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5.洞窟

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 だいぶ歩いたら、今度は喉が渇いてきた。

 この谷で、水なんてものは一度も見たことがない。
 さすがに水がないのはまずいよな。
 きのこにもある程度水分はあるだろうが、それだけで生きていけるとは思えないし。

 雨が降ってくるのを待つしかないか。

 とりあえず現在の喉の渇きは我慢することに決める。

 そして、しばらく歩いていると、谷の壁に洞窟があるのを発見した。

 洞窟内は薄暗いのだが、ポツポツと光が見える。
 人がいるのか? と一瞬思ったが、あれはどうやらきのこだな。
 光りを放つきのこが、生えているみたいだ。
 人がいると思ったため、少しがっかりするが、光があるため洞窟の先へは進めるな。

 長い洞窟ならば、もしかしたら谷を出れるかもしれない。
 しかし、徒労に終わる可能性も高いし、洞窟内では隕石(メテオ)が使えないかもしれないので、俺の強さも少し落ちる。

 悩んでいると、洞窟の中から何やら音が聞こえてくることに、俺は気付く。

 これは、水が流れる音?

 かすかにだが確かに聞こえる。
 この洞窟を進めば、地下水が見つかるかもしれない。

 よし、決めた。行ってみよう。

 ……ただまあ、やばそうな奴がいたら、すぐ引き返そう。

 そう決めて俺は洞窟の中に入って行った。

 ○

 しばらく洞窟の中を歩いた。
 道中、何も見つからなかったが、水の音は大きくなってきている。

 やはり、この洞窟のどこかに水がある可能性が高い。

 俺はどんどん先に進んでいく。

 すると、

「ん?」

 俺は思わず声をだす。

 何かが倒れている。

 これは……猫だ。

 黒い猫がぐったりと倒れている。
 死んでいるのか? 
 いや、一応息はあるみたいだ。

 見た感じ怪我はしていないみたいだが……どこか悪いのだろうか?

 どうするか。
 猫派の俺としては助けたいという気持ちは強い。だが、自分一人の面倒も見きれるかわからない状態で、助けるのも……でもなぁ……

 俺が悩んでいると、その猫が目を開けて、フラフラしながら立ち上がる。

 立てるのか? いや、でもやっと立ってるって感じだけど。

 すると、その猫が絞り出すように「にゃー……! にゃー……!」と、俺の右斜め後ろに向かって鳴き始めた。

 かなり必死に鳴くので、なんだ? と俺は疑問に思い、右斜め後ろを確認する。

 何もいない、と最初は思ったが、よく見ると地面に何かいる。

 蜘蛛だ。

 青色の蜘蛛だ。普通の蜘蛛よりは大きい。が、あくまで蜘蛛の範疇に入る程度の大きさだ。

 こいつに向かって、猫が必死に鳴いている。
 何かやばい蜘蛛なのか?
 鑑定してみるか。

『アブソーブスパイダー♂ 1歳 30/35 
 特殊な糸を出す蜘蛛の魔物』

 特殊な糸って何だよ。それじゃあ何もわかんねーよ。

 微妙に使えねーな、と思っている俺の隙をついて、蜘蛛が糸を俺に向かって飛ばしてくる。
 避けきれず当たる。

 やばい、特殊な糸とやらを喰らってしまった。どうなるんだ?

 最初は何も起きなかったが、何だか徐々に力が抜けてくるような気がするような。

 もしかして、敵のHPを吸い取る系の技か?

 だったらやばい! さっさと引っぺがさないと!

 俺は糸を取ろうとするが取れない。
 切ろうとしても切れない。この糸なにで出来てるんだ!

 くそ、こうなったら本体を潰すしかない。

 俺は蜘蛛を潰そうとするが、ものすごく素早く逃げる。
 やべーあいつ俺より速いぞ。

 この蜘蛛はこうやって、糸を敵に付けて、相手が死ぬまでこの速さで逃げ続ける魔物なのか。
 めちゃくちゃたちの悪い奴じゃねーか。

 ここは先ほど獲得した、【電撃サンダーショック】を使おう。

 どんなに速くても電撃は避けられまい。

電撃サンダーショック!」

 電撃が俺の手から迸り、アブソーブスパイダーに命中。
 僅かに動きが止まる。

 俺は全速力で走る。
 奴が動き出す前に、倒さなくては!

 先ほどサンダーボアを倒して、速さがだいぶ上がったからか、かなり速く動けた。

 アブソーブスパイダーが痺れが取れて動き出そうとするが、俺が奴のいる場所に到達するほうが僅かに早かった。

 俺はアブソーブスパイダーを思いっきり踏み潰した。
 速度以外のステータスは弱かったみたいで、あっさりと殺せた。

 ふぅー。少し焦ったけど、倒せてよかった。

 よし、吸収しよう。

 踏み潰されたクモの死体を触るのには、若干抵抗があるが、我慢して触る。

 HP1上昇、MP5上昇、攻撃力1上昇、防御力1上昇、速度20上昇、スキルポイント3獲得。
 スキル【吸い取り糸アブソーブスレッドLv1】を獲得。

 あのスキル獲得できるのか。結構使えそうだな。

 あと、また速度が急上昇した。
 最初は防御系だったけど、なんか徐々にスピードタイプになっていくな。

 えーと、そうだ。あの猫。

 俺は猫がいたほうを見ると、再びぐったりと倒れていた。
 まだ、息はあるみたいだ。

 この猫はあのクモにやられたのだろうか?

