31.勇者襲来

2020年12月20日

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「そういえば、あのリコに普通は見ることのできない、高度な情報を書かれた本を読めるよう、頼んでみるというのはどうじゃ?」

 宿に戻ってのんびりしていると、メクがふと、そんなことを口にした。

「そういえばそうだな……リコはかなり権力を握っているようだし、特別な本を読むことなんて、わけないのかもしれない」
「十中八九可能じゃろう。頼めば彼女なら許可してくるじゃろうし、これは良い味方を得たのう」
「まあでもしばらくは、普通に読める本を探そうか。それで見つからなかったら、リコに頼み込むとしよう」

 そう結論を出した、その翌日。

 いきなり町が騒がしくなっていた。

「何だこの騒ぎは」

 宿から一歩出ると、民衆が騒ぎ出していた。
 ザワザワと不安げな顔で、話をしている。

「何かあったのじゃろうか?」
「皆、不安そうな顔をしているにゃー……」

 嫌な予感がする。

「ちょっといいか。この騒ぎは何だ?」

 俺は近くを通りがかった、中年の女性に訳を尋ねてみた。

「聞いてないのかい? それがさ、勇者が攻めてきたっていうんだよ。何やら、数万の軍隊を率いてさ。それで聖女様の身柄を求めているんだとさ」

 何?
 勇者だと?

「聖女様を引き渡すわけには絶対にいかないけど、外の敵があまりにも多すぎて、どうするか迷っているって話なんだ……勇者はとにかく残酷な連中で、戦いになったらどうなることやら……あー、恐ろしい」

 女性は身を震わせる。
 勇者の悪名はこの町まで轟いているようだ。

「まさか勇者が攻めてくるとはのう……」
「この前倒さなかったかにゃー?」
「勇者は四人いるんだ。一人倒したから、今は三人、その一人がこの町に攻めてきたんだろう」
「そうかにゃ。じゃあこの前みたいにやっつけるにゃ!」
「うーん、しかしなぁ……」

 数万の軍勢を率いているって言ってたよな。
 流石にそこまでの人数に攻められて勝てるか?

 俺一人では到底無理だ。仮に倒せる力があったとしても、軍隊を壊滅させるには最低でも数千の敵を殺す必要があるだろう。俺にそんなことをする勇気はない。

 この前みたく勇者を倒すことに成功すれば、もしかしたら一人でも倒せるかもしれない。
 あいつらは頭はあまり良くないようなので、罠にはめたりすることは難しくはないと思う。

