第二十七話 作戦

2020年12月20日

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(ケルンに会うと言っても……どうしようか……)

 現状、行動の自由は完全にはない状態だ。
 会うとしても、ケルンにその気がなければ、不可能だろう。

 向こうから来るのも待つのも、いつまで待てばいいか分からないし、自分からコンタクトを取りたいとマナは思った。

(ここに来るのは、あのメイドのシャーファだけ。彼女を魅了してから、ケルンに会わせてもらうよう頼むしかないか)

 シャーファが、ケルンに頼める立場にあるのかという疑問もあったが、これ以外の作戦がマナには浮かばなかった。

「失礼します」

 丁度シャーファがやってきた。

 扉を開けて、マナの部屋へと入ってくる。

 シャーファの手には魔道具が握られていた。
 最近シャーファが持っている謎の魔道具で、効果のほどは不明だ。
 鏡のようなものが中央に付いており、それが怪しい光を放っている。

 前世では白魔導士をやっていただけあり、ある程度魔法関連の知識はあるのだが、そのマナにもどんな魔道具なのか分からなかった。

 攻撃用の危険な魔道具ではないと、何となく思っているのだが、どうやらそうではなさそうだった。
 ただ、鏡を向けられると、悪寒をマナは感じていた。

(魔道具の事は今はいいや。シャーファを魅了しないと)

 マナはメイドの目を見つめて、情報を見る。

 名前 シャーファ・プシトマ 21歳♀
 好感度21 好きなタイプ 駄目な人 好きな物 花 趣味 料理
 性格 世話好き 尽くすタイプ

 好感度がすでに21まで上がっていた。
 世話好きが好きだというので、ここ数日ちょっと世話をしてもらったので、それで上がったのではないかとマナは推測する。

(これなら簡単に魅了できるかも。だらけてて、世話してもらえば、それで上がるってことだろうから……でも、駄目な人好きで、お世話が好きってよく分かんないな)

 自分がだらけて他人に色々してもらうタイプなので、他人に尽くすとか世話をするのが好きだとか、そういう感覚が全く理解できないマナであった。

「シャーファさん、お菓子食べたい」

 マナは駄々をこねるように言った。

「ちょっと前に食べましたでしょ?」
「まだ食べたい、もっと食べたい!」

 子どものときに戻った気分になり、マナは駄々をこね続けた。

(これはあくまで好感度を上げるためだから……別にお菓子が食べたいではないからね)

 と心中でマナは言い訳をしていた。

「仕方ないですね。分かりました。持ってまいりますよ」

 そう言ってシャーファは部屋を出て、お菓子を運んできた。
 甘い菓子パンである。

「めっちゃおいひぃ……」

 マナは無我夢中で食べて満足する。

(って、満足している場合じゃない! 好感度を確認しないと)

 満足して大事なことを忘れそうになったが、思い出した。

 21→23に上昇。

(上がってるけど……何かしょっぱいね……どういうことなんだろ……)

 原因を考えるがマナには分からない。

 このペースでやってたらやたら時間がかかってしまう。

(そもそも、ケルンに会いたいと思っていると伝えてもらうくらい、そこまで好感度上げなくても出来るんじゃないかな?)

 そこまで重大なお願いではないので、現時点の好感度でも聞いてくれるのではないかとマナは思う。

「ねーねー、アタシ、ケルン様に会いたいんだけど、お願いしてきてくれる?」
「ケルン様に会いたいのですか? うーん、多分会ってくれないと思いますけど」
「どうしても会いたいの。お願い!」

 必死にお願いしてくるマナを見て、シャーは少し気が進まないようだったが、

「伝えるくらいなら別にいいですけど」

 承諾した。

「じゃあ、早速頼みに行ってきますね」

 そう言って、シャーファは部屋から出ていった。

 案外シャーファは、ケルンと気軽に会うことが出来るようだ。メイドなので、城主とはあまり話せないと思っていたので、マナは少し意外に思う。

 ケルンが会うと決めてくれることを祈りながら、マナは報告を待った。

「ふへへへへへ……可愛いのじゃ姫は……」

 ケルンは、シャーファの魔写具で撮影したマナの姿を眺めながら、気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 魔写具のは、写し鏡と呼ばれるもので、被写体を写し、離れた場所にある印刷機で紙に印刷するという魔法具である。

 シャーファがリアルタイムで写しているマナの姿を、ケルンは思う存分楽しんでいた。

 そんなケルンの様子を、家臣たちが苦々しい表情で見つめていた。

「どんどん悪化してきてませんか?」
「う、うむ……このままでは……遠距離恋愛している恋人のように、会えない時間がより愛情を深めてしまっているかもしれん……これはまずいぞ……」

 サイマスは非常に不安な気持ちになってきた。
 このままでは、主ケルンが人間の姫に絶対服従してしまうかもしれない。

 魔写具で写したマナの姿を眺めるケルンは、どうも正気を失っているようにも見えた。

「可愛いのじゃあ…………ッハ!? わしは何をやっているのじゃ!?」

 ケルンの表情を引き締めながらそう言った。

 正気に戻ったとサイマスは喜ぶ。

「ケルン様! 正気に戻られましたか!」
「あ、ああ……恐ろしやマナフォース姫……完全に支配されるところであった」
「良かったです……このままでは最悪の事態になるかと……さあ、その写し絵を廃棄してください」
「そ、そうじゃな……」

 ケルンはマナの写真を見つめて、破り捨てようとする。

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 しかし、どうしても心がブレーキをかけ、破り捨てることは出来なかった。

「だ、駄目じゃあ! 姫を破り捨てるなど出来ん! この写し絵は全て宝物庫に収めるのじゃ!!」
「……ケ、ケルン様~」

 サイマスはその命令を聞き、泣きべそをかいた。

 家臣たちが写真を全て宝物庫に収めた。
 そのあと、

「あのケルン様、報告したいことがあるんですけど、いいですか?」
 
 そんな時、メイドのシャーファがケルンの下へとやってきて、そう言った。

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