シャーロットの初陣

 ランベルク、ローベント家。
 シャーロット・レイスという、女が新しくローベント家の家臣となった。

 見るものの度肝を抜くような凄まじい魔法を使う女だが、兵士たちの間では、戦いの際に実力を発揮できるのか、疑問視されていた。

「貴族の家臣の生活……快適」

 当のシャーロットは、そんな目で見られていることなど知らずに、マイペースに家臣生活を楽しんでいた。

(美味しいもの食べられるし、ベッドはフカフカだし。リーツがたまに勉強しろってうるさいのが玉に瑕だけど)

 今まで貧乏な生活を送ってきて、奴隷とされていたシャーロットにとって、貴族の生活は天国といってもよかった。

 家臣としてマナーがなっていないところのあるシャーロットは、リーツにマナーを勉強しろと何度か怒られたが、面倒なので適当にやってサボっていた。

 今のところ特に仕事もない。魔法の練習はやらないといけないが、魔法を使うのはシャーロットは好きだったので、そんなに仕事とは感じていなかった。

 そんなある日の事、アルスの父親で、現ローベント家当主の、レイヴン・ローベントが険しい表情で家に戻ってきた。

 カナレにいる郡長に呼ばれて、戻ってきた時には鬼の表情だった。元々顔の怖い男であるが、今回はそれにも増して怖く、何かあったのだろうかとシャーロットは疑問に思った。

「出陣の用意だ。またサイツの連中が、イチャモンを付け、このカナレを狙って来た」

 レイヴンから指示を受けたリーツは、急いで何やら準備を始めた。

(出陣……? もしかして戦をするの?)

 ローベントに来てから、戦というものが発生したのはこれが初めてである。

 徐々に屋敷が慌ただしくなってきた。

「シャーロット。君も出陣の準備をするんだ」
「ん? わたしも行くの?」
「当然だ。魔法兵として戦をするために、アルス様は君を家臣にしたんだ」

 戦はした事はないが、シャーロットは特に恐怖を感じる事なく、面倒だけど仕方ないか〜、とだけ思った。

 元々恐怖などを感じにくい性格だった。

 シャーロットは、服装を整え、触媒機を準備をする。

「準備ばんたーん」
「……君、ピクニックに行くんじゃないんだぞ?」

 あまりのお気楽っぷりに、リーツが呆れた表情でそういった。

 レイヴン率いる百人ほどの兵は、カナレにいる三千の兵と合流をする。
 カナレ郡長のルメイルは、レイヴンの将としての有能さを買っており、全軍の総指揮官をレイヴンに任せ、全軍を率いて、サイツとの国境付近へと向かった。

 サイツ軍はカナレ郡のトルベキスタを狙っており、そこを取ってから、カナレ侵攻の足掛かりとするつもりのようだ。

 敵軍は全部で五千はおり、兵数では圧倒的に不利であった。

 しかも、近くに使える砦や城が用意されていない。

 元々サイツとミーシアンは、数十年ほど前までは、同じ帝国同士だった。さらにどちらかというと友好関係を築いていたため、あまりカナレ郡も元々サイツに対する警戒心は薄く、近年になって関係が悪化して来たため、サイツに対する対策は、危険度に対して不十分である。

 それでも、ここまで守り切れてこれたのは、レイヴン・ローベントの働きが非常に大きいと言えた。

「三千対五千……中々簡単ではない戦になりそうだな」

 そんなレイヴンも、今回の戦は危ういかもしれないと思っていた。
 流石に二千の差は大きい。一度トルベキスタを捨てる選択をした後、援軍を要請して、トルベキスタを取り返す、という作戦を取ったほうがいい可能性があった。

 しかし、領地を見捨てるというのは、当然やるべきではない。領主の信頼が落ちる上、領主の信頼を落としたとして、レイヴンの信頼も同時に落ちる。

 厳しい戦になるが、やるしかないか……レイヴンは覚悟を決め、軍略をリーツたちと話し合った。

 翌日、レイヴンたちが非常に厳しい場面になっていることなど知らずに、シャーロットはお気楽な気持ちでいた。
 カナレの兵士たちから、女が何魔法兵の格好しているんだと笑われたが、一回魔法を使ってやったら、黙った。それが面白くて、シャーロットは思い出し笑いをしていた。

 兵たちが動き出し始めた。よくわからないまま、シャーロットは付いていく。しばらく歩くと、遠くの方に旗を掲げた集団が。

「あれが敵?」

 シャーロットは一緒に配属されていた、カナレ所属の魔法兵にそう尋ねた。

「そうだ。サイツの連中だ」
「へーそうなんだ。じゃ、やっちゃおう。それ貸して」

 その魔法兵は大型の触媒機を持っていた。
 才能は認められているが、現時点で特に実績のないシャーロットは、小型の触媒機を持っている。

「これは私に与えられた触媒機である。お主は小型ので戦っておれ」
「いいから」

 とその魔法兵を力尽くでどかした。その魔法兵は、魔法の練習や勉強ばかりをやってきたので、女のシャーロットに力比べで敗北するほど、非力だった。あっさりとシャーロットに大型の触媒機を奪われる。

「ちょ! 何をするのだ!」
「おーし、やるぞー」
「は? な、やめっ!」

 本来、将の合図などを待ってから撃つものだが、勝手にシャーロットは魔法を放った。

 あまりにも勝手な行動だが、敵兵も予想しておらず、対処が遅れ、ノーガードでシャーロットの強力無比な魔法を受けてしまう。

 炎属性の魔法が敵軍に飛んでいき、大炎上する。
 圧倒的な威力の魔法だった。
 敵兵から悲鳴が聞こえる。

「うわー燃えてんなー」

 燃える人を見てシャーロットが漏らした感想はそれだけだった。

「てか、やっぱデカいだけあって、すげー威力じゃん。気に入った。よーし次々ー」

 と魔法を連射、何発も凄まじい威力の魔法を放ち続け、敵軍は瞬く間に炎に包まれる。

 味方の兵たちは呆気に取られながらその様子を見ていた。

「あ、弾切れだ。まあ、こんだけ撃てればいいか。スッキリした。はい返す」

 シャーロットは大型の触媒気を、驚いて口をあんぐりと開けている魔法兵の男に返却した。

 サイツ軍は、シャーロットの魔法で一気に統率が乱れ、その後はされるがままにされ、退却していった。

 初陣で、シャーロット・レイスの名は、カナレ兵の全員が覚えることとなった。


【あとがき】

短編読んでいただきありがとうございました。これからも、書籍版やコミックス単行本が出たら宣伝用に短編を投稿していきます。

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Posted by 未来人A