第三十五話 砂漠精霊

2020年12月20日

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 神殿の中をマナは歩く。

 黄色い石で出来た古びた床、謎の模様が刻まれた柱、戦士や農民など色々な職業の者を象った石造、どれも見覚えのあるものばかりだった。

「……確か……こっち」

 何処を歩けば、土の精霊がいる場所にたどり着けるのか、マナは思い出し始めていた。

 ゆっくりと歩き続けて、そして大きめの扉を見つける。

 マナが扉の前に立つと、勝手に開いた。

「遅いかったのう。だが、これただけましか」

 しわがれた老人の声が響いた。

 マナは先へ進む。

 広い神々しい部屋。

 黄土の体を持つ、土の精霊が中央で圧倒的な存在感を放っていた。

 マナは土の精霊をその目で見た瞬間、名前を思い出した。

「ドンダ……そうだドンダだ。どうして忘れてたんだろう……」

 名前を思い出した後、ドンダの性格、癖、そして思い出が次々と脳裏に浮かんでくる。

「な、何だこいつは!」
「き、危険そうな奴じゃ! マナ近付くでない!!」

 あとから入ってきたジェードランやケルンが、マナを止める。

「大丈夫。こいつとは知り合いだから」
「そ、そうなのか?」
「変わった知り合いじゃのう……」

 ドンダはその両目で、ジェードランやケルンたちを見て、

「随分騒がしい奴らを連れてきたようだな」

 そう言った。

「二人だけで話したいから、そ奴らは退出させてくれぬか?」
「うん、いいよ。皆部屋を出て」

 マナに命令されるが、ドンダが得体のしれない生物であるという事もあり、

「だ、大丈夫なのか?」
「私だけは残って方がいいでしょう!」
「わしも残るのじゃ!」

 と素直に出ない。

「大丈夫、ドンダは絶対安全だから出て行って」

 再び言われて、渋々従い全員部屋を出ていった。

「少し姿が変わっておるのう。翼族が使う場合は変わらんのだが」
「そうなんだ。でも顔の感じとかは一緒だよ」
「そう見えるな。子供のお主は初めて見るが、成長したらあの顔になるのだろうな」

 ドンダは少し懐かしむような表情になる。

「それで、ここに来たという事は、記憶は全て覚えているのだな?」
「いやそうじゃないんだけど……大体の事は覚えているんだけど、一番肝心の転生した目的を思い出せないというか……」
「何と。だが、ここに来たら記憶を取り戻せるという事は覚えておったのか?」
「それも最初は忘れてたけど、思い出した。さっきまでドンダの事もすっかり忘れていたの」
「エマの事は覚えておるか?」
「エマ? 飛王の事? この世界に来て初めて会ったんだけど」

 マナの言葉を聞き、ドンダは悲しそうな表情を浮かべる。

「というか、エマは何で神殿に来てたの? 持っていたあの赤い宝石は何? ドンダは負けたけど消されなかったの?」
「お主は思ったより色んなことを忘れておるようだな。特に転生した目的に関する記憶を完全に欠損してしまっているようだ。だからあの子と会っても、思い出すことが出来なかったのだろう」
「アタシは何を忘れているっていうの?」

 ドンダはその質問には答えず、ペンダントを持ってきた。

「それは……?」
「引継ぎのペンダントだ。これを首にかければお主は前世の力を取り戻すことが出来るが……原理的には同時に記憶も取り戻すことが出来るだろう」
「力と記憶が……同時に」

 マナはドンダから、ペンダントを受け取った。

 ペンダントをじっくりと見つめ、生唾を飲み込む。

(ついに記憶が戻る……)

 緊張と興奮で、ドキドキと胸が高鳴ってくる。

 意を決してマナはペンダントを首にかけた。

 その瞬間、ペンダントは強い光を放ち、マナはその光に包まれる。

 前世で保持していた魔力が、少しずつ戻ってくる感覚があった。

 そして、忘れていた前世の記憶が、せきを切ったようにあふれ出してきた。

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