第三十話 圧倒的な力

2020年12月26日

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 第三侵攻部隊は全員ダンジョンに入った。

「迷路ですね……進みましょうかカリウシ様」
「……」
「カリウシ様?」

 部下からの言葉は、カリウシの耳には入っていなかった。
 彼はダンジョンに入った瞬間、身を突き刺してくるような、嫌な気配を感じ取っていた。

 このような不吉すぎる気配を感じたのは、カリウシにとって初めてのことであった。
 絶対的に自分の実力に自信を持っていたカリウシは、どんな難しいダンジョンに入っても、余裕であった。

 しかし、それがどうであろうか。
 今のカリウシは、額から汗を垂れ流し、心臓の鼓動が早くなり、息が若干荒くなっている。

 こんな経験をしたことは、赤叡山のダンジョンに誕生してこの方、一度もなかった。

 部下はカリウシのそんな様子を見て、激しく動揺する。

 今までこんな姿を見たことがないので、それも当然だろう。この先に何か尋常でないものが待ち受けている。そんな予感を部下の吸血鬼(ヴァンパイア)たちは感じていた。

「カリウシ様……引き返しますか?」

 部下が尋ねた。

 その質問を聞き、カリウシは我に返る。

 先頭にいたカリウシは、振り返って部下たちの表情を見た。
 動揺しているというのが、一目見て分かった。
 カリウシは、自分が隊長として、間違った態度を取ってしまっていたことに気づいた。

 どんな状況でも、部下たちを不安にさせないように、堂々とした振る舞いをするのが、隊長の務めである。
 彼は不安な心を何とか静め、再びいつもの堂々とした態度に戻り、

「戻るわけがあるまい! このカリウシが、Dランクダンジョンの魔物に負けるわけがあるまい!」

 そう言い放ちながら、ダンジョンを歩き始めた。

 部下たちは少し安心して、カリウシについていく。

 そして、しばらく歩いたところで、カリウシの感じていた不吉な感覚が急に強くなってくる。

 今回はカリウシだけでなく、部下たちもその感覚を感じていた。

 その場にいた全員が自然と身構え、臨戦態勢を取る。

 そして、

「こいつらか、侵入者は」
「はぁー、めんどいっすけど、命令じゃ仕方ないっすからねー。さっさと倒して、寝るっすかー」

 二人の魔物の登場に、第三侵攻部隊の面々は顔色を青くした。

 見た目は、銀髪少女が一人と、やる気のなさげな白髪の女が一人だ。
 しかし、その中にとんでもない力があるということを本能的に悟った。

 カリウシは、動揺する心を何とか抑える。
 そして、この場でどうするか、一瞬で考える。

(確かに相手は強いだろうが、たった二人だ。こちらはこの人数。吾輩もいる。過剰に恐れる必要は無い。勝てるはずだ)

 恐怖を静めるため自分に言い聞かせた。

「貴様ら怯えるなこの人数だぞ! 負けるはずがなかろう!」

 部下たちを奮い立たせるため、大声で叫んだ次の瞬間。

「貴様ら吸血鬼(ヴァンパイア)か? 実はわしもそうなのじゃ。まあ、だからと言って手加減はせぬがな」

 その声が自分のすぐ近くから聞こえた。
 下を見ると、そこには銀髪の少女の姿が。
 驚愕する暇もなく、少女は腹にパンチをし、カリウシが体をくの字に折ると、今度は首を手刀で叩き落とした。

 落ちた頭を足で踏みつぶす。

「こうすれば吸血鬼(ヴァンパイア)でも死ぬじゃろ」

 再生力の強い吸血鬼(ヴァンパイア)でも、頭が潰されればどうしようもなく死んでしまう。
 吸血卿(ヴァンパイア・ロード)のカリウシは、あっけなく絶命した。

 カリウシが死んでから、部下の吸血鬼(ヴァンパイア)たちは激しく混乱した。

 激闘の末に死んだという死に方なら、まだ良かっただろうが、あっさりと赤子の手を捻るように殺されてしまったので、訓練された精鋭兵たちもこれには言葉を失った。

「親玉は殺したっすか。一応あたしも働いておきますかー」

 そうやる気のなさげに呟いた後、シロエは部下の吸血鬼(ヴァンパイア)たちに迫る。

 人間体だと若干戦闘力が落ちるが、それでもシロエの力は強力である。
 吸血鬼(ヴァンパイア)では、シロエの速度に全く対応できず、なすすべなく次々と殺されていった。

 二人は一体も残さず、敵を殲滅した。
 全て倒して、ダンジョンに吸収された。

「よし、終わりじゃ」
「これあたしいらなかったんじゃないっすかねー。チビ姉様一人でも倒せたっしょ」
「まあ、そうじゃがのう。父上の命令じゃし仕方ないじゃろ。あとチビ姉様と呼ぶな」
「ふわー……じゃあ、一階に戻って寝てきますか……」
「わしも戻るか」

 仕事を終えた後、二人は二階をあとにした。

 ○

「あいつらを全部倒して、5万4000DP獲得したのです! 大収穫なのです! さらにこれでダンジョンランクがDからCに上がったのです!」
「おおー、やったー」

 第三侵攻部隊を退治したため、大量のDPが入りダンジョンランクがCへと上昇した。
 それにより出来ることが増えるので、ユーリはそれをリックに説明をした。

・ダンジョン図鑑を出せるようになる
 ダンジョン図鑑はダンジョンの魔物の情報が書かれた図鑑。最初はダンジョンにいる魔物の種類くらいしか載っていないが、鑑定をすると、その魔物の詳細な情報が載るようになる。死んだり、乗り換えられたりしたら、その魔物のページが消滅する。

