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34.勇者到来

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 俺たちは防壁を守る事に成功はしたが、気は抜かず外を見張り続けた。

「敵兵に動きはないみたいだな。援軍はいつくらいにくるんだ?」
「来るとしたら、早くて三日後くらいでしょうか?」

 近くにいたリコが、俺の質問に答えた。

「三日後か……このまま敵が黙っているとは思えないし、何とか防ぎ切れればいいんだが……」
「そうですね……」

 リコは浮かない表情で呟いた。
 ここ数日のリコの表情は、常に暗い。まあ、まだ本格的に始まっていないとはいえ、もうすぐ激しい殺し合いが始まるだろうから、明るいわけがないだろう。

 俺としてはとにかく一日でも早く戦争を終わらせるために、やるべき事をやるだけだ。

「恐らくじゃが、次は勇者が自ら来るじゃろうな。遠くから壊せぬのなら、近くから壊しに来るじゃろう」

 メクがそう言った。

「それって防げるのか?」
「難しいじゃろうな。ちょうどわしらが見張っとる場所にくれば良いかもしれぬが、ほかの場所に来られたら、あっさり壊されるかも知れん。勇者の力は想像以上じゃ」
「そうか……仮にその時、防壁が壊されたら俺たちはもうその時点で、勇者を討ちに行くべきだな」
「当初の予定は違うが、そうするしかないじゃろうな。もう【解放リリース】は使える状態じゃろ?」
「ああ、大丈夫だ」
「ようやくわしも力を発揮できるな」
「アタシも【獣化ビースト・モード】になって頑張るにゃん!」

 防壁守りでは、力を発揮できなかったためか、二人はかなり気合を入れていた。

 それから俺たちは数時間、外を見張り続けた。

 すると突然、全く別の場所から轟音が響いた。

 俺は驚いて、音の聞こえた方向を見る。

 俺たちがいるちょうど向こう側、確か門があった所あたりか、そこが白い粉塵に包まれて、全く見えない状態になっている。

 もしかして……崩されたのか?

「テツヤ! 恐らく勇者じゃ! かなり遠くに現れおった! 急ぐぞ!」
「ああ!」
「行くにゃ!」

 俺たちは勇者が現れた場所に向かう。

「私も行きます!」

 リコがそう言って、来ようとする。俺は驚いて、走るのをやめた。

「リ、リコ。敵は君を狙っているんだし、前で戦うのは……」
「大丈夫です。私も弱くはありません。魔法は一応それなりに使えますので。何より、町の皆が命懸けで戦っているときに、黙ってみているだけというのは嫌なんです」
「……」

 これは止めても無駄そうだな。覚悟を決めているようだ。

「分かった。でも危なくなったら、逃げてくれよ」

 と念を押すように俺は言った。

 リコはそのあと、防壁の防衛に参加した魔法使いたちも、勇者が入ってきた場所に向かわせた。

 本格的な戦いが始まろうとしていた。

 勇者が入り込んだ場所に到着すると、入り込んでくる敵を、兵士たちが必死に止めていた。

 ただその様子に、俺は違和感を覚える。
 仮に勇者が突撃してきているのなら、いくら兵士たちが必死になろうと、止めることは不可能であるはずだからだ。
 町にだいぶ入り込んできた勇者を、俺たちで止めて、それから押し返すという感じになると思っていたのだが。

 どういうことだろうか。

「よく来てくださいましたリコ様!」

 大きめの鎧を装備した男が、リコに声をかけてきた。
 彼女の部下の一人だろうか。恐らくそれなりに上の立ち場にいるものだろう。

「状況はどうなっていますか?」
「勇者が来て防壁を破壊されました。大勢の敵がなだれ込んできましたが、何とか防衛しているところです。勇者は壁を破壊した後、去って行きました」

 やはり勇者はいないのか。

 どういうつもりなのだろうか?
 自分で突撃した方が、楽に攻略できると考えるはずなのだが。

 俺が一人勇者を倒したことで、慎重になっているのだろうか?

「……まずいのう」

 メクが呟いた。

「勇者の狙いが分かったのか?」
「恐らくじゃが、勇者はここ以外の防壁も破壊して回るつもりじゃ。数に勝っている敵軍じゃが、一か所からの攻撃じゃと、その利を生かしにくいからのう」
「そ、それはかなりまずいですよ。複数個所から攻められたら、守り切れませんよ。この町は一気に落ちてしまいます」

 この町の戦力に一番詳しいリコは怯える

 勇者にそんな知恵があるのか疑問は残る。
 まあ、別に向こうの作戦をすべて勇者が決めているというわけではないだろう。
 部下からの助言でメクの作戦をとっているのかもしれない。

