第13話 誓約

2020年12月20日

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 ペペロン達の拠点の少し離れた所、4人のエルフが散歩をしていた。
 このエルフたちは、アーシレス村に生まれ育ち今はペペロンの拠点で暮らしているエルフたちだった。

 皆、少し幼い風貌をしている。もう子供でもないが決して大人でもないという、微妙な年頃だった。

 エルフたちの先頭を歩いているのは女の子だった。
 満面の笑みを浮かべながら歩いている。
 笑顔が眩しいその少女の名はリーチェ。
 短い青色の髪と、大きな眼が特徴的な少女だ。
 元気で愛嬌のいい娘として、皆から愛されていた。

「なあリーチェー。ちょっと村から離れすぎていないか?」

 彼女の後ろを歩いている男エルフがいった。

「大丈夫よ! この森はモンスターもあまりでなくて安心だし。この森にはカラーナウサギっていう珍しくておいしいウサギがいるって聞いたの。カラーナウサギを狩って村に持ち帰れば、きっと喜ぶわ」

 うきうきしながらリーチェはそう言った。彼女は基本的に自分のために行動しない。その行動で他人が喜んでくれるか? が基準となっている。
 ようはリーチェはかなり良い子であった。

 しばらくするとウサギを見つけて、それを狩った。3体狩るのに成功した。
「これで皆も喜んでくれるわ!」とニコニコと満足そうな笑みを浮かべている。
 そして、リーチェ達が村に帰ろうとしたその時、

「よう」

 目の前から何かが現れ声をかけてきた。

(あれは!?)

 声をかけてきたのは、男達5人。種族はばらばらだが一つ共通点がある。
 額に髑髏を象った模様の入った、灰色のバンダナを巻いているという点だ。

「B……BBC」

「う、嘘だ」

 リーチェ達はBBCの登場に怯える。

「奴隷にするには、いい年頃だな」

「ああ。若いしそれなりの額で売れそうだな」

 BBCの連中はリーチェ達に近づいてくる。

「逃げて!」

 リーチェは叫んだ。

「ここは私が何とかしておくわ! そのあいだに逃げるのよ!」

「で、でもリーチェ!」

「行きなさい! 早く!」

 リーチェにせかされて、付いてきていた3人は逃げ出した。

「おっと、逃がさないぜ」

 と追いかけようとしたとき、リーチェが足止めをする。
 彼女の手には剣が握られている。構える姿はさまになっており、震えたりもしていない。
 リーチェはアーシレス村のエルフたちの中では、トップクラスに剣の腕が立った。さらに度胸があり、実践が今から始まるというのに、集中していた。
 BBC達は、これはほかの連中に構わないほうがいいなと判断し、リーチェだけに襲い掛かる。

 最初は5人の攻撃を上手く凌いでいたのだが、しばらく経つと、後頭部の辺りを殴られる。

「ぐッ!」

 リーチェはうめき声を上げて倒れんこんだ。そして、徐々に視界が暗くなっている。数秒たって彼女の意識は完全に失われた。

「手間取らせやがって。おい運ぶぞ」

「了解ー」

 リーチェはBBCに運ばれていってしまった。

 ○

「よし、完成したな」

 ペペロンの目の前には少し立派な家がある。
 これはこの前まで寝泊りしていた、最初から拠点にあった小屋だ。この小屋を改築して、村長の屋敷を作成した。
 これで、この村の注目度と言うのが少し上がる……というのはあくまでゲーム時代の話だ。現実になったいまどうなるかは分からない。

(まあ、これ建てないと次の拠点レベルに上げられないからなー。拠点レベルを上げるのに必要な建物は……えーと防壁と……学校と、教会と、道を整備しないといけないし、家ももっといるよな。それ以前に人口が500人は必要だから、まだまだ先は遠いな)