 ぐったりしている感じからすると、たぶんそうだろう。
 この猫が知らせてくれたから、あのクモに早く気付けたし、ここで見捨てることは出来ないな。

 助けよう。

 そう決めた俺は、猫を抱えて水を探しにいった。

 しばらく進むと、奥深くに水を発見した。
 それなりの量の水が、音を立てながら流れている。

 これ水に入っていけば外に出れるのかな? うーん、さすがに溺死するか。

 結構綺麗な水だ。俺は手ですくって飲む。冷たくておいしい。

 つーか、よく考えたら水筒みたいな入れる物がないじゃないか。

 考えなしだったな。
 周りにあるもので作るのは……難しいか。

 一応水源があると言うことを確認出来ただけ、よしとするか。

 それと、さっき拾った猫だ。
 助けるつもりで拾ったけど、助けられるかな?
 ずっとグッタリしてるんだけど。

 あの蜘蛛にやられたなら、休めば回復するような気が、しないでもないけど。

 とりあえず水を飲ましてみるか。

 俺は水を手で掬い取って、猫の口のあたりに持っていく。
 猫は弱々しいが、ペロ、ペロと水を舐め始めた。

 喉が乾いているのか、結構飲み続け、全部飲む。
 再び水を持ってくると、それも飲み干した。

 水や食料を与えれば、復活するかも知れない。
 しかし、食い物なんてないしな。
 きのこはあれ、毒耐性がないと食えないし。

 ちょっと休ませて様子をみるか。
 地面は硬いし、俺は自分の膝に乗せて猫を休ませる。

 猫の温かさが、膝に伝わってくる。

 ……なんかこうしてると、猫好きの俺としては撫でざるを得ないわけで。
 頭やら胴体を優しく撫でる。

 すると、気持ち良さそうに「にゃ〜」と鳴く。

 お? 少し容態が良くなったか?
 俺の手には生き物を癒すハンドパワーでもあるのか。
 ……まあ、水飲ませたからだろうけど。

 しばらく、そうして撫で続けている。

 いきなり膝が重くなる。
 さらに撫でていた感触が変わる。
 人間の髪を触っているみたいだ。

 俺は違和感を覚え、下を見てみると、

「は?」

 俺は惚けたような声出す。

 俺が撫でていたのは猫ではなかった。

 女の子だった。

 猫耳の生えた黒髪の女の子を気づいたら撫でていた。
 その女の子は俺に撫でられながら、「うにゃ〜」と気持ち良さそうな声を上げている。
 さっきまでの猫の声と違い、完全に人間の女の子のような声だ。

 …………幻覚&幻聴だな。
 猫好きの俺は、この手の妄想をよくする。

 助けた猫が美少女になって、イチャイチャするとか、そんなアホみたいな妄想だ。

 その幻覚を見ているのだろう。俺はどうやら疲れているみたいだ。

 だって猫がいきなり人間になるなんて、ありえな……

 いや、ありえなくない! ここは異世界!

 猫から人間になるようなのがいてもおかしくない!

 そういえば俺は鑑定をかけていなかった。
 いや、どう見ても普通の猫だったから、鑑定しようという発想が湧かなかったんだよ。

 鑑定してみよう。

『ケットシー。個体名:レーニャ15歳 Lv.25/55
 猫の獣人ケットシー。弱るとただの猫になる』

 ケットシーか。
 この子は、猫の獣人なのか。
 つまり水を飲んで少し休んで、体力が回復し、人間体に戻ったということか。

 名前はレーニャって言うのか。

 俺は両肩を抱いて、この子を起こす。
 顔は幼いが美しく整っている。
 あと服は着ているようだ。
 普通全裸になりそうなものだが、そうではないらしい。

「ちょっと君ー、ちょっとー」
「うにゃ〜……もっと撫でるにゃ〜」

 目を細めながらそんなことを言っている。
 若干寝そうになっているのか? とりあえず俺は揺らしてみる。

「うにゃ〜うにゃ〜……うにゃ?」

 パチリと目を開けた。
 大きくて綺麗な琥珀色の猫目だ。

「あれー? ……にゃ! 元に戻ってるにゃ!」

 レーニャというケットシーの女の子は、自分の手足を見て、元の姿に戻ったことを確認する。

「やったー戻ったにゃー! お兄さんのお陰で助かったのにゃ! ありがとうなのにゃ!」

 俺の両手を掴んできてそう言った。

「あ、いや、ど、どういたしましてというか、当然のことをしたまでというか」

 童貞の俺。女の子に手を握られて思いっきり動揺する。
 相手は15歳、10歳も歳下だが、顔が美少女な上に、スタイルも結構いい。
 めちゃくちゃドキドキしてしまう俺。なんか情けない。

「アタシはレーニャというニャ! お兄さんは何というにゃ?」
「高橋……哲也。名前が哲也で姓が高橋ね」
「テツヤというのにゃ! さっきの蜘蛛を倒した時の動きものすごく速かったにゃー! テツヤは強いのにゃ!」

 褒められて悪い気はしないので、少し照れる。

「うにゃ〜お礼をしたいけど、何も持ってないにゃー……」

 ショボーンと落ち込んでいる。

「いやいや、お礼なんていらないから」

 と俺はフォローする。

「でもにゃ〜。あ、そうだ! 付いてくるにゃ!」

 何か思いついたのか、レーシャは歩き出す。

「どこに行くんだ?」
「アタシの家にゃ! 一回洞窟を出るにゃ!」

 家があるのか。

 レーニャは洞窟を出るため歩き出したので、俺は付いて行った。

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