第二十六話 バルスト城では

2020年12月20日

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 バルスト城では、マナの捜索を全力で行っていた。

 最初は難航していたが、城に訪れていたケルンの発言で事態は一変する。

「私は実はケルン様ではなく替え玉なんです……名をパラソマと申します。本来はこれはケルン様への裏切り行為になるのですが……マナちゃんのためにお話しします」

 パラソマはジェードランたちの前で、自分がケルンではなく替え玉であると白状した。
 そのあと、ケルンが詳しくは知らないが、何らかの作戦を考えていたという事を全てジェードランたちに打ち明けた。

「なるほど……ルルット城にマナ様はいると。分かりました。今すぐルルット城へ行き、ケルンの首を刎ね、マナ様を取り返してきます」

 憤怒に燃えるハピーが、無表情でそう言い放ち、城を出ようとする。

「待て、お前ひとりでそれは無理だ。俺も行く」

 ジェードランが同行を申し出た。

 その二人を見たカフスは慌てる。

「ま、待ってください! ここはもう少し慎重に行くべきです!」
「こんな時に慎重になどなれるものですか!」
「そうだ、早く助けなければ、マナがどんな目に遭わされているか……」
「ハピー、ジェードラン様、落ち着いてください。ここで二人で行っても到底勝ち目はありません」
「なら軍を率いていく!」
「それもまずいです! 人間の姫を助けるためと言って従う兵はおりませぬ!」
「じゃあ、どうしろというのだ! このまま見捨てろと!?」
「そうは申しておりません。まず落ち着いて考えてみて下さい」

 ヒートアップするジェードランを、沈めるような口調でカフスは話す。

「敵の狙いは何だと思いますか?」
「姫を利用して……俺と取引をする……とか?」
「その可能性が高いと思われます。ならば向こうから書状が来るので、まずはそれを待つのが吉かと。恐らくマナ様は殺されたりすることはまずないでしょう」
「そ、そんなこと分かりません! 本物のケルンが幼女好きのとんでもない変態だったら、どうするんですか!?」

 そう叫ぶハピーに、二人はお前が言うなという視線を向ける。

「マナ様はルルット城の連中にひどい目に遭わされているはずです……牢に閉じ込められ……粗雑な扱いを受けているに違いありません。何せ強引に連れ去るような連中ですから。命があるにしても、放っておくなんてできません! 今すぐ助けに行きます!」
「その通りだ! ケルンは血も涙もない冷酷な女だ! そんな奴のもとにマナを長時間おけるか!」

 ハピーとジェードランは、行く気満々でこれはもう止まらないとカフスは思った。

「ならば俺も行きましょう」
「いや、お前は城に残れよ。俺がいない間、誰が城の運営をするんだ」
「え?」
「そうです! 頼みましたよカフス殿!」

 それだけ言い残して、二人はルルット城へと旅立っていった。

 城の事をすべて任されたカフスは、盛大なため息を吐き、自分もルルット城へと行きたいという気持ちをおさえて、仕事を始めた。

 一方その頃、ジェードランとハピーに、悲惨な目に遭っているだろうと心配されているマナはというと……

「おいちぃ……」

 この世の天国を味わっていた。

 好きなデザートは食べたい放題。
 さらに温泉設備も整っており、大浴場に入ったりも可能。
 さらにさらに、動物と触れ合うことも可能だった。
 通常よりもふもふした毛でおおわれた、犬、ロッパーシュと呼ばれている品種なのだが、それと好きなだけ触れ合うことが出来た。

 マナは動物が好きであり、その犬との触れ合いはまさに至福の時となっていた。

 あっという間に一日が過ぎて、大いに満足してマナはベッドに横たわる。

「このまま、ここに住んで一生を過ごすのも………………………………良くない!!」

 マナは跳ね起きる。

「こんなことしている場合じゃないでしょ! 早く記憶を取り戻さないといけないって言うのに……!」

 このままでは自分を見失ってしまうとマナは思い、頬を一度思いっきり叩いた。

(当初の目的はケルンを従えること……まずはどうにかしてケルンと会わないといけない……ケルンへの魅了がどれほど聞いているのか分からないけど……とりあえず、メイドを魅了して会わせてくれるようお願いさせてみよう。失敗したらまた別の作戦で行く)

 骨抜きにされかけていたマナは、何とか気を取り直し、ケルンに会うための作戦を実行することにした。

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