第4話 部下たち

2020年12月20日

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「心配したんだよ~! ペペロン様~!」

 女の子が大声で叫びながらペペロンに向かって走り、そして飛びついた。

 ペペロンは床に倒れる。防御力が高いので痛みはない。女の子はスリスリとペペロンの頰に自らの頰をすりつける。

「ファナシア! 何をしているのです! ぺぺロン様から離れなさい!」

 ララが強引に少女を引き剥がす。少女は「あ〜!」と叫び声を上げた。

「……ファナシアか」

 いきなり頬ずりをされて内心かなり動揺しながらも、何とか威厳を保ちながら言った。

 この少女はハーピィーのファナシアだ。年齢は14歳くらいの小さな少女だ。ショートロングの水色の髪、愛嬌のある顔。背中から大きな白い翼が生えており、まるで天使のようにも見えるが彼女はハーピィである。
 こんな立派な翼を持っているが、残念ながらファナシアは飛べない。ハーピィーの翼は見せかけに過ぎないものだった。

「何すんだよ、ララ〜」

「ぺぺロン様への無礼な振る舞いは、この私が許しません」

「ええ〜いいじゃんか〜。な、いいだろ〜ぺぺロン様〜」

「まあ、私は構わんが」

「駄目です! もう、ぺぺロン様はファナシアに甘いんですから!」

 ララはペペロンに注意した。ゲームの中でファナシアに特別な接し方をした覚えはなかったが、どうやらララの中では、ペペロンがファナシアに甘い態度を取っている事になっているらしい。

「何、騒いでんだ~、お、王様起きてたんすかー」

 再び扉から声が聞こえてきた。
 どうやら、ペペロンの部下の1人ゴブリンのガスが帰ってきたようだ。マジック&ソードのゴブリンは一般的なイメージとは違い、人間に近い姿で、見た目的に150cmくらいの小柄な人間の頭から、角が2本生えてきているという外見だ。ガスはスピード重視のラフな服を装備している。

「エリー、ただいま帰還しましたー。」

「ポチ帰ったぜー。お、ペペロン様、起きてましたか」

 続々と部下達が偵察から帰ってくる。
 賢魔族のエリーとコボルドのポチが帰還してきた。

 エリーは童顔に長い黒髪、黒い帽子と黒い衣装を着ている少女だ。悪魔の尻尾が生えており、可愛らしく動いている。

 ポチは名前とは裏腹にダンディーなおっさんと言う感じの外見だ。
 顎鬚を大量にたくわえており、目じりにはそれなりに長い年月を生きた証の皺が刻まれている。
 ちなみにコボルドは、犬が人型になっているという外見ではなく、人に犬の耳と尻尾が生えているという感じだ。

「皆、よく帰還した。ん? ノーボはどうした?」

 巨人のノーボがいないことに気付く。

「ここにおります」

 外から声が聞こえてきた。
 ノーボはなぜか外にいるようだ。なぜ? と思ったが、

「そうか、お主はでか過ぎて入れぬのか」

「そうでございます」

「では、私達も外に出るとしよう」

「あ、私のためにペペロン様に外に出てもらうわけには」

「部下を1人だけ外に置いて話をするわけにはいかんだろう」

「ペペロン様……」

 ノーボの感動するような声が聞こえてくる。
 ペペロンは外に出て、ほかの部下達もあとに続いた。

 外には巨人のノーボが座っていた。
 座っている状態でもペペロンよりずっと大きい。
 体がとにかく大きく、ごつい顔をしているという外見は一般的な巨人と同じだが、ノーボは大きなメガネをかけていた。度は入っておらず伊達めがねである。

「皆、よくぞ帰って来てくれた。早速報告を頼む」

 ペペロンは威厳を込めた口調でそう言った。

「皆、違う方向に偵察しに行ってたっすからねー、まずは俺から報告するっすわー。俺は北東方向を見に行ったっす。道中の景色は完全にグロリアセプテムが作られる前のまま。そして、北東方向にあるベルヘム洞窟に行ったっすね。あそこは中にいた魔物を完全に一掃して、鉱山を作った場所っす。他ならぬ俺が魔物の掃討作戦の指揮を取ったからよく覚えているっすわ。今は完全に鉱山を作る前のまま。魔物もうようよいやがったっす。俺からの報告は以上っすねー」とガスが報告し、

「次は不肖ノーボめが報告いたします。私は北西方向に偵察に行きました。地形情報は変わっておりませんが、やはり今までに作ったはずの施設が全て無くなっておりました。北西にはファナ湖がありましたが、あの辺りにあった大規模な農場も全て消え去っておりました」続いてノーボが報告、

