第35話 ボス

2020年12月20日

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 モンスターハウスを全滅させたあと、宝箱が出てきた。
 ペペロンはそれを開ける。

「これは……」

 大量の宝石に混じって、本が出てきた。

「ギガ・フレイム。二等級の魔法だ」

 これはいいものを引き当てたなと、ペペロンは思う。
 ギガ・フレイムは、単純な威力なら全魔法中でも上位で、二等級の魔法の中では最高である。
 間違いなく強力な魔法で、これがあれば、魔法を上手く使える面々の、大幅な火力アップが望める。
 宝をバックに入れる。そして分け前をロック達にいくつか渡した。

「今回は僕たち何も出来立てないけど、貰っていいの?」

「敵は倒してないが、四体ほど敵を引き付けてただろ? あれは結構助かった」

 本心からの言葉だった。今回は運が悪ければ、パナかリーチェが危ないと思っていたが、ロック達が何体か引き付けていたおかげで、結構楽になった。

「あれは、ミスったせいで、複数体相手することになったんだけど、結果オーライか」

「正直死ぬと思ったわね……」

 四体に囲まれて、何とか防いでいたが、その間、冒険者パーティーは生きている心地を感じずに戦っていた。

「ではあとは最上階まではすぐだ。行こう」

 モンスターを全滅させたあと出現した、転送陣の上に乗り、九階まで移動した。

 ○

 九階に移動したあと、最上階へ行ける東の転送陣に近づいた。ガードスパイダーが十五体出てくる。全滅させた。
 そして一行は意を決して、転送陣に乗る。

 十階最上階。

 床にびっしりと、見たことのない文字が刻まれている。外の景色が分かるよう、壁はガラス張りになっていた。外には雲海が見える。かなり高い場所まで来たという事が一目で分かる。

「何も出てこないな」

 パナがポツリと呟いた。転送されてから二分ほど経ったが、何も起こらないので、我慢できずにいった。

「気を抜くな。もうすぐ来る」

 ペペロンがそう忠告した、次の瞬間。
 床の文字が、赤色の光を放ち始めた。
 そして上から何かが落ちてくる。
 二体の巨大なガードスパイダー、ビッグガードスパイダーが落ちてきた。この二体は、ボスではなく、取り巻きである。
 二体が落ちて少しして、何か巨大なものが落ちてくる。落下の衝撃で、轟音が鳴り響き、部屋が大きく揺れた。
 落ちてきたものは、三十メートルはあるかというくらいの、巨人だった。腕が六本生えており、全てに武器を持っている。それぞれ剣、メイス、斧など違う武器だった。
 心臓がある辺りに、赤い球体がついている。
 これが、ボルフの塔のボス、『ゴッドガード』の姿だった。

「で、デカすぎ……」

「こ、こんなのと戦えるのか?」

 リーチェと、パナがゴッドガードを見て、怯える。

「ボスは馬鹿でかいって聞いてたけど、ここまで……」

「ぼ、僕たちの冒険も、遂にここで終わるのか……?」

 あまりの巨大さに、勝てるビジョンがロック達には湧かないのか、動揺しまくっている。実際まともダメージなんて与えられるのか、不安にしかならないくらい、ゴッドガードは巨大だった。

「まずは取り巻きから倒すぞ」

 ペペロンはあくまで冷静に、指示を出した。

「ガス、しばらくゴッドガードを引きつけていてくれ」

「了解っすー」

 ガスが、ゴッドガードを挑発して、攻撃対象になる。
 何とか攻撃を避ける。
 二体のビッグガードスパイダーが、襲いかかってくる。この二体も、ゴッドガードほどではないが、巨大である。
 最初は二体のうち一体だけを集中して攻撃する戦術を取る。一体の攻撃をファナシアが一人で抑えて、ほかの者たちで、もう一体のビッグガードスパイダーを集中攻撃するという戦術だ。ファナシアにかかる負担は大きいが、彼女なら確実に役目を果たせると信用して、ペペロンはこの戦術を取った。
 決めた戦術どおり、戦い始める。
 ビッグガードスパイダーは結構強いのだが、中ボスのツインガードドラゴンより弱い。
 ペペロンも本気で戦っており、すぐに足が何本か斬れて、満身創痍になってくる。
 わずか一分ほどの時間で、ビッグガードスパイダーを一体撃破。
 そして今度はファナシアが、抑えていたビッグダースパイダーを倒しに行く。

