第十三話 飛王

2020年12月20日

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 マナは脱衣所で服を着て、執務室に向かう。

(まず最初にジェードランに神殿についての情報を聞こう)

 風呂の中でハピーの発言からたまたま思い出した、どこかの神殿に行かないといけないという記憶。
 現時点では唯一、自分が転生した目的にたどり着けるための手がかりであるので、早急に聞きに行った。

「ところでアンタはつい来なくていいよ」

 マナは後ろを振り向き、付いてきているハピーにそう言った。

「そういうわけにはまいりません」
「私はマナ様の下僕です。常におそばにいてマナ様の御身をお守りしなくてはなりません」
「城の中で危険はないよ。しいて言えばアンタの存在は少し危険だ」
「わ、私が危険!? そ、そんなことありませんよ」

 動揺するハピーを、何かする気だったのかとマナはジト目で見つめる。

(まあ、どうせ命令は聞いてくれるだろうし。さっき神殿の事を思い出すきっかけを作ってくれたから、付いてくるくらいはいいかな)

 マナはそう考えて、ハピーに付いてくるなと命令するのはやめた。

 執務室の扉の前に到着すると、

「なに! それは本当か!?」

 ジェードランの叫び声が、マナの耳まで届いた。
 相当衝撃的な出来事あったのか、ジェードランの驚き用は尋常ではない。

「何があったのでしょうか?」
「かなり驚いてるみたいだね。入ってよう」

 マナは扉を開けて、執務室に入った。

「どうしたの」
「マナフォース姫! それとハピー!」
「どうしてここに」

 執務室にはカフスとジェードランがいた。二人はマナとハピーは風呂だと思っていたので、いきなり来て驚いている。

「アタシの事はマナって呼んで」
「は、はい」

 呼び方が気になったので、最初にお願いをした後、事情を尋ねる

「それで、何があったの?」
「少々面倒なことが……実は飛王がバルスト城まで来られるらしいのです」

 マナの質問にカフスが答えた。

「飛王って……この国の王様の事だよね。何で来るの?」
「マナ様に会いたいそうです」
「アタシに? 何で?」
「元々マナ様が五歳になったら会う予定だったようです。何をするかは不明です」

(五歳になったら会う予定だった? なぜだろうか? そもそもアタシは何で連れ去られたのかな?)

 まだジェードランに自分が連れ去られた理由を、尋ねていなかったことにマナは気付く。

「アタシって何で誘拐されて閉じ込められてたの? てか、攫ったのってジェードランじゃないの?」
「俺は誘拐自体には関わっていない。指示したのは奴だ。俺は引き渡されて、バルスト城に閉じこめておいたにすぎん」
「へー……でも、飛王も城は持ってるんでしょ? 何でここに入れられたの? どうも逃がしたり、死なせたくはなかったみたいだけど、それなら手元に置いておいた方が安全じゃない?」
「飛王の奴は度が過ぎた人間嫌いらしい。しばらく監禁する必要があるが、自分の城に置いておくのと、下手したら我慢できず殺してしまうかもしれないから、別の城に置いておいたらしい」
「そ、そうなんだ……え? 人間嫌い?」

 それって会って大丈夫なのかとマナは思う。
 話を聞く限り、問答無用で危害を加えられる可能性もある。

「お前が飛王と会っても殺しはしないかもしれないが、痛い目に遭わされてもおかしくはない。ただ逃がしたり会わせないと言ったら、俺の命が危ないだろう」
「飛王に戦って勝てないの?」
「現時点で戦っても勝ち目はない」

 自信家のジェードランが断言するくらいなので、本当に覆しようのない差が現時点で付いているのだろうと、マナは察した。
 マナを危険にさらすか、自分たちが飛王に殺されるか。

 魅了されていたジェードラン、カフス、ハピーの心は決まっていた。

「マナ様はお逃げください。人間嫌いの飛王に会ったら何をされるか分かりません」
「本来は再び牢に閉じ込めるところだが、逃がすべきだと思ってしまっている……困ったことだ」
「俺はマナ様を助けるためなら、命は惜しみません。ただジェードラン様も一緒には……逃げるならだれかお供が必要ですので、ジェードラン様が……」
「それは駄目だ。俺が残らないなら時間稼ぎも出来ん」
「しかし」

 逃がす方向で話が続いているのを、マナは一度止める。

「待って。アタシは逃げないよ。飛王と会う」
「し、しかしそれは」
「どうせアタシを殺すことは出来ないでしょ。なら問題ない。多少痛めつけられてもなれてるから」

 戦で怪我を負ったことは決して少なくない。
 痛みや恐怖に対する耐性は、間違いなく高いほうであった。

 この場で、ジェードラン、カフス、ハピーを犠牲にするつもりは全くなかった。そこまでマナは薄情な人間ではない。

(それに飛王に会って、魅了が出来れば、神殿を探しやすくなるからね。アミシオム王国を実質支配下におけるってことだから)

 マナはにやりと笑みを浮かべる。
 そういう打算的な考えもあった。
 人間嫌いなので魅了は出来ないかもしれないが、確実に無理ということもないだろう。

「とにかくアタシは飛王に会うから」

 語気を強めて言うマナに、三人は反論出来なかった。

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