 ペペロンがそう考えていたとき、

「ペペロン様! 鎧を装備した集団がこちらに近づいてきます」

 ララからそう報告が入った。

「数は?」

「百人以上です。旗を掲げておりました。あの旗は確かスパウデン家の物だったと思われます」

「……なるほど。スパウデン家か」

 ペペロンは今まですっかり忘れていたことをここで思い出した。

 現在拠点があるこの場所は、誰の土地でもないというわけではない。
 アレファザレイド帝国のスパウデン家が所有している土地である。
 つまりペペロンは人の土地に勝手に村を作っているということになる。
 集落の状態なら何も言ってこないのだが、村に発展すると、土地の所有者が文句を言いに来るのだ。
 下手をすれば戦いになって追い出される。ただ、交渉しだいでは税を払う事で住む事を許されようになる。

 税と言ってもそこまで大した額ではない。せいぜい年間食料収穫量の5パーセントを治めればいい。
 税額はどこでも同じではなく、高い所は物凄く高い。その中で、スパウデン家はかなり低かった。
 税を払う事を断れば戦争になる。今ここに来る連中を倒す事は可能だろうが、そのうち大軍を送られるようになり、そうなるとおしまいだ。ここは素直に従うしかない。

「貴様ら! ここを誰の土地だと断って村を作っておる! ここはスパウデン家当主、マラウダ・スパウデン伯爵の領地であるぞ!」

 大声で叫ぶ声が聞こえる。村の近くに豪華な鎧を装備した騎士の集団がいることを確認する。集団の先頭には馬に乗った男がいる。あれが騎士達のリーダーだろう。
 騎士達の額からは大きな一本の角が生えている。オーガと呼ばれる種族だ。
 アレファザレイド帝国は、1つの種族が治めているというわけではなく、いろんな種族集まって国家を形成していた。スパウデン家はオーガが当主を勤めており、帝国内でも高い存在感を持っていた。

「ここの村長は誰だ出て来い!」

 ペペロンは素直に出てきた。

「私が村長だ」

「子供……? いや、小人か? エルフどもが多い村のようだが、よく見れば巨人にハーピィー、ゴブリンにコボルド、賢魔もいるな。そして、エルフに小人と、よくもまあこれだけ雑魚種族を集めたものだな」

 癪に障るようないい方をしてくるが、ここで文句を言ってもどうにもならない。ペペロンは我慢する。

「私はスパウデン家の騎士団、団長である。ルー・プラスダーである」

「ペペロンだ」

「先ほども言ったとおりここはスパウデン家の領地である。ここに勝手に村を作るとは非常にけしからん行為だ。即刻ここから出て行くがいい」

「ああ、ちょっと待ってくれ。今ここを出てくれと言われても非常に困る。交渉しないか?」

「交渉か。申してみよ」

「この土地は元々誰も開拓していなかった土地だし、そこにスパウデン家に組する村が出来ても損はないのではないか?」 

「つまりスパウデン家に忠誠を誓う気があると?」

「そういうことだ」

「なるほど」

 その後、ルーは馬から下りる。そして、部下に合図を送り羊皮紙を2枚持ってこさせた。
 あれは、誓約書だ。血印を押してこの村をスパウデン家に所属すると誓わせるのだ。
 持ってきていたということは、最初からそのつもりで来ていたなとペペロンは推測する

「では、交渉を始めようか」

「ああ、待ってくれ。こんな所で話をするのもなんだし、私の屋敷まで来て欲しい。つい先ほど改築が終了したんだ」

「それもそうだな。では、案内するがいい」

 ルーは部下達にしばらく待つように言う。護衛のため騎士が2人ついてきているようだ。
 ペペロンはルーを案内する。案内しながら、ララに「交渉しているあいだ決して屋敷には近づくな。ほかのものにも同じように伝えるのだ」と命令をした。最初のうちはどうしてもある程度下手にでて交渉する必要がある。それを部下に見せるのはまずいとペペロンは思った。
 ララ「かしこまりました」と、特に理由を聞かずに命令に従った。

