9.ジャイアントゴーレム戦

2020年12月20日

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 俺たちは洞窟の出口に向かって進んでいく。

 先ほどの黒い騎士への恐怖は覚めておらず、口数少なく歩いていた。

「そうだ。もしかしたら、さっきの黒い騎士、ジャイアントゴーレム倒したんじゃないか?」

 俺はふとそう思ったので、呟いた。

「……確かにのう。ジャイアントゴーレムは出口付近に居座っておるから、倒さねば入ってこれんし……倒したとしか考えられるぬな」
「じゃあ、戦わないでいいのにゃー?」

 倒されていたのならラッキーだ。
 意外とあの黒騎士がここに来ていたことは、ラッキーなことだったかもしれない。

 そう思って、出口の方に歩いて行ったのだが、

「いるな……」

 出口付近ジャイアントゴーレムを発見。
 方法は不明だが、あの黒騎士はゴーレムを倒さずにこの洞窟に侵入したらしい。

 馬鹿でかい、人型の岩を発見。

 一目見てアレがジャイアントゴーレムだと分かった。
 3階建ての家くらいの高さがある。

「あ、あれがジャイアントゴーレムでいいんだよね……?」
「そうじゃ」
「倒せるのあれ……」
「大きさから与えられる印象ほどの強さはない」
「そうなのか?」

 俺は鑑定してみる。

『ジャイアントゴーレム 33歳 Lv.42/46
 岩で出来た巨大な魔物』

 相変わらず見れば分かるという説明はさておき、レベルは今まで見た魔物の中で、1番高い。

「レーニャ。【獣化ビーストモード】を使うのじゃ」
「うにゃ~……やっぱりあれを使う必要があるかにゃー。疲れるから嫌いにゃんだけどにゃー」
「なんだ【獣化ビーストモード】って?」
「獣人が使える固有のスキルじゃ。獣のようになり、ステータスが一定時間大幅にアップする。じゃが、効果が切れたら、反動でしばらく動きが大幅に鈍くなり、まともに戦闘を行えなくなる。レーニャが獣人と化しているあいだに倒すのじゃ」
「どれくらいなの?」
「10分くらいじゃな。まあ、いけるじゃろう」

 いけるか? 10分。
 ここは、メクを信じよう。

「じゃあ、行くにゃー! にゃぁぁぁああああ!」

 レーニャが大声でそう叫び出す。
 すると、全身から黒い毛が生えてきて、猫というより、少し大きめの真っ黒い虎というような姿になる。

「にゃああああああああああ!」

 レーニャがジャイアントゴーレムに向かって突撃する。声質は今までと変わらない。

 レーニャに気付いたジャイアントゴーレムはゆっくりと立ち上がる。

「テツヤ。奴の胸の辺りにある、赤い球体が見えるか?」

 メクがそう言ってくるので、俺はジャイアントゴーレムの胸の辺りを見る。
 確かに赤い球体がある。

「あれは、ゴーレムコアというものじゃ。あれを壊せば奴は死ぬ」
「分かった、あの赤い球体を狙えばいいんだな」
「いや、そうではない。あの赤い球体は見えない結界で守られており、そう簡単に攻撃が通らないようになっておるのじゃ。なので、その前に奴の頭を攻撃する。ゴーレムの頭は全身の動きを統率する機能があり、頭に強打を加えられると、それが狂い結界を解いてしまうのじゃ。なので、まずはお主の【隕石(メテオ)】を奴の頭に落とすのじゃ」
「分かった」

 妙に詳しいなと疑問に思いつつ、俺は【隕石メテオ】を奴の頭に落とそうとする。

 が、出来ない。
 奴がでか過ぎるせいで、いくら天井が広いこの洞窟とはいえ、落とすスペースが足りないのだ。

「ごめん、奴がでか過ぎて、落とせないみたい」
「なぬ?」
「どうしよう」
「……そうじゃな。ならば、奴の足を攻撃して膝をつかせれば、落とせそうか?」

 それならいけそうだと思っていたので、俺は頷いた。

「レーニャ! そやつの足を攻撃して、膝をつかせるのじゃ!」
「分かったにゃー!」

 レーニャが返事をする。

 後ろに回りこみ、レーニャはジャイアントゴーレムの足を攻撃しようとする。

 ジャイアントゴーレムは、両手を横に伸ばし、一回転して、攻撃してくるレーニャをなぎ払った。

「うにゃ!」
「レーニャ!」

 攻撃を受け吹き飛ばされるレーニャを見て、俺は思わず叫ぶ。

「あの状態のレーニャはそうそうやられん」

 メクの言うとおり、レーニャは元気よく立ち上がった。

「しかし、簡単に隙を作ってくれんのう」
「俺がいったん敵をひきつける」

 そう言って俺はゴーレムの前に出る。
 そして【炎玉フレイムボール】を撃ちゴーレムを攻撃した。

 ジャイアントゴーレムの視線が俺のほうに向く。
 レーニャは俺の意図を察したのか、少し下がる。

 俺は何度も【炎玉フレイムボール】を撃つ。

 ダメージは無いみたいだが少し苛立っているようだ。
 敵は足を上げて、俺を踏み潰そうとしてくる。

 そして、その時、ゴーレムの背後からレーニャが突撃。
 上げていない足のほうに全速力で走っていき、思いっきり突進した。

 ゴツ! と言う音がする。
 ゴーレムはバランスを崩して倒れ始めるが、レーニャは大丈夫なんだろうか?
 結構平気そうだった。普通に走って倒れるジャイアントゴーレムを回避する。

