第九話 ジェードラン

2020年12月20日

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 カフスは気分よく自分の過去を喋り終え、その事に大きな違和感を覚えた。

(……ん? 待て……なぜ俺はこんな過去の事をしゃべって。さっき話したばかりの子供に)

 そこまで考えて、ハッとした。

「まさか……俺を洗脳……!」

 問い詰めようとしてマナを見た時、カフスに衝撃が走る。

(な、何だ……さっきまでただの人間のガキだと思っていた子供が……今はなぜか……なぜか……まるで……)

 ――――――女神のような強大な存在に見える。

 カフスの目には、マナの後ろから後光がさしているように見えた。思わず座って頭を下げる。

 自分の意思ではなく、勝手に体が動いた。自分の中で、何とも思っていなかった人間の姫の存在がいきなり巨大になり、動揺と混乱で心が激しく揺れ動いた。

「俺を……洗脳したのか……したのですか?」
「さっきも言ったけど、アタシに洗脳なんかできないよ」

 マナは跪くカフスに近付き、耳元で囁いた。

「アタシをここから逃がして。命令だよ」

(よし落ちた……この命令は必ず聞いてくれるはず)

 完全に落ちたと思っていたマナは、この命令は必ず聞くことになるだろうと思っていたが、カフスは予想外の返答をした。

「それは出来ません……」
「どうして?」
「ジェードラン様は絶対に裏切れません」

 好感度は200になっている。
 これで命令を聞かないとなると、魅了は思ったより使えない? と思ったがマナはある仮説を立てた。

(もしかして、カフスのジェードランに対する好感度も200あるか、もしくはそれに近いくらいあるのかも。特殊な条件を満たさないと100は超えられないようだけど、逆に言えば満たしさえすれば100以上になれる。カフスの熱狂ぶりからすると、超えてても不思議じゃない。200あるのなら、数値上は互角だし、アタシの命令を聞けないのも分かるけど……困ったな……)

 200にしても命令を聞かせられないのでは、打つ手がない。

(でも今回、堅物で警戒もしていたカフスも魅了できたし、主のジェードランも出来るかも。アタシをジェードランの下に連れていけと言う命令なら、ジェードランの命令を破ることにもならないし、聞いてくれると思う)

 考えてマナは結論を出した。

(よし、ジェードランを魅了しよう)

「アタシを逃がしてくれなくていいから、ジェードランに会わせてくれない?」

 マナは早速、カフスに頼んだ。

「ジェードラン様にお会いいただくだけなら、問題ないでしょう」
 
 快くカフスは命令に従った。

「どうやらカフス殿も、マナ様のすばらしさに気付いたようですね」

 なぜかハピーは得意げな表情をしている。
 いきなりカフスが忠誠を誓ったので、ハピーが不自然に思わないかマナは心配だったが、自然なこととして受けいれていた。

 三人はバルスト城へと向かった。

「ジェードランってどういう人なの?」

 帰りの道すがら、マナはカフスに、ジェードランについて色々聞くことにした。

 スキルで見れる情報には限りがあり、それだけで魅了できるとは限らない。

 カフスは、ジェードランを慕っており、付き合いも長そうだ。深い情報を知っている可能性があると考え、マナは聞き出すことにした。

「先ほども言った通り、偉大なお方です。飛王になる器を持っておられる」
「やったら喜ぶこととかある?」
「お喜びになることですか……戦に勝ったり、手合わせに勝利したりすると、お喜びになられますね。逆に負けると不機嫌になられます」

 流石に幼女に勝って喜ぶことはあり得ないだろうから、このやり方は参考にできないとマナは判断する。

「あ、そうだ。ジェードランには誰か好きな人とか、忠誠を誓っている相手はいるのかな?」

 カフスみたいに、忠誠を誓う相手がいた場合、その人を褒めることで好感度が上がるかもしれないと思った。

「……ジェードラン様は誰にも忠誠を誓ったりはいたしませんよ。特別好きな人物というのもいないと思います。強いて言えばご自分が好きなのだと思います。誰にも属さず、自分こそがトップに立てる人物であると信じておられますから」」
「でも、この国には飛王がいるんでしょ?」
「飛王に忠誠を誓ったふりをしていますが、心の底では逆らう気満々ですよ。ジェードラン様が誰かに忠誠を誓う姿は想像もつきませんよ」

 それを聞いたマナは顔を青くする。

(え~……そ、そんなに野心バリバリの俺様系の人なの? 魅了できるのかなー……?)

