第十九話 vs勇者パーティー④

2020年12月26日

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 リックはAランクの魔物達に作ったゴールデンポーションを飲ませた。
 ちなみにポーションはボブゴブリンを一体部屋に呼び寄せて、持たせてくばらせた。

 リックはアレンを倒す為の作戦を考えていたのだが、少し不安があった。

(何か集まってたよね。あれは作戦会議してたのかもしれない)

 リックは敵が何か仕掛けてくるかもしれないと警戒していた。
 事前にクルスの姿を敵に見せたのは失敗だったか? と少し後悔し始めた。

 後悔しても仕方がないので、考えていた作戦を一度確認する。

「えーまずアレンを倒すという作戦だから、アレンを孤立させる必要がある。アレンは短気な性格だ。まず少し距離を取って魔物に攻撃させる。しつこくやったら距離をつめて攻撃してくる。その一瞬を付いて、アレン以外のパーティーメンバーを攻撃して分断する。まずはこの作戦で行ってみよう」
「成功しますかね?」
「うーん。どうだろうか、警戒してるだろうけど、アレンは反射的に動くことがかなり多いからなぁ。思わず突撃しちゃう事があると思うんだよね。こっちの狙いが完全に読まれてれば、さすがに厳しいかもしれないけどね」

 リックは通信紙を並べて、座り魔物達に指示を出す。

 遠距離からの攻撃をリッチにやらせる。
 リッチはアンデッド系で魔法が得意だ。遠距離攻撃をさせるのはもって来いだとリックは判断した。

「さっそくやろうか」

 現在勇者パーティーは、砦に向かってゆっくりと移動している。
 リッチは勇者パーティーの前のあたりに配置、見えない位置から攻撃をさせる。
 他の魔物を勇者パーティーの両脇、これも見えない位置に配置する。この魔物達の存在は絶対に気付かれてはいけない。
 クルスは大分離れた位置に配置して、アレンが孤立したら瞬時に駆けつけさせる。

 リックはさっそく配置をして、勇者パーティーをリッチに攻撃させる。

 リッチを木の裏に隠れさせて、何発か中級の炎属性魔法を撃たせる。
 上級魔法では魔力が早く尽きてしまう可能性があるので中級の魔法を使わせた。

 魔法は木の間をすり抜けて勇者パーティーに向かって行く。魔法はあっさりと魔法障壁を張られて無効化される。
 相手も遠距離攻撃の方法ぐらいはある。リーツがナイフを投擲したり、だいたいなんでも出来るトニーが攻撃魔法を使って応戦する。
 反撃して来るのを予想していたリックは、事前にリッチを別の場所に移動させていた。
 リッチはアンデッドで実体を消すことができ、音や気配なく別の場所に移動したため、勇者パーティーは気付けない。
 その後リッチは移動した場所から魔法を放つ。

 こんな感じで何度も何度も、リッチの居場所を特定されないようにしながら、攻撃をさせる。
 中級魔法は防ぐのは容易ではあるが、何度も何度も攻撃されるとストレスがたまる。

「お、アレン大分イラついてるな」

 監視玉に映されていたアレンが、大分イラついたような表情をしていた。
 しかし、イラついてはいるようだが、抜け出してリッチを倒しにはいかない。
 何度もリッチを使って攻撃するが、やはり耐えている。
 大分砦に近づかれたのにそれでも耐えてるので、これは作戦ミスったなとリックは悟る。

「さっきクルスを見せたからかなり慎重になってるのかな? 別の作戦で行くかー」

 一応いくつか考えていたのでそれを実行しようとする。

『のう父上、話があるんじゃが』

 クルスから連絡が入った。

「何?」
『父上はあの者達を大分警戒しておるようじゃが、そこまで警戒するほどの者達かのう?』
「え? いや……だって勇者パーティーだし……ある程度警戒は必要だと思っているけど」
『そうかの。確かに多少手こずりそうではあるが、手こずるだけでわし一人でも十分倒せる相手じゃと思うぞ』
「そ、そうなの?」

 リックは長い間勇者パーティーに所属して、アレンやビクターの強さを見てきたため、大分強さを過大評価していた。
 クルスは一度戦って冷静に戦力分析をした結果、確実に勝てると判断していた。

『下手に小細工をすると、逆に危険になる可能性もあるのじゃ。ここはこの階にいる魔物で総攻撃をかけて一気に叩き潰すのじゃ。これなら確実に勝てるのじゃ。わしには父上から貰った金色の液体もあるしの』
「うーんでもなぁ」

 総攻撃をかけるなら最初やっとくべきだったよなぁとリックは思う。
 一度クルスを見せた状態では、相手も対策を考えている可能性もある。
 正直失敗したなぁとリックは後悔した。

