第四十三話 思い出して

2020年12月20日

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「全部……思い出した……」

 マナは転生する直前の記憶までを全て思い出した。

「何でこんなに大事なことを忘れてしまっていたんだろう……」

 マナは自分を責めるように言った。
 ただ、今は余計に自分を責めて、時間を浪費している場合ではない。

「エマが……エマが持っていった宝玉は、あれは怨念球なんだよね」
「そうだ」
「もう儀式の準備は出来てるの?」
「出来てるだろうな。奴はお主が転生したことに気付いている。それでもやめる気はないだろう」
「何で気づかれたの? 最初会ったときは他人の空似だと思ってたみたいだけど」
「奴からお主に似ている子供がいたという話を聞いたから、それは転生したマナじゃろうとわしが説明したのじゃ。知らせた方が止めることのできる可能性が高いと思ったが、奴はやめる気はないようだったな」
「そうなんだ……じゃあ、早く行かないと。あ、そうだ。この引継ぎペンダントは外してもいいの?」
「問題ない。それは消耗品だから、一度使ったらガラクタになる。持っていてもいいし、つけたままでもいい」
「もう使えないんだこれ……うーん、じゃあ付けとこう」

 返すかどうか悩んで、マナはそのまま付けておくと決めた。

「そう言えば、エマも力を取り戻してたけど、一度しか使えないってことは、別の奴使ったの?」
「ああ、引継ぎペンダントは個の神殿に50個はあった。そのうち三十個ほどエマが持っていった。恐らくいろんな場所に隠して、五百年後にも取れるようにしたのだろうな」

 ドンダの話を聞いた後、マナは早速神殿を出ようとする。

「じゃあ、行ってくる!」
「待て、大事なことを忘れていた。これを持っていけ」

 行こうとするマナを引き留めて、ドンは透明な丸い球を渡した。

「なにこれ?」
「それは怨念球の力を封じ込めることが出来る球だ。『封印球』とでも呼ぼうか。エマが力を得る儀式を始める前に到着できればいいが、出来なければそれを使って、力を封じ込めろ。球の力がエマに完全に定着するまでは時間がかかる。その前ならば、その球で封じ込めることが出来るはずだ」
「完全に力が定着したらどうなるの?」
「そうなるとエマから怨念を引きはがすのは不可能になる。止めるには殺すしかない。まあ、怨念が完全に定着したエマを殺す事など、まず不可能だろうが」
「分かった。でも、これどうやって使うの?」
「この球を額に三十秒間当てるだけだ」
「それだけ? じゃあ、簡単じゃん」
「軽く言うな。怨念球の力を得たエマを三十秒間行動不能にしないといけないということだ。いくら力を取り戻したお前さんでも一人では無茶だろう」
「そ、そうか……」

 ただでさえエマは強い。通常の状態でも三十秒間足止めするのは、困難なのに、強化された状態のエマを足止めするのは、マナ一人の力では到底不可能だ。

「協力者を連れていけ。外にいる翼族は、お主に従っているのだろう。それなりに強そうな奴もいたし、いないよりいた方がいいはずだ」
「うん」

 魅了したハピーやジェードランたちを使う事に、罪悪感はあった。もしエマと戦いになった場合、ただでは済まないかもしれない。命を賭けさせることになる。
 しかし、それでも自分一人でとは思わなかった。絶対に、何が会ってもエマを止めなければいけない。それが転生してまで達成したいと思った、自分の使命だ。ジェードランたちに協力してもらわないと、達成できないというのなら、答えは一つしかない。

(でも、絶対に犠牲者は出さないようにしないと……力を取り戻したんだし、大丈夫なはず……)

 白魔導士としての力を取り戻したマナは、高度な回復魔法を使うことが出来る。死者だけは絶対に出すものかと心に誓った。 

「それじゃあ行って来る」
「言い忘れたが封印球に怨念を封印したら、すぐここまで持ってこい。ここ以外の場所に置いていたら、一か月ほどで壊れてしまうからな。
「分かってた」
「それと、封印球は落としたら割れるから、注意せよ。一個しかない物だからな」
「分かってるよ。心配性だなぁ」

 マナは受け取ったあと、急いで部屋を出ようとする。

「あ」

 その時、ツルっと手が滑り、封印球が重力に従って地面に落下していく。

 落下して割れる直前、マナは何とか反応して、封印球を取ることが出来た。焦って顔中から冷や汗をかく。

「セ、セーフ」
「……お主、本当に大丈夫なんだろうな」
「大丈夫だよ! 力も戻ったし! 絶対にエマを止めてみせる!」

 マナの体には、前世と同じ量の魔力が溢れていた。
 これなら白魔法を、きちんと使えるだろう。

 部屋から出ると、ジェードラン、ハピー、カフス、ケルンが、心配そうな表情で待ち構えていた。

「あ! マナ様! ご無事でしたか!」

 ハピーが、ほっとしたような表情でそう言った。

「うん。ドンダは大丈夫だって言ったでしょ」
「良かったです~」

 抱き着いてくるので、マナはそれをすっと避けた。

「ところでその球は何だ?」

 ジェードランが尋ねた。

「貰ったの。重要な物なんだ」
「重要? 何をするものなんだ」
「えーと」

 この球の事を説明するには、エマが行おうとしていることを説明する必要がある。

 マナはいっそ、ここで全てを話そうと思った。

 自分の素性も何も話さずに、これ以上付き合わせるのは、少し卑怯だ。スキルで魅了している時点で卑怯ではあるのだが、最低限の誠意として、話くらいはしておいたほうがいいだろうとマナは思った。

「皆に聞いてほしい話があるの」

 マナは、自分が転生者であること、そして転生した理由を全て話した。

「転生……」
「なるほどなのじゃ……なんか年齢の割に大人っぽいとは思っておったのじゃ」

 全員、マナの話を疑わなかった。
 普通信じられない話ではあるだろうが、あっさり信じてくれたのは、これも魅了スキルで好感度が高まっているからだろうとマナは判断する。

「しかし、飛王も転生者なのか……通りであの若さで四対八枚の翼を……」
「とにかくマナ様は、飛王の凶行を止めたいのですね……それなら急がないといけませんね」
「うん……皆力を貸してくれる?」

 マナの問いかけに、当然だという表情で、全員が頷いた。

「ありがとう……エマはどこに行ったのかな?」
「恐らく自分の城、パーナマイト城に行ったじゃろうな。大事な儀式を、自分の城以外でやるとは考えられん」

 ケルンが推測した。マナも正しいと思った。

 確証はないが確証を持ってから動いたのでは、遅すぎるかもしれない。

「じゃあ、皆行くよ。パーナマイト城へ!」

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