 さすがのファナシアも一対一では、ある程度ダメージを負っているようだが、深いダメージを負っているというわけではない。ヒーラーのマイカが回復魔法を使用して、ファナシアを完全回復する。
 皆で集中攻撃をする。今回はファナシアがある程度体力を削っていた事もあり、三十秒ほどで撃破に成功した。

「次で最後だ」

 ペペロンはそう呟く。ガスが一人で、ゴッドガードの攻撃を回避していた。
た。
 ガスは汗をかき、所々怪我をしている。全ての攻撃を完全に回避できたわけではないようだ。

 ゴッドガードは、かなり強力なモンスターだ。
 ペペロンは、今まで出てきた敵は、全てソロで倒そうと思えば倒せる。しかし、ゴッドガードは今の状態では難しい。もう少し強い魔法があれば、ソロでも倒せるが、現状では厳しかった。

「ガスが敵を引き付けているうちに最初の一撃を不意打ちで食らわせるぞ。タイミングを合わせて一斉に攻撃する。狙いは右足だ」

 ペペロンの言葉に、全員頷いた。攻撃の準備を各々始める。
 皆の準備が終わったことを見たペペロンは、

「今だ!」

 と合図をした。
 ゴッドガードの右足に、一斉攻撃を仕掛ける。
 一気に右足にダメージを食らったゴッドガードは、転倒し膝をついた。

「よし、今のうち!」

 ロックたちは、倒れるゴッドガードを攻撃しようとする。

「待て。そいつは弱点以外の部位を攻撃しても、すぐ回復する」

「え?」

「ほんとだ! さっき攻撃した右足が、回復してきている!」
 右足は攻撃を受けて、ひび割れていたのだが、ジワジワとひびが修復されていっている。

「弱点って?」

「胸の球体だ。今度はあの胸の球体に一斉攻撃を仕掛けるぞ」

 胸の球体に一斉攻撃を仕掛ける。今度はガスも攻撃に加われる。

 しばらく経つと、ゴッドガードが雄たけびを上げて、立ち上がる。足の怪我が治ったようだ。
 まだ球体は壊れていないようだが、煙が出ている。だいぶダメージを受けているようだ。

「同じように、奴を倒して球体を攻撃する。遠距離で攻撃する手もあるが、この距離だと当たりにくい。足を攻撃するのに使った方が効率的だ」

「何かデカすぎたから、絶望感あったけど、これなら倒せそうだな」

 ロックが楽観的に言うと、

「油断をするな。安心するのは早い」

 ペペロンが警告する。
 すると、ゴッドガードの胸の球体の色が、緑色に変色した。
 それと同時に、ゴッドガードが持っていた武器が変わる。六本の杖を持っている。一本一本形は一緒だが、色が違う。
 ゴッドガードは、赤色の杖を振る。巨大な火の玉が頭上に発生。それがはじけて、小さな無数の火の玉に分かれて、雨のように部屋に降り注いだ。

 あまりの量にすべてを避けることは不可能。何発か命中する。一発一発の力は大したことないが、数十発当たり、だいぶダメージを受けてしまう。
 ぺペロンはファナシア、ガスのノーボは、平気だが、リーチェやパナ、冒険者パーティーの面々は、だいぶきつそうにしている。

「ノーボ、しばらく回復をしてくれ」

「了解」

 現状では、初級のヒーリングしか使えないが、知力の高いノーボが使うと、効果は非常に高くなる。とりあえずは一旦ノーボは回復役を任せることにした。
 ゴッドガードは、ダメージを受けピンチになると魔法を使うようになる。
 それがかなり強力で、ゲーム時代のペペロンもだいぶ苦しんだ。
 最初から使っておけばいいのにと思うくらい強力である。
 一発使うと、次を使うまで少し時間が空く。それまで右足をとにかく攻撃しまくらないといけない。
 現状動けるのは、ペペロン、ファナシア、ガスだけだ。