「それなら勇者を探して倒さなければ。取り返しのつかない事態になる前に。勇者は壁を壊した後、どこにいったんだ?」
「後方に下がって行ったという情報は耳にしております。現在地は不明です」
「一旦後方に下がって、別の場所に攻撃を仕掛けるつもりかのう? とにかく一刻も早く、探しに行かねば。奥の方に引っ込まれたら、手出しができなくなるから、非常にまずいのじゃ」
「私も行きます!」

 リコも勇者を倒しに行く意思を示した。

「待て、リコはここに残っていてくれ。ここの防衛も大事なはずだ」
「そうじゃ。兵たちはお主が現れたら、士気を上げるじゃろう。ここで戦うのがお主の仕事じゃ」

 俺とメクから説得され、リコは、

「ここの防衛が私の役目……そう……ですね。その通りです」

 納得してくれたようだ。

「お願いします。何とか勇者を倒してきてください」
「ああ、約束する。リコもここを何とか守り切ってくれ」

 俺たちは固く約束を交わした。

 勇者を探すのは、防壁を越える必要がある。
 俺たちは、防壁に向かって走り出した。

「よし帰るかぁ」

 ヒロシは当初の予定通り壁を壊した後、安全のため引っ込んでいった。

 その途中、攻めている味方を見て、

「何かあそこだけから攻撃しても、こんだけ 大勢居るのに 活かしきれてない気がするなぁ」

 実際に戦っているのは、前にいる者たちだけで、後ろで詰まっているものは、何も出来ていない。

「あ、そうか。別の場所も壊しちまえばいいんだ。俺頭いいー」

 ヒロシは調子に乗っているような素振りで、そう言った。

「たぶん敵の強い奴らは、今攻め込んでいる場所に集まってるだろうし、別の場所の壁を壊したら完全に予想外で敵は慌てふためくだろうなぁ。よしやろう」

 予定を変更して、ヒロシは再び壁の近くへと向かった。

 俺は防壁の上に登って、勇者がどこにいるのかを目視で捜索する。

 どこにもいない。

 やはり後ろにいかれてしまった。

 だとすると、敵兵に紛れて探すのが非常に困難になる。

 勇者の外見は目撃者から聞いており、坊主だったという話だ。

 確かに坊主のやつはいた。

 四人の不良の中では、長髪の奴と金髪の奴が目立っていたから印象は薄いが、確かにそんな奴がいた覚えがある。

 顔は覚えていないが、大きい高価そうな鎧を身につけていて、青いマントを羽織っているという特徴もあるらしいので、見かければ分かるだろう。見逃しているわけではないはずだ。

「どうする?」
「うーむ……とにかく敵が壊してきそうな場所を予想して、そこに行くしかないようじゃのう」
「どこに来ると思う?」
「先ほど壊した場所よりなるべく遠い場所にするじゃろうな。真後ろに回ってみるかの」
「そうだな……」

 外れている可能性もあるが、それにかけるしかないか。

 壊された場所のちょうど反対側に俺たちは向かう。

 その向かっている途中。

「あれは!」

 大きな鎧を装備した坊主の男が、防壁に向かって来ているのを発見した。青いマントを羽織っている。

 あいつが勇者か?

 俺はその男を鑑定してみる。

『人間。個体名:ヒロシ・オオシマ。Lv.88/95 16歳♂
 HP 1587/1587
 MP 1156/1156
 知能が高い。レベルアップによるスキルポイントの上昇が多いという特徴がある』

 この日本風の名前、そして並外れたレベルと限界レベルの高さ。
 間違いないこいつが、勇者だ。

 限界レベルは以前戦ったタケイよりかは高いが、レベルは低い。

 ほかの数値は覚えていないので、分からないが、たぶんHPはタケイより高いような気がする。

 ただ現時点の俺のHPよりかは、低い。

 これなら勝てるだろう。

「テツヤ、あいつで間違いないか?」
「ああ、間違いない」

 俺は【解放リリース】を使い、メクを元の姿に戻す。

 それから、俺たちはリコから事前に貰っていた、能力を強化する水を飲む。

「よし行くぞ」
「ああ!」
「にゃー!」

 と俺は飛び降りたが、二人は飛び降りられる高さではなかったらしい。しかし、メクが落下速度を落とす魔法を使用して、レーニャと二人で降りてきた。

「な、何だてめーら」

 勇者オオシマは、突然降りて来た俺たちに驚き動揺する。
 タケイは最初は見下しまくっていたので、奴ほど他人を見下すタイプではないのだろう。

「お前を倒しに来た」
「ああ? 何だお前限界レベル1じゃねーか、女の方は高いが、俺よりは全然低いし、ちょっとビビった俺が馬鹿だった」

 こいつレベルサーチを使った素振りを見せないで、そう言った。こいつ【鑑定】が使えるのか?
 ただ、俺の名前に関する言及がないので、レベルサーチだけを見るスキルが存在するのかもしれない。

「殺してやるよ」

 オオシマは腰にかけていた剣を抜いて、俺たちに飛びかかってくる。

 戦いが始まった。

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