第二十七話 新たな侵入者

2020年12月26日

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 ベリアス達は、エンペラースライムがスモールオーク達を追い込んでいくようすを見ていた。

「……助けに行けないか……っち。まあただ、あんな馬鹿でかいものを引きつけてくれたから、先には進みやすくなった。奴らの犠牲を無駄にしないために、さっさと先に進むぞ」

 少し非情だが、助けることはせず、こっそりと進んでいく。

 彼らは迷宮の地図を表示できるアイテムを所持しており、それを使用しながら移動していた。

 道中、敵を颯爽と倒しながら進む。
 そして、なんとか次の階に続く道まで辿りついた。

「よし、降りるぞ!」

 三体は穴を降りて次の階へ降りた。

 ○

「とりあえずスモールオークは倒せたね。ポイントを失わずに済んで良かったー」

 少しリックは安心していたのだが。

「あれ?」

 迷路内を監視玉で見ていて気づく。

 明らかに魔物の数が少ない。

 ダンジョン内で死んだ者は敵味方関係なく消滅する。
 味方もDPとして吸収はされないが、死体は消えるのだ。

 そのため少し、気づくのに遅れたのだが、確実に味方の魔物の数が減少している。

「こ、これは……」

 リックは原因を考え始める。

「も、もしや敵が入ってきたのでは? 私たちがスモールオークに手間取っている間に……」
「げっ……それはだいぶまずいのでは……」
「かなりまずいのです! 敵はAランクの魔物も簡単に倒せるくらいの魔物なのです!」
「さっきのスモールオークはもしかして、陽動のためだったのかな?」
「仮にそうだとしたら、今回侵入してきた敵は、かなり厄介なのです。ダンジョンについて詳しい情報を持っております」
「もしかして……赤叡山のダンジョンからきた魔物なんじゃないかな」
「そ、そうかもしれないのです」
「と、とにかく探そう!」

 リックは侵入してきたと思われる魔物の捜索を始めた。

 とりあえず一階をくまなく探してみたが、いない。
 というより、正解ルートに置いてきた魔物が、すべて居なくなっている。

「これは、二階に降りたようだね」
「二階にはクルスがいる。ここはもうクルスを頼るしかない」

 リックはクルスの通信紙を使って、連絡を取った。

「クルス」
『お? 父上は。どうしたのじゃ?』
「二階に侵入者がきた。探せる?」
『侵入者とはどんな奴らじゃ』
「えーと、分からないな……スモールオークを陽動に使ったのが、同じスモールオークとは限らないし……」

 リックは悩む。

「とにかく見知らぬ魔物がいたら退治して!」
『わかったのじゃ』

 リックの命令にクルスは了承の返事をした。

 ○

「さて、父上からの命令じゃし、探しに行かんとな」

 クルスが捜索を開始する。

「見知らぬ魔物といっても、わしはあんまりほかの魔物を覚えておらんのじゃがな。まあなんとかなるかの」

 ベリアスたちは二階に突入していた。

「森っすね」

 部下のぺレンが回りを見ながらいう。

「森になっているから森とは限らねーだろ。キース調べろ」
「りょうかーい」

 もう一人の部下のキースが、木にするすると上り、周囲を確認する。

 そして降りてきて、

「砦があったよー」
「じゃあ、森と砦だろうなここは、慎重に砦を目指して中に入るぞ」

 そう言って三体は、ゆっくりと移動し始めた。

 魔物に出くわしても、なるべく倒さずに砦に向かう。

 途中で、小屋を発見。

「これビルベシュ養殖所じゃん。ラッキー、ぶっ壊すぞ」
「「ラジャー」」

 三人は小屋の中に入る。

「相変わらず気持ち悪いっすね」

 ビルベシュは見た目がかなり気持ち悪い。
 ゲジゲジを少し大きくしたような見た目だ。

「ここからは慎重に行くぞ」

 三人は身を屈める。
 養殖所の中には、運営業務を行っている精霊が5体いる。
 自意識のない精霊であるが、侵入者を発見したら警報を鳴らすという機能が備え付けられている。
 この精霊を全て倒せばビルベシュ養殖所の機能を止めることが出来るので、見つからないよう倒さなくてはいけない