 情報を聞くうちに、ジェードランを魅了するのは困難である可能性が高まってきた。

 もしくは魅了に成功して、好感度が上がったとしても。自分の命令に従ってくれないかもしれない。

 マナはかなり不安になってくる。

 それからカフスから情報を聞き続けたが、人物像が分って来るたびに命令など聞いてくれなさそうな人で、不安は増すばかりだった。

 効果的と言える好感度の上げ方も、まだ思いつかない。

(自分が好きみたいで、飛王になりたがっているみたいだから、飛王になれるっておだてていけば、もしかして好感度が上がるかもしれないけど……そんな単純な方法で上手くいかないよね。城の主になる人がそこまでチョロくないよね……)

 結局思いつかないまま、バルスト城に到着してしまった。

 帰りは隠し通路を通らず、通常の陸路を通ってきたので、ここで初めてマナはバルスト城を目の当たりにした。ちなみに最初に連れてこられた時は、目隠しされながら、地下牢まで運ばれたので、城の外観は見ていない。

 思ったより巨大な城だった。

 本体の城を、高い防壁と塔が囲んでいる。

 塔や防壁の材質もただの石ではなく、魔法攻撃を通しにくくなる黒魔石という黒光りする石が使われていた。城本体は普通の石で作られているようだが、防壁を黒魔石で作っているのなら、魔法で崩すことは困難だろう。

 魔法は人間にしか使用不可能な技術であるため、この城が対人間を想定して作られた城であることは、一目瞭然だ。

 カフスの帰還に城の門が空いた。

 三人は門を通り城の中へ。

 玄関を通り、広いホールに出る。

「ジェードラン様は、今どちらに?」

 入り口にいた執事にカフスは質問した。

「執務室におられます」

 場所を聞いた後、階段を登り上階へ。

 執務室は城の最上階の五階にある。

 五階に到着。
 執務室の扉の前に三人は立つ。

 カフスが扉に向かって声をかけた。

「ジェードラン様、カフスでございます。御用があるのですが」
「入れ」

 反応を聞き、カフスは扉を開け部屋の中に入る。
 マナとハピーも後に続いた。

「失礼します」
「何のようだ。姫は……捕らえてきたようだな」

 ジェードランの視線がマナに注がれる。

(こいつがジェードラン)

 三対六枚の翼に、整った顔立ち、気力に溢れた目。
 一目見て、確かにこれは只者ではないとマナは思った。
 何かを成すような大人物は、一般の者とはどこか違うのだといことを、マナは前世の経験から得ていた。

「よくやった……が、なぜ俺の下に連れてきた。牢に再び放り込んでおけばいいだろうに」
「話がしたいと仰せになっていまして」
「なぜ俺がガキの相手をする必要がある。そんな暇などないことは、お前なら良く知っているだろう」
「どうしても話たいと……」
「ガキの言いなりか? いいから牢に閉じこめておけ、そこの裏切り者と一緒にな」

 ジェードランには業務が残っているようで、煩わしそうにそう命令をした。

「マナ様と同じ牢……? それはそれで……」

 ハピーが気持ち悪い笑みを浮かべる。よからぬ妄想をしているようだ。

 色んな意味で牢に戻りたくないと思ったマナは、魅了をするためジェードランの目を見つめ、情報を調べる。

 名前 ジェードラン・モーメルト 28歳♂
 好感度0 好きなタイプ 知性ある者 好きな物 バルスト城 趣味 自己鍛錬
 性格 野心が強い 自信家 プライドが高い 公平

 好感度は0。現時点でジェードランは、マナに興味を抱いていないようだ。

(ちょっと見る限り、今のアタシみたいな幼女に頭下げるようなタイプには全く見えないんだけど……やってみるしかないか……)

 まずはカフスの話を聞いて思いついた作戦の、褒めてみる作戦を決行することにした。

(何を褒めればいいかな……無難に容姿を褒めてみるか)

 それで好感度は上がらないだろうと内心は思っていたが、とりあえずマナは試してみることにした。
 渾身の愛想笑いを浮かべて、

「ジェードラン様ってもっと怖い方だと思ってたけど、凄くかっこいいですね。翼も凛々しくて素敵です~」

 ジェードランを褒めた。

 この程度、どうせ言われ慣れているだろうから、効かないだろうなぁ、とマナは思っていたが、

「ほう、人間の子どもだがこの俺の良さが分かるか。中々見どころがあるようだ」

 得意げな表情で彼はそう言った。

 あれ? 効いた? と思ってマナはジェードランの好感度を確認する。

(え!?)

 好感度は0から50と一気に上がっていた。

(も、もしかしてこの人――――――チョロい?)

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