第二十六話 スモールオーク

2020年12月26日

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 監視玉に敵が侵入して来ている様子が映し出される。

「人間じゃないね……魔物だ。しかも、この魔物は……」
「スモールオークなのです」

 オークは人間から見たら大きい魔物で、3mほどの身長があるが、スモールオークは1mいかないほどの身長しかない。

 そのスモールオークが2体侵入して来ていた。

「スモールオークか……何度か見た事あるけど、見た目に反して厄介な魔物なんだよね」
「結構頭がいいのです。それとスモールオークと言ったのですが、もしかしたらハイスモールオークの可能性もあるのです」
「ん? ハイスモールオークとスモールオークって見た目じゃ違いが分からないの?」
「そうなのです。キングスモールオークやエンペラースモールオークほどになれば、大きくなるのですが、ハイスモールオークはスモールオークと大きさ的な差が無いのです」
「そうなんだ」
「ハイスモールオークならランクはB、通常のスモールオークならランクはCと言ったところなのです。それほど強くないのでさっさと撃退するのです」
「そうだね……こいつらは野生の魔物なのか、それともダンジョンから攻めて来た奴らなのかな?」
「うーん……どっちでしょう。分からないのですが、3体だけなら、野生の可能性が高いのです」
「そうかな。このダンジョンの入り口がある森にも、スモールオークっていたような気が……あんまり人間を襲ってくる事はなかったような覚えがあるけどね。とりあえず、魔物達に撃退命令を出そう」

 リックは通信紙を使って命令を出した。
 現在一階の迷路には11体の魔物がいる。
 Aランク4体、Bランク6体、Sランク1体。
 Sランクの魔物はエンペラースライムで、迷路の後半に配置されていた。

 リックはAランクの魔物のバジリスク、ワイバーンの2体を序盤に配置し、まずはこの2体をスモールオーク達と戦わせる事にした。

 そして、魔物が配置された場所に、スモールオーク達がやって来る。

 1体のスモールオークが、何かを取り出し、それを地面に叩きつけた。

 叩きつけた瞬間、煙がモクモクと立ちこも始める。

「け、煙玉!?」

 リックは驚く。
 完全に煙でスモールオーク達の姿は見えなくなっている。
 そして煙が晴れたら、

「い、いないのです」

 スモールオーク達がいなくなっていた。

「帰った?」
「いや……隙を付いて入って来たかもしれないのです。入って来たのなら、面倒な事になったのです。敵がいる位置は地図に表示されないので、探し出す必要があるのです」
「うわーまじかー」
「まあ、でもこの階は迷路だから大丈夫なのです。今どこにいるのか分からないのですが、最初の分岐までは距離的に来てないはずなので、そこを見ていれば確実に来るのです」
「そうだね。ついでに魔物も配置しておこう」

 監視玉の視点を最初の分岐に変え、そこに魔物を2体配置し、スモールゴブリン達が来るのを待った。

「オイラ達、赤叡山のダンジョン第1侵攻部隊の仕事は何だー!」
「敵に嫌がらせをすることっす!」

 アルラージの森にあるダンジョンの入り口で、小柄なオーク3体が騒いでいる。
 キングスモールオーク2体に、エンペラースモールオークが1体。

「間違ってはいないけど、そう言うとただの迷惑な奴らみたいに聞こえるだろー! オイラ達の仕事は、ダンジョンにこっそり気付かれないように侵入して、中にあるビルベシュ養殖所などの施設を破壊したり、何か戦いに有利になりそうなものを配置したりして、後に来る第2、第3侵攻部隊の戦いの手助けをする事だ!」

