第十三話 勇者パーティー崩壊への道 死者

2020年12月26日

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 アレンはフィッツの代わりになるパーティーメンバーを見つけて、何度かダンジョンに行ったが。
 代わりとなった者は、レベルの差が大きいため付いていけず。一度行ったら、やめる者ばかりで、固定のメンバーは見つかっていなかった。
 勇者パーティーは戦力減で、ダンジョン攻略がさらに難航していた。

 しかし、アレンはそれでも自分を追い込むかのように、何度も何度もダンジョンに行っては、その度に敗退して、パーティーメンバーはかなりの不満を抱いていたが、今の所離反者は出ていなかった。

 今日も勇者パーティーは、一人新入りを入れて、ダンジョンに潜っていた。
 Sランクダンジョンの下層まで行っていたが、やはり苦戦していた。
 Sランクダンジョンの階の数は、全部で20〜25階くらいだ。
 15層くらいからが、下層になる。

 現在、勇者パーティーは16階にいる。
 このくらいの階になると、ほとんどの魔物がSランクの魔物になってくる。
 一人、経験不足の者を抱えた状態なので、当然、苦戦していた。

(まだ……まだ発動しねぇのか……まだ追い込みが足りねぇのか?)

 アレンが無茶をして何度もダンジョンの行くのは、自分を徹底的に追い込んで、ピンチになればなるほど強くなる能力を、発動させようとしていたからだ。
 現時点で所々怪我もしており、体力もだいぶ消費しているが、それでもまだ追い込みが足りないと思っていた。

 能力が発動している時のアレンは、とにかく強かった。
 Sランクすらもあっさりと、倒せてしまうほど。

 アレンは一刻も早く能力を発動させたいと、気を焦らせていた。

「なあアレン……もう皆、疲れちまってる。ここは帰った方が良くねぇか?」

 ビクターがアレンに向かって言った。
 しかし、アレンは無視して先に進み続ける。

 すると魔物に出くわす。
 Sランクの魔物が6体いた。

 6体は一度に相手にできる数ではない。
 普通なら一度、敵を撒くべき状況だった。

 しかし、アレンはそのセオリーを無視して、魔物の群れに突撃して行った。

「アレン!?」

 ビクターが驚いてそう叫ぶ。他のパーティーメンバーにも動揺が広がる。

 アレンは全力で魔物の一体を攻撃。大ダメージを与えるが、防御を考えずに攻撃したため、がら空きの体を狙われる。
 瞬時にビクターが守りに入り、攻撃を受け止めたが、本来ビクターが重点的に守らなければならない、後衛のメアリー、マチルダ、ドーマ辺りが狙われる。
 メアリーとマチルダは魔法障壁を張り攻撃を防ぐが、完全には防ぎきれず、食らってしまう。
 ドーマは何とか攻撃を回避し、瞬時に懐から、停滞のポーション(魔物の動きを僅かに止める)を取り出し、投げつける。
 瓶が割れ液体が飛び出す、周囲に独特の匂いが広がる。
 すると、魔物達が3秒ほど動きを止める。
 その隙に一同はバラバラの方向に逃げ出した。ビクターはアレンを抱えて逃げた。

 バラバラになってしまった場合は、その階の入口に戻るという決まりから、パーティーメンバーは入り口に向かった。

 アレン、ビクター、メアリー、ドーマ、マチルダは戻ってきたが。

「ライトはどうした?」

 アレンが聞く。
 ライトとは新しいパーティーメンバーである。

「戻ってくるのに手間取っているのか、逃げ遅れて死んでしまったか……」
「単独になって一人で戻ってくるのは、正直難しいです。ライト君では死んでしまった可能性が高いでしょう」

 ビクターとドーマがそう言った。

「まあ、ライト程度。死んだ所でどうでもいい」
「おいおい……アレン。お前があんな無茶な突撃したのが原因なんだぞ!? お前、何故あんな真似をしたんだ!?」

 ビクターが怒りながらそう言った。

「俺の能力を発動させるためだ」
「まだそんな事、言ってんのかてめぇは。発動しないもんはしないと割り切って、行動するのが普通だろ!? それをいつまでも諦めきれずパーティーメンバーを危険に晒すなんてなぁ。それでもお前はリーダーか!?」
「ふん。能力が発動したら、今の苦戦も全て無くなる。多少、誰かが犠牲になろうが、あの能力が戻れば全てチャラだ」
「お前なぁ……」

 ビクターは呆れて物も言えなくなる。
 元々傲慢な人間だったが、ここまでだったかと唖然とする。

「ちょっと皆! マチルダさんの様子がおかしいの!」

 メアリーが珍しく大声を出している。

「どうした」

 アレンが様子を確認してみると、息を荒げながら、苦しそうに俯いている。マチルダの姿があった。

「何があった?」
「わからないの……いきなり苦しみだしたの……」

 メアリーが動揺しながら説明する。

「異常回復の魔法はかけましたか?」

 ドーマが尋ねる。

「うん。でも効かなくて……」
「ふむ……」

 ドーマがマチルダを診る。
 動悸が荒く。目の視点が合っていない。

「分かりませんね。異常回復の魔法が効かないとなると、特殊なスキルで作り出された毒としか…………僕の持っている解毒薬を一応、飲ませてみますが、恐らく効果はないかと。しかし、治せないならこのままだと死んでしまいます」
「死んじゃう……そんな……」

 ドーマの言葉に不穏な空気が流れる。ドーマはいくつかの解毒薬をマチルダに飲ませるが、効果は無かった。

「これは地上に戻って、治し方を探すしかないかもしれません……間に合えばいいのですが……」
「それなら早速、戻るぞ」

 アレンが指示を出す。

「おい、ライトはどうする」
「死んでる可能性が高いだろう。マチルダを助けるのが先決だ」
「アレンさんの言う通りです。ここにいたら高確率でマチルダさんは死にます」
「う……」

 ビクターは苦しい表情を浮かべたが、最後は納得した。
 一同は地上に戻った。

 ○

 地上に戻って、マチルダをまずは医者に診せた。
 医者にもお手上げらしく。ドーマは医者と協力して、解毒薬を急いで作ろうと試みる。

 その間メアリーが、回復魔法を掛け続け。何とか延命していたのだが。
 地上に戻って三日経ち……

「……すいません。間に合いませんでした」

 マチルダは死んだ。

「うう……マチルダさん……」

 同じ女性で仲の良かったメアリーは泣いている。
 今この場にはアレン以外のパーティーメンバーが揃っていた。
 一同に沈痛な空気が流れる。

 部屋のドアが開き。誰かが入ってくる。
 入ってきたのはアレンだった。

「どうだ?」
「死んだよ……」

 アレンの質問にビクターが答える。
 答えを聞いた瞬間。アレンはその場を立ち去った。

 メアリーはその様子を見て、怒りがふつふつと湧き上がってくる。

(アレン君の無茶な行動のせいで、マチルダさんは死んだのに、なんなのあの態度は?)

 メアリーの心を怒りと悲しみが支配する。

 アレンとしては、ある程度ショックを受けていた為、無言で立ち去ったのだが、メアリーの目にはまるで悪びれない態度に映った。
 徐々に勇者パーティーの崩壊が近づいてきた。

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Posted by 未来人A