・契約書を作成可能になる
 他のダンジョンと契約を結ぶための契約書を作成可能。一枚1万DP。

・ダンジョンの外に出せる魔物の数が増加
 十体が限度だったのが、二十体が限度に変更。

・吸収率増加が出来るようになる。
 魔物死亡時のDP収入が増加する。ビルベシュには適用されない。5000DP。

「これぐらいなのです」
「ダンジョン図鑑ってのを使ってみたいけど」
「あ、はい」

 ユーリがパンと一回手を叩いた。
 すると、本が出てくる。
 何度も見ているカタログとは、違う本であった。

「これが魔物図鑑なのです」

 リックは本を手に取り、ページをめくる。
 最初のページはダンジョンマスターのリックについて書かれていた。
 ページにはダンジョンにいるものの、現実を模したような精密な絵と、名前が載っていた。
 しかし、それ以上の細かい情報は書いていない。
 ほかのページにはクルス、シロエなどのページもあったが、リックのページと同じだった。

「これは、鑑定をすると詳しい情報が書かれるんだよね」
「そうなのです」
「でも鑑定って高いよね。一回2万DPだったよね」
「現状では2万DPは高いのです。もっとダンジョンを育てれば。2万DPくらいなら安く感じるようになるのですが」
「そうかー。まあ、今はそんなに使えないな。でも自分を鑑定してみるか。僕に何ていうスキルがあったのか、少し気になるし」
「あ、鑑定するのですか。じゃあ、2万DP使って……」

 リックは二万DP支払い、自分のステータスを確認した。

 紙が出てきた、ヒラヒラと中に舞い上がり、床に落ちる。

「それにステータスが書いてあるのです」
「そうなんだ、どれどれ?」

 リックは紙を拾って書いてあることを読んでみた。

 リック・エルロード 17歳 男
 HP  120/120
 MP  130/130
 攻撃  23
 防御 34
 速度 35
 スキル 合成効率上昇 

「合成効率上昇か。なんか予想通りだね。このステータスって強いの」
「えーと……」

 ユーリはステータスを見て、答えにくそうにしている。

「ご主人様のよさはステータスなんかでは、測れないのです!」
「……悪いんだね。まあ、分かってたから聞く必要なかったけど」

 若干リックは落ち込む。

「これで、魔物図鑑には僕の項目が載ってるんだよね」
「そうなのです」

 ユーリが図鑑を開いてリックに見せた。
 確かにリックの名前が書かれたページに、詳細なステータスが書かれている。

「ここに書かれているってことは、この紙は捨てていいの?」
「というか自動的に消えるのです。明日にはもうなくなってるのです」
「そうなんだ」

 そう聞いたリックは、鑑定紙を無造作に置いた。消えると分かっているのなら、わざわざ大事にしまう必要性はない。

「そういえばこれ、ユーリのページがないね」
「魔物図鑑ですから、ダンジョン精霊は載っていないのです」
「あの、僕人間だけど載ってるんですが」
「忘れたのですか? ご主人様は私と契約して、人間以外の存在になったのです。魔物といえば魔物と言ってもいいと思うのです」
「ええ!? 僕って魔物になってたの!?」

 人間やめたと聞いたときは、そこまでショックを受けてなかったリックだが、魔物になったかもしれないと聞くと少しショックだった。

「……まあ、クルスもシロエも、新しい仲間のベリアスたちも魔物だし……いいか別に」

 リックは何とか衝撃の事実を受け止めた。

「それで、あと何DP残ってるんだっけ?」
「えーと、3万DPなのです」
「新しい魔物を作るか、それともDP収入を上げるか……」

 リックは悩む。

「私はとにかくDP収入を上げるべきだと思うのです。恐らく赤叡山のダンジョンは、今回の失敗でもう攻めてくるのは難しくなるはずなのです。ここでDPを一気にためて、逆に赤叡山のダンジョンに攻め込むのです。そして、逆にこちらが有利な条件で契約をすれば、凄い数のDPが入るようになると思うのです。Bランクになれば長い時間、魔物をダンジョンの外に出せるようになるので、そこまでDPを貯めるのです」
「どのくらい出せるようになるの?」
「現在のCランクは丸一日が限度なので、それでは攻めるのは難しいのですが、Bランクからは30日間外に出せるようになるのです」
「一気に増えたね」
「30日間出すには、魔物一体につき、3万DP使う必要があるので、その分のDPも貯める必要があるのです」
「ちなみにBランクまで必要なDPはどれくらい?」
「えーと…………残り約100万DPなのです」
「そ、そんなに!?」
「大丈夫なのです! とにかくDPを増やすためにビルべシュ養殖場を増やせば、間違いなく凄いDP収支が見込めるようになるのです! 案外100万くらいあっという間なのです!」
「そ、そうなのかなぁ。うーん、じゃあそうするかー。DPを貯めてBランクになり、そして赤叡山のダンジョンに攻め込む」

 リックはこれからの行動を決めて、早速DPを使用し二階横の部屋に大型ビルベシュ養殖場の作成を開始した。

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Posted by 未来人A