 そして、俺は【隕石(メテオ)】の魔法を倒れたジャイアントゴーレムの頭に落とした。

 ガシャアアアアン! という轟音が鳴り響く。
 スキルレベルが1上がった事で、威力がだいぶ上昇している。

 頭を強打したジャイアントゴーレムは、しばらく動きが止まる。

「今じゃ! 胸の球体を攻撃するのじゃ!」

 俺は【炎玉フレイムボール】をジャイアントゴーレムに当て、そしてレーニャが鋭い爪で球体を攻撃した。
 すると、球体は割れる。

 その瞬間、ジャイアントゴーレムはガラガラと崩れ出し、ただの大きな石くれになった。

「やったー倒したにゃー!」

 その瞬間、レーニャが喜びの声を上げる。
 直後、レーニャの【獣化ビーストモード】が解かれる。

「あ、ふにゃー」

 元の姿に戻ったレーニャは、力が抜けたみたいで、座り込んだ。

「倒せたか、よかったのじゃ。少し行けばもう外なのじゃ」

 そうか、よかったー。

 とりあえず、谷の外に出られそうで少し安心する。

 そういえば、あのゴーレムは吸収できるのかな?
 ゴーレムって生き物じゃないってイメージがあるから、無理かな。

 俺は石くれに触ってみる。お、出来るみたいだ。

 こいつ一応生物の範疇なんだな。
 俺はジャイアントゴーレムを吸収した。

 HP50上昇、MP8上昇、攻撃力10上昇、防御力20上昇、速さ5上昇、スキルポイント4獲得。
 スキル【弱点結界コア・ガードLv1】獲得。

【弱点結界Lv1】? 
 奴が自分のゴーレムコアを守るときに使っていた、結界を作るスキルか。

 俺が使ったら心臓か、もしくは頭を守る結界が出来るのかな?

 使ってみないとわからないけど、結構いいスキルかもしれない。

「よし、じゃあ出るかー」
「にゃ~、テツヤ~、肩を貸してほしいにゃ~、1人では歩けないにゃ~」

【獣化】が解けた影響で、自力で歩く事が困難になっているらしい。
 俺はレーニャに肩を貸そうとした、その時、

 ガシャ……

 つい先ほど聞いた、黒騎士の歩く音が聞こえてきた。

 その音を聞いた瞬間、俺は戦慄して固まる。音はだんだん俺達のほうに近づいてくる。
 気を取り直す。慌てて周囲を見回し、隠れられそうな場所を探す。近くに大きな岩がある。俺はレーニャを連れて、その岩の陰に隠れようとする……が、

「……!?」

 俺は息を飲む

 さっきまで、見えないくらい遠い位置にいたはずの黒騎士が、俺達のすぐ目の前まで来ていたからだ。

 こ、こいつ瞬間移動でも出来るのか? や、やばすぎるぞ。
 なんでもうすぐ出れるって時に、こんな……ここに来て何て理不尽。

「にゃ……にゃ~ん……」

 後ろにいるのでようすを見ることは出来ないが、レーニャが泣きそうな声を出している。

 黒騎士は俺達を無言で見つめている。俺は恐怖と緊張で動けない。
 すると、黒騎士のフルフェイスメットの目の部分が、一瞬赤く光る。
 その光を見た瞬間、全身に痺れが走る。

 ビリビリと全身が痺れ、恐怖や緊張関係無しに、動く事が出来ない状態になる。

 その後、何故か俺の右手が、自分の意思とは関係なしに、勝手に動き出す。
 手は黒騎士の前に差し出される。俺の手を黒騎士が握った。
 そして、今度は黒騎士の目が青く光った。その瞬間、

 激痛が俺の右手に走った。

「ああああああああああ!」

 あまりの痛さに絶叫する。

 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!

 いくつもの針で同時に手の甲を刺されているような痛みだ。

 痛い痛い痛いぃぃ! 何をしてるんだ!? 何なんだよ!?