「じゃあ次はアタシが報告するよー。西の方に行ってきたよー。あの辺には飛べなくて悲しんでいるアタシのために、ぺぺロン様が作ってくれたお空に飛んでるお城のシーア城があったんだけど、どこにもなかったよ! 悲しい!」ファナシアは軽い口調で報告し、

「次は俺かな。俺は東側に行ってましたぜ。東には俺が取っ捕まえてきたドラゴンを飼っている牧場があったはずですが、綺麗さっぱりなくなってやがりました。せっかく王様の命令で世界中回ってドラゴン捕まえて来たのになぁ。参りますよねーまったく」ポチは少しだるそうに報告する。

「最後は私エリーが報告しますね。えーと……私は南のほうに行ってまいりました。南にはルーフル火山があり、その火山に私が必死に研究してようやく作れるようになった、火のマナ抽出所があったはずですが、残念ながらなくなっておりました。自分が苦労して作ったものがなくなっているって悲しいですね」最後にエリーが少し落ち込んだような表情で報告した。

「……やはりこの地は昔のグロリアセプテムがなかったころに戻ったみたいですね」

 ララが暗い表情でそう言った。部下の皆も暗い表情をしている。

 ペペロンは何を言おうか迷う。
 実はペペロンは、グロリアセプテムが完全になくなっていたのなら、いっそ解散して皆それぞれ暮らしたほうがいいのではないかと思い始めていた。ゲームでは部下達を率いる良き王を演じられていたが、現実で果たして同じ事ができるのか? きちんと率いていけるだろうか? 

 ――無理だ。俺はただの友達のいない大学生だ。いずれボロを出して部下達に嫌われるだろう。

 そう思った。
 解散した後、元の世界に戻れないならこの世界で生きて行けば良い。ステータスが元のままなら、生きていくことは容易いだろう。この世界がマジック&ソードの世界なら、ある程度生きていくのに必要な知識もある。

 よし、そうしよう。ここで彼らとはお別れだ。そう思って話を切り出そうと思ったとき、

「大丈夫よ皆ここにいるお方を誰だと思っていますの?」

 ララがいきなりそう言う。

「元々ちっぽけな小屋から始まって、部下を増やして技術を研究して、元々弱かった私達を強くして……そして、人を増やして町を作り、都市を作り、都市を増やし、国を作り、そして他国を征服し世界で1番の強国グロリアセプテムをたった一代で築き上げた大英雄ペペロン様よ! 絶対にもう一度ペペロン様についていけば、グロリアセプテムをこの地に蘇らせ、世界を征服できるに決まっておりますわ!」

 ――は?

「そうだな! 王様は誰よりもすげーからな!」

「うん、ペペロン様なら、またお空にお城作ってくれるよね!」

「ペペロン様なら、また誰も飢えない理想郷を作ってくださる」

「俺はペペロン様にどこまでもついてきますぜ。あなたといれば退屈しないですからね」

「進んだ技術を研究すれば、きっとすぐにグロリアセプテムも蘇りますよ!」

 ――――な、なんだと……

 部下達のキラキラとした眼差しを一身に受けるペペロン。

(これはどうする? どうすればいい? いや、断るべきだってのは分かってるけど、いやだってそれは……)

 その時、ペペロンは幼い日の思い出を思い出した。

 小学4年生、徐々に社会性というものが身についてくる年頃の事。ゆうくんというクラスメイトがいた。
 ゆうくんは皆から嫌われていた。理由は空気が読めないから。くだらない事でクラスが盛り上がっているとき、一言余計な事を言ってテンションを下げさせる。まったく協調性がなく、ほかの者たちに馴染もうという気をほとんど感じないような奴だった。彼はいつも1人だったが、いじめられてはいなかった。
 理由は強かったから。喧嘩が、ではない。心がだ。いじめようとした奴らの心を逆にへし折るくらい、全く何事にも動じない性格だった。
 ペペロンも当時はゆうくんを嫌っていた。ただ、今はゆうくんのような強さが欲しい、とペペロンは心から願った……

「任せろ、私は大英雄ペペロンだ。グロリアセプテムをこの世に蘇らせ、世界を征服するなどたやすくやってのけよう」

 願っただけで手に入れる事は出来なかったが。

 ――いや無理だろぉお!? ゆうくんしか出来ねぇだろこの状況で断る事! 一般的日本人の俺にそこまで空気の読めねぇー行動はとれねーだろ!

 ペペロンが蘇らせると言った瞬間、部下達から喝采が上がる。

 こうして、ペペロンの異世界征服記が始まった。

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