第6話 町に行く

2020年12月20日

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 躊躇なくサイクロプスの巣に足を踏み入れると、サイクロプスはペペロン達の侵入に気付く。立ち上がった後、巨大な棍棒を手に取り、臨戦態勢に入った。

(ゲームをやっている時は何の疑問にも思わなかったけど、勝手に人ん家侵入して、家主ぶっ殺して宝を奪いさろうとしているんだよな。まあ、サイクロプスって旅人を襲う凶悪な魔物って設定が確かあった気がするけど……)

 ペペロンは自分のやろうとしている事が、結構な外道行為では? と若干抵抗を感じる。

(まあ、いいか金欲しいしな。すまん。死んでくれサイクロプス)

 思いっきり開き直った。

 サイクロプスが一直線に突進してくる。そして、棍棒を振り上げ振り下ろす。ペペロンはそれを軽く回避。そして、腰に差していた剣を目にも止まらぬ速さで抜き、サイクロプスの腕を切り落とした。

 サイクロプスは腕を抑えて苦しむ。それを見ていたエリーが、

「フレイム」

 と魔法を放つ。本来弱い魔法のフレイムだが、高い知力があり、魔法攻撃力の高いエリーの放つフレイムはかなり強力だ。サイクロプスの頭に直撃し、そのまま頭を焼き尽くした。頭を焼失したサイクロプスは力なく後ろに倒れる。
 かなりあっさりサイクロプスは死亡した。

「私の出る幕がありませんでしたわね……」

 サイクロプスが倒される様子を見ていたララが、少し残念そうに呟いた。

「さて宝を収集するぞ」

「はい!」

「ペペロン様の仰せのままに」

 巣の中を捜索し始める。
 まずサイクロプス本体が、首に高い宝石をつけている。ペペロンはサイクロプスの死体に近づきそれを取る。大きなルビーのブローチだ。旅人を襲って取ったのだろう。

「ペペロン様ー、宝箱見つけたのですが、鍵がかかってて開きませーん」

 エリーがそう言った。宝箱には鍵がかかっていて開かないものがある。こういうのを開けるにはピッキングのスキルを習得する必要がある。ピッキングのスキルレベルが高ければ開けることが可能だ。
 ちなみにペペロンはピッキングのスキルを持っていない。持っているのはゴブリンのガスと、それから、

「私が開けますわ」

 ララだった。ララはかなり多彩で、あらゆるステータスが高く、その上、数多くのスキルを有している万能タイプに育てていた。ピッキングもスキルレベル25と、だいたいの鍵を開ける事が出来る。

 ピッキングするには道具がいるが、常にララとガスには持たせていた。現実になっていても道具は持っているようで、ララは懐から道具を取り出してピッキングを開始する。

「開きましたわ」

 数秒後あっさりと開いた。あまり難しい鍵ではなかったようだ。

「えーと……お、宝石が結構ありますねー。おー魔法書もあるじゃないですかー。これはブリザードの魔法ですねー。5等級の魔法ですか。あまり強くはないですが8等級のフレイムよりましですかー」

 魔法書が入っていたみたいだ。結構幸運だ。ブリザードは氷属性の攻撃魔法。フレイムよりは強い魔法である。ちなみに等級は8等級が1番低く、超1等級が1番高い。

 その後、巣を探したが特に高く売れるものは見つからなかった。
 ちょうど宝箱に入っていたので、それごと運んで町まで向かうことにした。

「ここから最寄の町はクォレスか。さっそく向かうぞ」

 ペペロン達は宝箱を持ちながらクォレスへと向かった。

 ○

 サイクロプスの住処から、1時間ほど歩いた地点にクォレスはあった。この町はリンドクーシールという国に所属している町である。平地にあり、交易が盛んだ。他国の国境の近くにある町で、それゆえ昔から幾たびも侵略を受けてきた。そのため高い城壁が町を囲っており、防衛力の高い町となっている。

 リンドクーシールは、『三ツ眼』と呼ばれる、額に第三の眼がある種族が支配してる。三ツ眼以外にも多種多様な種族が居るが、国を支配する王族や貴族は全て三ツ眼族である。
 各国には嫌われている種族と好かれている種族が存在し、嫌われている種族はその国の国民に見つかったら襲われ、殺されたり奴隷にされたりしてしまう。逆に好かれている種族は、宿の料金が安くなったり、物が少し安く買えたりするようになる。
 リンドクーシールでは、オークが嫌われている種族で、好かれている種族は三ツ眼、魔人だ。
 ペペロンは配下の種族は影響はない。普通に町に入れば特に問題ない。
 そう思っていたのだが……

「貴様ら、エルフに賢魔に……お前はもしかして小人族か!?」

「そうだが」

 ペペロン達は町に入ろうとしたのだが、門番の男に呼び止められる。額に第三の眼がある。三ツ眼である。

「なにがそうだがだ。お前ら見たいな弱小種族が普通に歩いているなんて怪しすぎるぞ。なぜかかなり豪華装備をしてやがるし。もしかして、主人の物を取って逃げてきた逃亡奴隷か?」

「何? 違うが」

 何やらやけに怪しまれている。リンドクーシール所属の町に立ち入れないのはオークだけで、それ以外の種族は普通に入る事はできるはずだ。
 ペペロンはどういう事だと、眉をひそめる。