 精霊は常に動き回って、業務を行っている。
 オークたちは、動きを読んで動き、それぞれ精霊たちを潰していく。

 そして五体潰し終えることに成功した。

「やったー終わったー」
「馬鹿者がこの程度の事で喜ぶな。ビルベシュ養殖所潰しすら出来ないで、第1侵攻部隊が務まるかってんだ。出来て当たり前だ当たり前」
「隊長は厳しいっすねー」

 こうして、ビルベシュ養殖所から出た瞬間。

 扉の前に誰かが立っていた。

 銀髪の少女だった。
 目が赤く、黒いドレスを着ている。

 べリアスはその少女を見た瞬間、叫ばれる前に殺そうと一瞬思ったが、思いとどまる。

(こ、こいつは……やばい)

 本能でその少女がとんでもない力を秘めているという事に気付いたからだ。

 逃げ切れるか不明だが逃げるしかない! 
 そう思った時、

「なんじゃお主ら、何でこんなところにいる」

 少女がそう言って来た。

(あ? これって)

 もしかしてオイラ達が侵入者である事に気が付いていないのか?

 そう思ったべリアスは、

「ちょっと野暮用で……そちらは?」
「わしか? 侵入者が入ったという話を聞いてそれの捜索をしておるのじゃ。野暮用とは何なのじゃ」
「いや、さっき養殖所で音がしてたんでようすを見てみたら、精霊が死んじゃってたんですよ。まさか侵入者の仕業?」

 とっさに嘘をつく。

(オイラ達の事はばれていたか。まあ、仕方ないか。とにかくここはもう逃げに徹する。何とかごまかして外に出なければ。そしてこいつの存在をミレイちゃんに知らせる必要がある)

 べリアスはそう決意していた。

「何とようすを見させてくれ」
「はい。あ、俺たちはここで」
「分かった……ん?」

 急いで少女からべリアスが離れようとする。
 すると、

「何!? オークはダンジョンにはおらぬからさっきの奴らは敵じゃと!?」

(まずいダンジョンマスターからの連絡か! ばれた!)

 ばれたことを察したべリアスは、煙球を地面に打ち付ける。

 そして、全力で逃げ始める。

「ぬお! 何じゃこの煙は! やはりあいつら、侵入者じゃったか!」

 戸惑いの声が聞こえてくる。
 べリアスたちは足には自信があった。
 そう簡単に走って逃げだした俺たちを止められるはずはない。
 そういう自負があった。
 しかし、

「わしから逃げられると思うとは、浅はかな奴らじゃのう」

 上には上にいることを思い知らされることになった。

「命ばかりは、お助けください!」

 クルスに追いつかれ逃げ切れないと悟ったベリアスは、最終手段、土下座を炸裂させた。
 手下二人も同じく、土下座する。

「観念するのじゃ」

 一切の容赦なく、ベリアスたちにトドメを刺そうとするクルス。

『クルス、出来れば倒すのではなく、捕縛できないかな?』

 それをリックが止めに入った。

「何でじゃ」
『もしかしたら、そいつら赤叡山のダンジョンにいる魔物の可能性もあるから、有力な情報を持っているかもしれない。土下座するくらいなら、情報を話す可能性もある』
「ふむ。しかし捕縛すると言ってもな。ロープもないしの。まあじゃが、捕縛などせずとも、逃げ出そうとすれば、捕らえればよいか。こやつらの速度なら逃げられることもないじゃろう」