 ルーと護衛の騎士2人とペペロンは、村長の屋敷に入った。

「さて、交渉する事と言っても、税率くらいではあるが、さっそく始めようか」

 ルーがそう言ってきた。

「そうだな……この村で収穫した作物の4割を我がスパウデン家に支払うのだ」

「4割?」

 ペペロンは高すぎやしないかと思う。元々5パーセントと良心的な税率だったはずだ。4割はあまりに高すぎるだろう。

「高すぎやしないか? どうだろう、もうちょっと低くならないものだろうか?」

「貴様ら劣等7種族だけの村なんぞ、成長してもこれから戦の役に立つ事もあるまい。それなら農作業で役に立ってもらうしかないだろう」

 なるほど、種族として舐められていることが原因なのか……ペペロンは憂鬱な気分になる。
 食料は拠点にとって根幹となる要素の一つだ。食料が少なければ発展がかなり遅れる。
 4割も取られていたのでは、やっていけなくなってしまう。

「確かに我々は劣等種族ではあるが、戦いになればきっと使えるはずだ。どうか安くしてくれないか?」

「ふん、世迷言を申すな。劣等は劣等。戦いで使い物になることなどない」

 いっそぶん殴って分からせてやろうかと思ったが、踏みとどまる。
 どっちにしろ個人の武勇を分からせても、種族全体が舐められているのでは考えを変えるとは思わない。
 実績を示せればいいのだが、とペペロンは考えた。

「何かスパウデン領内で問題が起きていれば、我々が解決してみせよう。そして解決した暁には、税率を下げる、というのはどうだろうか?」

「問題の解決……? スパウデン領内で現在抱えている一番の問題はBBC共のアジトが領内のどこかにあり、そいつらが領内で犯罪を犯しまくり治安を著しく下げているというのが一番大きな問題ではあるがな。アジトの場所が分からぬし、かなり困っておるのだ。まあ、貴様らごときにどうこうできる問題ではあるまい」

「……この領内にあるBBCのアジトを突き止め、壊滅させれば税率をさげてくれるのか?」

「まあ、貴様らには無理だろうがな」

 ペペロンはかなり悩む。BBCのアジトを壊滅などさせたら明確に敵対する事になる。エルフの村を襲った連中を皆殺しにした件は、ばれていないかもしれないが、さすがにアジトを崩壊させるまでしてしまっては、ばれる可能性が高いだろう。

「とりあえず今はこの誓約書に血印を押してもらおうか。誓約文に貴様らがBBCを壊滅させた時は、税率を1割まで下げると書いておこう」

「少し待ってくれ。ほかに困っている事はないか?」

「ない」

 うむを言わせない感じでルーは言ってきた。
 本当に問題がないのか、よっぽど税率を下げたくないのか分からないが、とにかくこれ以上交渉は出来ないだろうと、ペペロンは感じた。
 とりあえず一旦は受けておかないとまずいのでペペロンは、

「わかった」

 と頷き、誓約書に血印を押すことに同意した。

 その後、ルーは部下に誓約文を誓約書に書かせる。2枚とも同じ事を書かせる。一つはペペロンが所有する誓約書で、もう一つはルーが所有する誓約書だ。

 ペペロンは誓約文を確認する。
 税率は収穫高の4割。これを毎年収める。そうすれば村を攻めることも追い出すこともない。敵が攻めてきた場合は追い払うみたいなことが書かれている。きちんと、ブラック・ブラック・カンパニーのアジトを見つけ出し壊滅させた場合、税率を1割に引き下げるときちんと書かれている。

 5パーセントよりは高いが1割なら取り立てて騒ぐほど高い税率ではない。少なくとも4割よりはだいぶましだ。
 ペペロンはとりあえず誓約書に血印を押した。同じくルーも血印を押す。

「よろしい。そちらは大事に保管しておきたまえ。頑張って村を発展させ、税を多く払えるようにするのだぞ」

 と言い残してルーは去っていった。

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