠点がある。恐らく次使うのに3、4分はかかるじゃろう。奴も本来は先ほどの攻撃で一撃で仕留めたかったはずじゃ」

 なるほど、じゃあ、あれを防げたのは、奴にとっては想定外だった可能性があると。

「ふむ……久々に倒しがいのある敵ですね……次は何をしましょうか」

 攻撃手段を少し考える仕草をリーザースはする。

「奴を倒すのなら、とにかく近づいて、連撃してスキルを使う隙も無く倒すのじゃ。何か使わせてしまったら、非常に厄介な事が起こりかねぬ」

 俺はメクの作戦を聞き頷いた。
 そして、レーニャと目配せし合図を送りあう。

 そして、同時にリーザースに飛び掛った。

 リーザースは、反応し、後ろに下がる。
 やはり接近戦は望んではいないようだ。

 俺は【雷撃サンダーショック】をリーザースに撃つ。
 電撃を受けたリーザースの動きが僅かに止まる。

 相手が逃げ切れないよう、俺がリーザースの後ろに回り込み挟み撃ちにする。

 リーザースは、咄嗟に俺のほうに向き、俺の攻撃の方に対処する。俺の攻撃の方が脅威と見たのだろう。俺の剣撃は防がれる。だが、レーニャの爪による攻撃は受けたようだ。攻撃が当たり、「ぐうっ」と呻き声を漏らす。

 鑑定でリーザースのHPを見てみる。590/642。HPが52減っている。攻撃はきちんと通った。そこまで防御力は高くないみたいだ。でも、かなりレベル差があるのに、普通にダメージを与えられるとは、レーニャの【獣化】と【肉体強化】の二つのスキルはかなり強力なのかもしれない。

 とにかく、敵が反撃出来ないよう攻撃しまくらねば。
 俺は距離を詰め、何度も何度も連続で斬りまくる。レーニャも同じように、かなり攻撃する。

 リーザースは防戦一方。ある程度対処するが、全ての攻撃に対処しきれない。HPが徐々に減っていく。たまに俺の攻撃が当たると、結構減る。悪魔はHPとMPは高いがほかのステータスは、あまり高くないのかもしれない。

「っぐ……少し侮っていましたね」

 リーザースは苦しそうに呻く。

 奴のHPは残り200程度、これならいける。倒せるぞ。

「……仕方ありません、ここはアレを使うしかないようです」

 何だアレって? と思ったが、気にしたら負けだ。俺たちは攻撃を続ける。

 すると、

「【解放リリース】」

 とリーザースが言った。その瞬間、リーザースの体が一回り大きくなった。

 とっさに鑑定してみる。すると、奴のHPとMPが二倍になっていた。どういうことだ?

 とにかく、攻撃の手を緩めてはいけない。おれはリーザースの足元を狙って斬りかかる。なぜか避けずに俺の剣撃をリーザースは受けた。攻撃は足に直撃したのだが、おかしい、一切痛がる素振りを見せない。効いていないのか? 鑑定してみると、3ぐらいしかHPが減っていない。

「悪魔はですね。地上に出るさい、色々と力に制約をかけられるんです。【解放】はそういった制約を一定時間解除出来るスキルなんですね。まあ、ざっとステータスは通常の倍になっております」

 他のステータスも倍になっているのか……!
 俺の剣撃では、まともにダメージが通らないのか。

 レーニャが後ろから攻撃を仕掛ける。
 まずい、今のこいつに攻撃したら!

 リーザースは軽く手で振り払うような動作で、レーニャを攻撃。

「にゃー!」

 攻撃を受けたレーニャは、勢いよく吹き飛んだ。かなりのダメージを受けたようで、【獣化(ビーストモード)】が解けて、猫の状態になる。
 鑑定をして見てみると、HPが10分の1まで減っていた。死んではいないようだが、大ピンチだ。

「クソ!」

 俺は焦りながら、リーザースを攻撃する。レーニャをもう一度攻撃されるわけにはいかない。

 先ほどより、力を込めて剣を振る。
 しかし、スピードも強化されているリーザースは、それを軽く避けて、

「安心してくださいよ。まずは、あなたから殺してあげますので」

 と言いながら、俺の腹に蹴りを入れてきた。俺は後ろに吹き飛び、仰向けに倒れる。
 腹に激痛が走る。腹を押さえ、「うぅ……」と呻き声を上げながら立ち上がった。すると、闇の塊のようなものが飛んできて、俺の顔に直撃し、爆発した。
 焼け付くような痛みが上半身を襲う。
 痛みで意識が少しずつ遠のいていく。

「強化された、ワタクシの【闇爆】を食らっても、まだ息がありますか。本当に頑丈ですね」

 勝てない。
 こいつには勝てない。

 息があると言っても、もう虫の息だ。立ち上がることもままならない。

 クソ、やっぱりここは理不尽だ。何でこんな奴が俺を狙ってくるんだ。
 ちくしょう。

「まあ、しかし、もう立てないようですね。今楽にして差し上げます」

 リーザースがそう言って、ゆっくりと近づいてくる。
 死ぬのか……ここで……

 俺が死んだらどうなる。
 メクは死ぬのか分からないけど、レーニャは確実に殺される。

 そう考えると、自分が死ぬという事実よりも、抵抗を感じた。

 諦められない。

 俺は、必死で力を込めて立ち上がろうとする。
 だが、体が言うことを聞かない。

 動け足、手! こんな所で死ぬわけにはいかねーんだよ!

 心の中でそう叫んだ直後、

 いきなり視界が真っ黒に染まる。

 なぜか倒れていたはずの俺は、周囲が真っ黒く染められた空間に佇んでいた。

 なんだここは? どうなっている?

 俺が混乱していると、

『情けねぇな』

 いきなり、俺の背後から男の声が聞こえた。
 振り返って確認する。

 目だ。

 真っ黒の空間に不気味な目が浮いていた。

 この目には見覚えがある。

 俺の右手に刻まれた刻印の目と同じだ。
 口はないがこいつが、声を出しているのだろうか?

『へぼいお前に、俺様が力をくれてやろうか?』

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