(あ、でもそうだな)

 ここでリックは一つ策を思いついた。
 相手にクルスを見せたから、一番警戒しているのはクルスだろう。
 そのクルスが眼前に現れたらどうしても注意はクルスに行くはずだ。
 そこで後ろから奇襲をすれば一たまりもないはずだ。
 ゴールデンポーションを飲ませたAランクの魔物達なら、あっさりと倒される事もないだろう。
 これならいけるとリックは思った。

 リックはアレン単体を倒すという作戦を変更して、全滅させる作戦をとることにした。

 勇者パーティーは砦の近くまでたどり着いていた。
 リーツが確認したところ、砦はかなり大きく見えており、普通に歩いて2〜3分ほどの距離まで近づいていた。

「やっと攻撃が止んだな」

 勇者パーティーが受けていた炎属性魔法の攻撃が、つい先程止んだ。
 アレンは苛立っている表情をしていたが、攻撃者を倒しには行かなかった。
 理由はドーマが、真祖(トゥルーヴァンパイア)が現れるまでは、皆で警戒しながら固まって行きましょう、と言ったからだ。
 それでもドーマは、アレンが倒しに行かないかヒヤヒヤしながら見ていた。

「真祖はいつ現れる?」
「いつ現れてもおかしくないので、一段と警戒を高めてください」

 ドーマの発言を聞いて、パーティメンバーは警戒をいっそう強める。
 すると、ガサリと音が勇者パーティーの前方から聞こえた。
 音を聞いた一同は、素早く音が鳴った方角を向いて構えを取る。

「また会ったのう」
「!!」

 そう言いながら、クルスが木の陰から現れた。
 その姿を見た勇者パーティーに緊張が走る。

ドーマは前から堂々と表れたクルスを見て、眉を潜める。

(何故こうも堂々と現れたのでしょう。普通は奇襲を仕掛けた方がいいはずですが……罠でしょうか?)

 ドーマは罠である可能性に思い至る。

(どんな罠でしょうか? おそらく真祖に意識を向させた所に、背後から他の魔物に奇襲をさせる気でしょうか)

 そう予想した。
 ドーマは、仮に真祖で攻撃を仕掛けてくるなら、その時は単体か少数の魔物を連れて来てのことだろう、と思っていた。このダンジョンのマスターは慎重な性格をしてそうなので、砦の守りを手薄にしたくはないだろうと思ったからだ。

(これは少々作戦を変更する必要がありますね)

 ドーマはそう考えた後、横にいるトニーに向かって、

「トニーさんは先に行かずここに残ってください」

 小声でそう言った。
 トニーは無言で頷く。

 直後、パーティーの後ろにあった木が、いきなり動き出してパーティーを攻撃した。
 ハイトレントが普通の木に擬態していたのだ。
 反応が完全に遅れたエーリンは、ハイトレントの木の枝に胸を貫かれる。
 エーリンは絶命しダンジョンに吸収された。

 リーツとドーマは何とか攻撃をかわし、アレンとトニーは枝を切り裂き攻撃に対処する。ビクターは攻撃が当たったのだが特にダメージは負わなかったようだ。

 パーティーはわずかに混乱している隙を突いて、クルスがアレンを攻撃した。
 何とかビクターがアレンの前に立ちふさがり、攻撃を受け止めた。

 ハイトレントの真後ろから、キングゴブリン、アラクネ、リッチ上の方からワイバーンなど、そこまで大きくない魔物達が襲撃してくる。
 トニーとリーツで何とか襲撃に対処する。
 その後、少し遠くの方から、サイクロプスやベヒーモスなどの、巨大な魔物が木をなぎ倒しながら勇者パーティーのほうに向かってきた。

 ドーマは敵の襲撃や仲間の死に焦ることなく。
 冷静に懐から白い球体を取り出す。その球体を持ち呪文を唱え始めた。

「ぬ? 分かった了解したのじゃ」

 クルスはそう言った後、ドーマに向かって攻撃を仕掛ける。
 他の魔物達も狙いはドーマに絞っているようだ。

「させるか!」

 クルスをアレンとビクターの二人がかりで止める。
 魔物達の方は、トニー、リーツの二人で足止めした。

 トニーはかなり強いようで、一度に5体くらいの魔物を足止めしている。魔法と剣技を使いこなし、簡単には近づけないようにけん制をしていた。

 クルスの攻撃を何度か受け止めたビクターは、ダメージの為か苦悶の表情をしている。
 なかなかドーマに近づけないクルスだったが、いい事を思いついたという表情をした後、大きくジャンプする。