 そう言ったのは、エンペラースモールオークのベリアス。
 赤叡山のダンジョン第1侵攻部隊の隊長を務めている。

「つっても、こっそり侵入して破壊していくって、地味で嫌らしい仕事なのは変わりねぇっすよね……」

 キングスモールオークのペレンがそう呟き、

「僕達も華々しく戦ったりしたいよ~」

 もう1体のキングスモールオーク、キースが不満そうな顔で言った。

「オメーら文句を言うなっつの! これも立派な仕事だからな! オイラ達スモールオークは大して強くねーから、こうやって地味な仕事でもきっちりこなしていかにゃならんのだ!」
「それは分かってるっすけどねー」
「やる気でないよねー」
「オメーら……もういい、とにかく作戦の説明をするぞ」

 二人はやる気なさそうだったが、ベリアスは作戦の説明を始めた。

「最初にハイスモールオークのブーム、ベームコンビをダンジョン内に送り込み、敵の監視の目をひきつけさせた。後はオイラ達がダンジョン内に侵入して、破壊工作を行うだけだ。ブーム、ベームコンビが失敗したと分かれば速やかに撤退する」
「このダンジョンって監視玉1個しかないんっすか?」
「ダンジョンランクがDらしいからな。ダンジョンランクがB以上になると監視玉の数が増やせるが、Dでは増やせない」
「そうなんだー。このダンジョンは既にダンジョン探知魔法をかけてあるんだねー」
「ああ。事前に偵察部隊がダンジョン探知魔法を使ってダンジョンの情報を調べたらしい。ダンジョンランクはDで、階数はダンジョンマスタールーム含めて全部で5階。ただ中にいるモンスターは非常に強力で、探査魔法では測定不能レベルの魔物が数体いるらしいぜ」
「測定不能って……どのくらいの強さなんっすか?」
「少なくともSランクはあるな」
「隊長もSだよねー」
「Sつっても実力的に限りなくAに近いSだけどな。とにかく見つかったら即死レベルの敵が何体かいるだろうから、心して行動するぞ」
「了解っすー」
「らじゃー」
「じゃあ、行くぞ」

 そう言った後、ベリアス達はダンジョンの中に入って行った。

 ダンジョンに入ったべリアス達は早速何かを取り出す。

 白い用紙だ。ベリアスはその用紙を地面に敷く。
 すると、紙に赤い点と、それから円が描かれた。

 この用紙は、歩いた場所を自動的にマッピングする事ができる用紙だ。
 マッピングするだけでなく、監視玉で見られている位置が分かるようになっている。地図に描かれた円が監視玉で見られている場所だ。ちなみに赤い点は使用者であるベリアスがいる場所を示している。

 ダンジョンランクが高くなったら作れるようになる。
 1階につき1枚が必要なので、べリアスは予備を含めて、5枚持って来た。

「よし、入り口は見られていないようだな」

 赤い点と円は違う場所にある。
 ハイスモールオークの2体がきちんと監視の目を引きつけてくれている証だった。

「じゃあ早速行くぞ。素早くそれでいて慎重に移動せろ」
「了解っす」「了解〜」

 3体はダンジョンの中を歩き出した。

 ○

 一方その頃、リックは2体のスモールオークに手こずらされいた。

「また見失った。素早くて色んなもの持っていて、なかなか捕まえられないなー……」
「以外と厄介なのです」

 1度発見できたものの、そこで今度は一定時間体が透明になるポーションを飲まれて、見失った。
 もう一回見つけたが、またも見失い、だいぶ捕まえるのに苦労していた。

 現実、スモールオーク達が何処にいるのか探している所だった。

「あ!」

 ユーリが驚いたように声をあげた。

「どうしたの?」
「宝が取られたのです!」

 ダンジョンには宝箱が設置してある。
 一階の迷路には4つほど宝箱が置いてあった。

「そう言えばいい忘れていたのですが、宝が取られるとDPが減ってしまうのです」
「ええ!? 」
「一個取られると、1000DP無くなってしまうのです」
「それは宝箱を開けて取られた時点で、無くなるの?」
「いえ、ダンジョンを出られたら、無くなってしまうのです」
「そ、そうか。じゃあ、急いで捕まえないと」
「取られた宝箱の位置は分かるのですが、普通に魔物を向かわせただけじゃ、また逃げられてしまうのです」
「うーん、じゃあどうしようか」