 ローブでは縛らずに、

「お主ら、その格好から動くでないぞ。僅かでも動いたら首が飛ぶからのう」
「わ、分かりました!」

 ベリアスたちは、土下座した体勢のまま放置されることになった。

『じゃあ、聞きたいことを言うから、その通り尋ねてね。えーと、まずは赤叡山のダンジョンから来たのかどうか。そうなら何をしに来たのか。赤叡山のダンジョンの狙いは何なのか。洗いざらい聞いてくれ』
「わかったのじゃ」

 クルスは、リックに言われた通り、まずは赤叡山のダンジョンから来たのかを質問した。

「えーと……その、言えないと言うか。うん。言えないので」
「言わないと斬るぞ」
「え、いや、ごめんなさい! でもわかるっしょ同じダンジョンの魔物なら、言えないってことは!」
「……ふむ」

 クルスはダンジョンの魔物として、ダンジョンマスターには絶対に逆らえないと言うことを知っている。
 彼らが言えないのは、言うことが逆らうことになるからだろうと理解した。

『言えないのか。まあでも、赤叡山のダンジョンから来たってことは分かったかな。ただそれ以上は言えないだろうね』
「そうじゃろうな。じゃあ始末するか」
「ひええええ! 待って!」
『可哀想だけど、ポイントになるなら、始末した方が……え? なんだって?』
「どうしたのじゃ父上」
『ごめん、ユーリが話があるってちょっとそのまま待っててね』

 ○

 ダンジョンマスタールーム。

「何、話って」

 リックは通信紙を離して、ユーリに質問した。

「あのエンペラースモールオークの処遇についてです」
「倒した方がいいんじゃないの?」
「ええ、倒せば結構DPが入ってくると思うのです。Sランクの魔物ですからね。しかしここはそれ以外にも選択肢があるのです」
「ああ、合成の素材にするとか」
「合成の素材……その方法がありましたか……ってそうじゃないのです。それも悪くはないかもしれないのですが、それより、あの魔物たちにマスター変更を行うのがベストなのです」
「なにそれ?」
「文字通り、ダンジョンに所属する魔物のマスターを変更するのですよ。今、赤叡山のダンジョンに所属しているあのオークたちを、このダンジョン所属に変更するのです。そうすれば、奴らから赤叡山のダンジョンの情報をゲットできるのに加え、高度な知能を持つ、エンペラースモールオークとキングスモールオークを仲間に出来のです」
「そんなこと出来るんだ。どうやるの?」
「カタログを見るのです」

 リックは言われた通り、カタログに目を通す。

「そこに、乗り換え札というのが、頭にあるのです。それをあいつらの頭に貼れば、このダンジョン所属に変更するのです」
「えーと、3千DPか。前回残った約一万DPとスモールオーク二体を討伐した時に得た二千DPで、合わせて一万二千DPある。まあ、三体分は買えるな」

 乗り換え札を三枚作る。

「クルスは今向こうにいるし、シロエに持って行かせるか」

 シロエに通じる通信紙を使い、

「ちょっとダンジョンマスタールームまで来て」

 とお願いした。

『えー、面倒っすけど……はぁ、しゃあないか……』

 めちゃくちゃだるそうな返事が帰ってきた。
 その数分後シロエがやってくる。

「何の用っすか」
「これをクルスがいる場所に持って行って」
「どこにいるんすか」
「ビルベシュ養殖場付近にいるから、お願いね」
「あー、あの気持ち悪い虫がいる小屋っすか。分かったっす」

 相変わらずだるそうにしながら、ダンジョンマスタールームを出た。

「あ、そう言えば、ビルベシュ養殖場といえば、奴らどうも中にいる精霊を倒して、機能停止さているみたいなのです」
「っげ、マジ?」
「一度精霊が潰されたら、再開できないし、取り壊すしかないのですね……」
「……やっぱりDPにしとく?」
「い、いや、ここは怒りを抑えるのですよ」

 ビルベシュ養殖場が壊されて、若干リックは腹を立てたが、倒すより仲間にした方が合理的ではあるので、怒りを鎮めた。

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Posted by 未来人A