「テ、テツヤ!」

 レーニャの心配そうな叫び声が聞こえる。

 痛みは黒騎士が俺の右手を掴んでいるあいだ、続いた。
 実際は30秒ほどだが、俺にとっては永遠に近い時間、痛みは続いた。

 そして、黒騎士は俺の右手から手を離す。瞬時に右手を押さえ、俺はその場でうずくまる。
 いつのまにか麻痺は解けていたが、右手の痛みでそれを気がつく余裕は無かった。

 そして、黒騎士が、

「抗え」

 そう俺に囁いた。

 意味が分からない俺が、戸惑っていると、黒騎士が闇に包まれ、そして忽然と姿を消した。

「き、消えた?」
「……助かったのかの?」
「い、いなくなったにゃ?」

 ブルブルと震えながらいなくなったのを確認する。
 何だったんだあいつは? 人の右手に激痛を与えるというだけの存在だったのか? はた迷惑な奴だ。

 と思って俺は、未だに痛みの残る右手を見てみると、

「ん?」

 手の甲に黒い何か付いている。拭ってみる。取れない。
 刺青みたいに刻み込まれているみたいだ。
 さっきの黒騎士がつけていったのか。

 黒い丸の真ん中に、小さい目が描かれているという、奇妙な模様だ。
 この目を見ていると、なんだか魂を吸い込まれそうな気分になる。俺は目をそらす。
 その模様の下には、謎の文字が。見たこと無い文字なので読めない。

「なんじゃそれは?」

 メクが聞いてきた。

「分からない。たぶんさっきの黒騎士がつけていったんだよ」
「何らかの刻印じゃな……見たこと無いが」
「下に文字が書かれているんだけど、読める?」
「……読めんな。初めて見る文字だ」

 うーん、何なんだこれ。気味が悪いんだが。

 俺は刻印を見つめて鑑定しようとしてみる。
 今回は鑑定不可とすら出ない。鑑定をしようとすらしないのだ。
 ステータスを見てみても、何も書かれていない。

「なんだこれ……? どういうこと?」
「わからんな。もしかしたら後で呪いが発動して、朝起きたらわしのような姿になっておるかもしれんぞ?」
「こ、恐いこと言わないでくれ」

 俺は若干震える。

「にゃ~、テツヤも師匠みたいになるにゃん? 可愛くにゃるけど、撫でてもらえなくなるのは嫌だにゃー」

 レーニャはのんきにそんなことを言っている。

「それが何か分からんが、とにかく命が助かった事は確かじゃ。正直奴が現れたときは、生きた心地がせんかったぞ。さっさとこの洞窟から出るのじゃ」
「そうだな」
「にゃ~、やっとあの谷から出れるにゃ~。長かったにゃ~」

 とりあえず実害は今のところ無いので、気にし過ぎるのも良くないかもしれない。
 俺達は少し歩く。
 出口はすぐそこにあり、俺達は洞窟を出た。

 洞窟の外は草原が広がっていた。
 見渡す限り、一面に草が広がっている。その雄大な景色に若干感動する。

 はぁー、良かった。出られた……

 少し安心してきた。最初あの谷に落とされたときは、マジで絶望しかなかったからな。

「にゃ~、出れたにゃ~!」

 レーニャが嬉しそうに草原を駆け回っている。
 俺より長いあいだ、あの谷にいたレーニャは、出られた嬉しさは俺より大きいだろう。

「やっと出られたのう……」

 メクは感慨深そうにそう言った。

 レーニャがしばらく走り回ったあと、俺達のもとに戻ってくる。

「さて、これからどうするかの。わしは、元の体に戻る旅を再開するつもりだが。お主はどうするきじゃ?」

 メクがそう聞いてきた。
 そうか、谷から出たら一緒にいる理由も無いから、ここで別れることになるのか?

 俺は出てから、何をするか考え付いていなかった。
 まあ、さっき刻まれた、謎の刻印の意味を調べるという理由は出来たが。鑑定しても何も出なかったので、なんでもない可能性もあるが、やはりこのまま放っておくのはさすがに気分が悪い。

「にゃ~……もしかして、アタシたちこれでお別れにゃ?」

 レーニャが寂しそうな顔でそう言った。

「いやにゃ~、師匠とも一緒にいたいし、テツヤとも、もっと一緒にいて、いっぱい撫でてもらいたいにゃ~ん」

 レーニャが涙目になりながら言う。

「ま、待て、レーニャ、わしはお主とここで別れる気はないぞ。お主を1人で置くなどと心配でならんからな。元に戻る方法を探すのは、別に1人じゃないと、できんというわけでもあるまいし」
「そうにゃ? テツヤは?」
「俺は、そうだな。この刻印の意味とかを調べたいと思ってたんだが。俺も別に1人じゃないと、駄目だって理由はないし……一緒に行くか」
「そうにゃん! 一緒に行くにゃん!」

 涙目になったレーニャがパーっと明るくなった。

「じゃあ、一緒に行くという事じゃな。抜け道を抜けた所であるここは、ルーカスト草原の南じゃ。ここから北西方向に向かえば、メーストスという、多種族が暮らす町がある。まずはそこに行こうかの」
「そうだな。町があるなら、そこに行こうか」
「行くにゃ~」

 こうして俺達は、一緒に旅をする事になり、最初の目的地メーストスへと向かうのだった。

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