「ここであれこれ考えても仕方ないな、どうしようか」
「まずはリコの下に行ってみるべきじゃな」

 そうだな。彼女はこの町で大きな権力を握っているし、今回要求されているのもリコの身柄である。

 恐らく一番今回の件に関して、情報を握っているだろう。

 俺たちはリコの自宅へと向かった。

 到着すると、昨日よりも三倍増くらいの警備兵が、リコの家の周りに立っていた。

「すまない、リコに会わせてくれないか」
「お帰り下さい」

 即答された。無理もないかこんな事態だし。

「俺はリコの知り合いだ」
「今はダメです」

 とにかく頑なに断られた。

 すると、

「あ、えーと、テツヤおじさんだっけ?」

 と後ろから声をかけられた。
 昨日であったアイサである。

「何してるの?」
「リコに話があるんだが、入れてくれないんだ」
「あー、大変だもんね。ねーねーこの人たちは入れていいよー」

 アイサが言うと、警備兵は分かりましたと行って、通してくれた。

「もー、こんなことになって大変だよー。町は騒がしいし、勇者ってやつのせいで楽しくなーい」

 彼女は非常に楽天的な性格のようで、こんな非常事態でも、あまり態度が変わらない。

「リコが心配じゃないのか?」
「えー、大丈夫だよ。いつも通り皆が守ってくれるから」

 彼女は部下たちを信頼しきっているようだった。

 俺たちは家に入ると、

「やはりここは私が行きます! 戦ったら何人死ぬかわかりません!」
「そうはいきません! リコ様を行かせるわけには絶対にまいりません!」

 部下と言い争いをする、リコの姿が見えた。
 民衆を助けるために、一人で勇者の下に赴こうとしているリコを、部下たちが必死で引き止めているといった感じに見える。

 こんな時に、こうやって感情的になって言い争いをするのは良くない。

「やめるんだ!」

 俺は言い争いを止めに入った。

「テ、テツヤさん!」

 リコが俺の姿を見て、目を丸くして驚く。

「あなたは、リコ様のお知り合いのテツヤ様と、それからアイサ様も……そうだ。リコ様の説得を手伝ってください! お願いします!」

 部下の男は頭を下げてお願いしてきた。
 白いローブを身につけた、童顔の男である。

「説得は無駄です。私は行くと決めました」

 かなり固い意志を感じる。
 どうしてもここは、勇者の呼びかけに応じるつもりらしい。
 しかし、意志が固くとも、リコを行かせるわけには、絶対にいかない。何とか説得してみよう。

「リコ、絶対に行ってはダメだ。勇者に捕まったら何をされるか……あいつらがどんな奴かは、あの時、分かっているだろ」
「……それでも行かないといけません。外にいる軍隊の、その数を見たら勝ち目などないと分かりますよ。本当に地を覆いつくすほどの兵隊さんたちが、町を取り囲んでいます。私が行かなければ、この町は徹底的な略奪を受けるでしょう」

 俺は町の外にいるという軍勢を直接見たわけではないが、そんなに多いのか。数万の軍勢と言っていたからな。

「リコ様……仮に奴らの下に行っても、この町が略奪されるという事実は変わりません」
「いえ、リチャードさん、それは違います。敵が狙っているのは私のスキルです。この町を略奪するというのなら、使わないといえばこの町は襲われません」

 部下の質問に、リコは答える。この人の名前はリチャードというみたいだ。

 確かに相手の目的は、スキルにある可能性が高いかもしれないが、それでも使わないといえば大丈夫だとは限らない。

「リコよ、それは少し考えが甘いじゃろう。奴らはお主を捕まえて拷問でもすれば、従わすのは容易いと思っておるかもしれんぞ?」

 メクの拷問という発言に、リコの表情が変わる。
 そこまでのことは考えていなかったかもしれない。

「ど、どんなことをされても、使わなければ諦めるはずです」
「そうじゃのうて、どうせあとで拷問すれば、使うじゃろうから、お主の言葉などに一切耳を貸さずに、この町を略奪する恐れがあるのじゃ」

 その言葉を聞いてリコはおし黙る。

「それ以前に、仮に拷問をされるというのなら、リコ様をやはり行かせるなんて、ありえません」
「じゃ、じゃあ……どうすれば……戦ったら、結局、大勢の人が死んでしまうじゃないですか。相手が私の要求を飲むことに賭けて、行くのが一番皆が助かる可能性が高いと思います」

 リコは覚悟を決めたように呟いた。

「負けると決めつけるのは、どうなんだ? 勝てば略奪されずに済むだろう」
「それは、テツヤさんが外の軍隊を見ていないから言えることです。防壁に登って見てみましたが、到底勝ち目はないように思います」
「戦いは数だけじゃないだろ。特にこの世界はレベルやステータスってものがあるんだからさ」
「それは、そうですけど……でも、戦えば大勢の人が死ぬのは間違いないです」

 とにかくリコは自分以外の人が傷つくのが、たまらなく嫌なようだ。優しい子だから無理もないだろう。

 その言葉を聞いた部下のリチャードは、

「この町を守るためなら、リコ様のためなら、命は惜しくないとこの町のものは全員思っているはずです」

 そう言った。

「あたしもリコおねーちゃんがいなくなるのは、悲しいから、戦うよ」
「俺も戦う。リコのためという以外にも、勇者を野放しにしたくないしな」

 メクとレーニャは、俺が戦うなら自分達も戦うと言ってくれた。

「そんな……」
「リコ様、あなたを守るためというのは、この町のためという意味でもあるのです。リコ様がいなくなれば、この町は前の貧しい状態に戻ってしまいます。町の皆はそうなることを望んでいないはずです」
「……」

 リコはしばらく黙って考えた。
 強い葛藤を感じているようだった。
 数分黙って考えた後、リコはついに口を開いた。

「……分かりました。戦ってみましょう」

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