 リックは捕まえる方法を考える。

「クルスに頼るって手もあるけど、毎度頼りっぱなしはなぁ……この階にはエンペラースライムがいたよね」
「はい。そうなのです」
「エンペラースライムは、迷路の通路を完全に封鎖するほどデカかかったよね……このエンペラースライムを使って、どうにかして奴らを逃げられないようにしたいな」
「上手い事、行き止まりの道まで誘い込んで、戻る道をエンペラースライムで封鎖すれば、逃げられ無くなるのですね」
「そう。問題は何処に置くかだけど……」

 リックはスモールオーク達を追い込むための、作戦を考える。

 まずは敵の位置を把握する必要があった。

「そういえば、かなりハイスピードで宝箱を取っていってるよね。このオーク達」
「もしかしたら、宝箱をどうにかしてサーチしているのかもしれないのです」
「ということは宝箱がある地点には高確率で現れるということか、なら宝箱があるところに監視玉をあわせていれば、発見できるかもね」

 リックは、宝箱がある場所を監視玉で見る。

 少し経つとスモールオーク達が現れた。
 発見成功。

「発見できたから、あとはどう追い込むかだけど……」
「でも、宝箱がある地点に姿を現すと分かっているのなら、結構簡単に追い込めそうなのです」

 宝箱はたいてい、行き止まりに配置してある。
 奴ら行くであろう道の近くにエンペラースライムを配置。
 そして、入っていった瞬間、エンペラースライムを進ませて道を塞げばどうしようもなくなるだろう。

 リックは作戦に移る。

 通常エンペラースライムは次の階に行く前の道に配置している。
 ここに配置すれば、物理的に倒さなければ進めなくなるからだ。

 今回はそのエンペラースライムを動かす。
 速度はかなり遅く、のろのろと動く。

 敵が次に行きそうな道を予想する。

 次の分かれ道には三つの道があり、宝箱のある道と、ただの行き止まりの道と、正解の道の三つだ。
 恐らく宝箱のある道に敵は入るだろう。

 正解の道のだいぶ奥のほうにエンペラースライムを配置。
 敵に場所を悟られてはいけない。
 エンペラースライムがいることが、ばれたら一目散にダンジョンから逃げられる可能性がある。
 宝をいくつか盗んだスモールオーク達を、外に逃がすわけにはいかない。

 見えない位置に配置し、敵が宝箱のある道に進んでいったら、すぐさまエンペラースライムを動かして、道を塞ぎ、あとはエンペラースライムで敵を殺すだけだ。

 そして、敵が分かれ道に来て、宝箱がある道へと進んでいた。
 リックは急いで、エンペラースライムを、宝箱がある道へと向かわせる。

 遅い。

 間に合うか? リックは焦る。
「早く早く!」といい、急かすが、これが全速力みたいで全然早くならない。

 そうこうしているうちに、動きの早い敵が宝箱を開けて中身を取ってしまった。

 そして、戻ってくるのも早い。

 エンペラースライムもようやくあと数メートルで、道を塞げるという所までやって来た。
 ただその数メートルを移動するのに結構時間がかかる。

「やばいのです! もうすぐ分かれ道まで戻ってくるのです!」

 あと少しで逃してしまうという所で、間一髪、間に合った。

「よ、良かった間に合った」

 急に道を塞ぐスライムがあらわれて、スモールオーク達は動揺している。
 攻撃をするが、全然効かない。

 ずるずると、エンペラースライムはオーク達に近づいていく。
 下がるしかないスモールオーク達は、下がり続けるが、当然永遠に下がり続ける事はできない。

 最終的に追い詰められる。
 そして、エンペラースライムはスモールオーク達を飲み込んで、その後消化。

 侵入してきたスモールオーク達は絶命した。

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Posted by 未来人A