「行くぞ」
 ペペロンの号令で、再び右足に一斉攻撃を仕掛ける。
 しかし転がせられるほどのダメージは与えられず、今度は白い杖をゴッドガードは振った。
 それを見てペペロンは、「チィッ」と舌打ちをする。

 色によって使う魔法の属性が変わる。それによって対処の難易度も変わってくる。炎属性の魔法は、対処が難しくも簡単でもない。一番楽なのは茶色の杖を振って使う土属性の魔法だ。岩石を降らせるのだが、数が多くなく全部避けることが可能だった。
 白い杖を振って使う聖属性の魔法は、一番面倒な魔法だった。
 ゴッドガードが、杖を振った瞬間、白い大きな光の球が、ゴッドガードの頭上に発生する。その光の中から何かが出てくる。

 それは全身に真っ白い鎧を装備している。フルフェイスヘルメットなので、顔は見えない。右手に剣を、左手に盾を持っている。背中には純白の翼。大きさは人間の赤ん坊程度ととても小さい。

 一体だけじゃない。光の中々次々と、山のように出てくる。
 これはスモール・ヴァルキリー・サモンという魔法で、小さなヴァルキリーという名の天使を無数に召喚する魔法だ。

 スモール・ヴァルキリーは、素早く動きぺペロン達に襲い掛かる。
 自分に来た分は、すぐに切り捨てる。一瞬で倒した。
 一体一体ははっきり言って雑魚であるが、これが山のように召喚される。

 正確に数えたことはないが、五百体くらいは来るのじゃないだろうか。
 厄介なのは、体力は低いためすぐ倒せるが、攻撃力はそれなりにあるため、攻撃を食らうのはまずいということだ。ペペロンでもそれなりにダメージを食らうから、パナやリーチェ、冒険者たちが食らうと、下手をすれば一撃でやられてしまう。
 ノーボの回復は間に合ったようで、皆戦えるようになっているようだ。しかし、突然使われた魔法に戸惑い狼狽えている。

「落ちついて戦え! すぐに倒せるくらいの敵だ!」

 ペペロンは叫んでみんなの落ち着かせる。
 ロックが近くに来た一体を剣で攻撃した。すると、一撃で倒される。

「ぺペロンの言う通りだ。簡単に倒せる。恐れることはなさそうだ」

 落ち着いて戦いだした。
 攻撃喰らったらやばいと言ったら、また動揺が広がりそうだから、まだ言わない方がいいなと、スモール・ヴァルキリーの攻撃力に関する情報は言わないことにした。
 スモール・ヴァルキリーは次から次に召喚され出てくる。頭上を見ると、夥しい量のスモール・ヴァルキリーが飛んでいた。
 この量はまずい。ペペロンはそ思い、

「全員一か所に集合しろ!」

 バラけているより、一か所に集って対抗した方がいいだろうと、ペペロンは判断した。
 全員指示に従い、何とか苦労しながら、ペペロンのいる場所に集まる。
 一か所に集まったことで、何とか攻撃を受けそうになったものを、ほかの者がカバーし合い、夥しい量やってきたスモール・ヴァルキリーを倒しきる事に成功した。攻撃はノーボが何回か食らったようだ。効いているようだが、致命傷ではない。自分でヒーリングを使用し、回復した。

「よし、再び右足に一斉攻撃だ」

 さっきまで攻撃していた足に、もう一度一斉攻撃を仕掛ける。先度付けた傷は修復されているようだが、完全には回復していない。倒れている時は、修復に専念するため回復も早いが、立っている時は、攻撃もするので回復に専念できず少し修復が遅くなる。

 なので一斉攻撃をしたら、割と早く倒れた。
 そして緑に変色している胸の球体を攻撃する。
 集中攻撃をしているうちに、球体にひびが入る。足の傷も回復している。もう一度立たれたら面倒だ。ペペロンはそう思い、必死に攻撃する。ゴッドガードの足が完全に修復され、起き上がろうとする。間に合わないか? そう思っていると、ひびが一気に球体全体に広がる。
 そしてバリン! という音を立てて球体は粉々に砕け散った。

「よし」

 球体が砕け散ると、立とうとしていたゴッドガードが力なく地面に倒れ、ピクリとも動かなくなった。
 ボス、ゴッドガードの討伐に成功し、ボルフの塔を完全攻略した。

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