「っけ、信じられるかよ。てめーら全員とっ捕まえて調査してやる。おい! 怪しい奴らが出た! 来やがれ!」

 門番は仲間を呼んだ。
 これは面倒な事になった。どうするか? とペペロンは考える。

 別に倒すのは容易いが、序盤で近くにある町と敵対関係になるのはまずい。ここは逃げるべきだと、結論を出す。

「ちょっとあなた方! この方をどなたと心得ますか! この方は……」

 とララが怒りながら門番達に向かって怒鳴りかける。ペペロンはそれを止めて、

「一旦引くぞ」

「え、え? うぅ、ペペロン様がいうなら」

「ここはそうした方がいいでしょう」

 ララはしぶしぶしたがい、エリーはペペロンの考えに同意した。
 ペペロン達は走って逃げる。

「逃げたぞ! 追えー!」

 門番が追いかけてくるが、ペペロン達と比べてかなり足が遅い。あっさりとまくことに成功した。

 町の少し遠くまで来て3人は話し合いを開始する。

「あの町はリンドクーシール所属の町で間違いないはずだな。我々は普通に入れるはずだが」

「そのはずですがねー。確かに種族として弱い、私の種族は少し下に見られていましたが、ここまで拒絶されたことはないですねー」

「私はこの町に来た記憶がございますが、普通に入れましたし、買い物できましたわ」

 ゲームだった頃の記憶だろう。
 この世界が現実になった事で、少し歪みが起きているのだろうか? ペペロンは原因を探る。

 門番は弱小種族と言っていた。ゲーム時代は種族として弱いから蔑ろにされる、などという事は無かった。もしかして、現実になるとそれが変わったのでは? とペペロンは推測する。弱い種族はそれだけで全ての国から蔑ろにされるようになっているのかもしれない。
 そうなると、小人、賢魔、エルフだけでなく、不遇7種族全てが、同じように蔑ろにされている可能性が高い。
 そうなると、町で取引が出来ない。それはかなり困る。
 売れないと金を稼げないし、まずは町で色々品物をそろえる必要がある。

 簡単な魔法や技術が書かれている本は、町の本屋で買ってそろえるのがいいし、ほかにも設計図を買わないといけない。設計図を買うことで、その設計図に描かれた者を作れるようになる。簡単なイスや机から、大きな家や研究所まで作るには絶対に設計図が必要となる。

 町では初期の拠点を発展させるのに必要な、畑や研究所などの設計図を買うことが可能だ。絶対にこれらは早いうちに買わないといけない。

「とにかく我々の種族は、あまり良い扱いを受けていないのは確かなようだな」

「取引が出来ないのは非常に困りますわ。いっそ制圧しますかこの町を」

 過激な方針を口にするララ。

「さすがにそれはまずい。この町の制圧自体は可能かもしれないが、リンドクーシールから目をつけられ、下手すれば大軍に攻められることになる。さすがに魔法が弱い現在の状況で、大軍相手に戦争すると敗北する可能性が高いだろう」

 ペペロンはララの考えを否定する。ララは「すいません……ペペロン様が蔑ろにされていたのを見て、少し頭に血が上っておりました」と反省の弁を口にする。

「よい。いい方法がある。私とララは難しいが、エリーは尻尾さえ隠せば普通の人間にしか見えない。人間は恐らく蔑ろにされている種族ではないはずなので、いけるだろう」

「なるほど、尻尾を隠して私が取引をすればいいのですね。しかし、門番に顔を覚えられてはいないでしょうか?」

「奴は主に私と会話していた。それにエリーは後ろの方にいたから、はっきりと顔を覚えられていない可能性が高い。もし、覚えられていたら、また別の方法を考える必要があるがな」

「そうですね……取引するものは」

「とりあえず、宝石を全て売って、その後、研究所、畑、立派な家などの設計図と、建築技術を上げることの出来る本、農業系を上げる事のできる本、そして魔法書を出来るだけ買ってきてくれ。あと、建築をするのに必要な道具、資材を加工する道具も必要だ。それらのものを運ぶためのバックパックも買ったほうがいいな」

「買えますかね?」

「足りない場合はエリーの判断で、いらない物といる物を決めてくれ。どうせ何度か来ることになるから、今日必要なものを全て買う必要はない」

「そうですねー。じゃあ行ってきますー」

 エリーは、尻尾を隠し、宝箱を持って町に取引に向かった。遠くからようすを見ると、町に入ることが出来たみたいだ。

「良かった。何とかなったみたいですわ」

「今度から取引はエリーに任せるか。変装の魔法があればいいのだがな」

「変装の魔法は3等級なので、町には売っていないでしょうね……」

 しばらくしてエリーが帰ってくる。背中に、大きなバックパックを背負っていた。
 結構重量があるだろうが平気で歩いている。エリーは知力、魔力を中心にステータスを上げており、体力や筋力はあまり上げていないが、それでも平均よりかはかなり高い。重そうな荷物でも軽々ともてるくらいの筋力はあった。

「買ってきましたー。結構高く宝石が売れたので、必要なものはあらかた手に入りましたよー。お金も300Gくらい余りました」

「そうか。それは良い事だ。ではさっそく拠点に戻ろう」

 取引を終えて、3人は拠点に帰還した。


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