「上からはそう簡単に防げまい!」

 そう言って上からドーマを狙う。
 狙われたドーマは焦ることなく。

「リーツ! 今です!」

 その合図を聞いたリーツは、一瞬で懐から瓶を取り出し、それを地面に叩きつける。
 妙な匂いが広がると同時に、魔物達が動きを止めた。
 これは停滞のポーションだ。魔物の動きを僅かに止める事ができる。
 真祖と言えど例外ではなく。動きが止まる。強ければ強いほど止める動きが短くなる為、クルスが止められた時間は僅か一秒ほどだったが、その隙をドーマが付いた。

「パーフェクト・プリズン!」

 魔法が発動する。
 少し青色が入った透明な壁が、宙で停止するクルスを囲むように発生した。
 停滞のポーションの効果が切れたクルスは、地面に向かって落下するが、地面には落ちず、その壁に止められた。

 その様子を確認したアレンとビクターが砦に向かって、全力で走り出した。

「ぬ?」

 クルスはアレンとビクターを追いかけようとするが、壁に阻まれる。

「あなたにはしばらくここにいてもらいますよ」
「ぬぬぬ?」

 クルスは動揺する。砦には魔物が一体もいない。三階にファイアードラゴンが一体いるだけだ。
 このまま足止めされては、まずい事になる。
 クルスは全力で壁を殴る。
 すると壁にひびが入った。

「なんじゃ。壊れそうではないか。ふはは、これでは足止めなど出来ぬぞ」

 クルスは笑いながらそういうが、ドーマは動揺しない。
 目を閉じて呪文を唱えると、壁が一瞬で修復された。

「こうやってすぐ修復されたら、さすがにそう簡単には破れないですよね?」
「なぬ? ふん、修復とやらは無限にできまい。出来なくなったときがおぬしの最後じゃ」
「そうですね。もって15分くらいですかね。エーリンさんがいれば魔力を貸してもらいつつでやれたんですが。15分でこのダンジョンのマスターを殺せればいいんですがね……」
「ぬぬぬ……」

 このダンジョンの深さを正確には知らないドーマは、ネガティブな感情を込めていったが、後ろにファイアードラゴン一体しかいない状況を知っているクルスは、率直にやばいと思った。
 その表情が顔に出たクルスを見て、ドーマは「おや?」と呟き。

「もしかして、意外といけそうなんですかね」
「ふ、ふん! この程度の牢はすぐやぶってやるのじゃ! それ以前にお主らなんぞ、その辺の魔物達に殺されて、終いじゃ!」
「まあそうですね。魔物達は任せましたよ。トニーさんリーツさん」

 ドーマは現在も戦っている。二人に向けてそう言った。
 二人は無言のまま僅かに頷いた。

 ○

「ビクター大丈夫か?」
「ぶっちゃけ腕はボロボロだ。めっちゃ痛いがなんとかする」
「足は引っ張るなよ」
「お前はこんな時くらい、仲間をいたわれんのか」

 アレンとビクターの二人は砦に到着して、次の階に行く為の穴を捜索していた。

「しかし魔物がいねぇな」
「さっきの奴らが全部だったんだろう」
「そうなんかな……お」

 砦の中央ぐらいに大きな穴が開いていた。

「行くぞ」
「ああ」

 二人は穴の中に飛び込んだ。

 ○

「どどどどど、どうしてこうなった」
「ややややや、やばいのです」

 一瞬にしてピンチなったリックとユーリの二人は怯えていた。

「ファイアードラゴンちゃんであの二人は防げるのですか?」
「うーんどうだろう……ゴールデンポーションを飲ませたSランクの魔物はかなり強いはずだけど……うーん……」
「あれなんなのですか? クルスちゃんを閉じ込めてるの。出れるんですか?」
「ヒビが入って、すぐ修復しているから、一生閉じ込めておくのは無理だろうけど……どのくらいもつんだろう?」
「あの人錬金術師なのですよね? 魔法使ってますけど……」
「魔法と錬金術は相性がいいから同時に勉強する人も多いよ。僕は所持魔力が少ないから、あまり使えないけど……」
「どうするのです? クルスちゃんが出るのに時間がかかって、ファイアードラゴンちゃんもやられたら、一巻の終わりなのです」
「うーんそうだな……」

 リックは少し悩む。

「さっき回復魔導師の人倒したけどなんDPある?」
「6500なのです」
「そうか……うーん。よし」
「何か思いついたのですか?」
「クルスはそのうち出るだろう。これは確実だと思う。だから仮にアレン達がここに来たとしても、すぐにはやられないよう、時間稼ぎをする必要があるね」
「何か方法が?」
「錬金術師はそういうのは得意なんだよ」

 リックはそう言ってカタログを開いて必要な材料を作り始めた。

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Posted by 未来人A