「真祖(トゥルーヴァンパイア)……」
真祖。
純粋な吸血鬼(ヴァンパイア)で、
一国を滅ぼすほどの力を持った魔物。
「ランクで言うとSSにはなる。まさに伝説級の魔物なのです」
「だよねぇ……」
リックも真祖の名は何度も聞いたことがある。
大昔ある国が滅ぼされたとか、吸血鬼の国を作って、そこの王になってるとか、
子供のころは、いい子にしないと真祖が来るとまで言われていた。
「父上と母上は、何を難しそうな顔をしておるのじゃ?」
クルスが不思議そうな顔で、リックとユーリを見る。
リックもユーリもまさかそんな存在を作っていたとは思わなかったので、
二人共、困惑していた。
「いやーその、うん、な、なんでもないよ」
リックは困惑しながらも誤魔化す。
「クルスちゃんは吸血鬼って知ってるのですか?」
「吸血鬼? 血を吸う奴じゃろ?」
理由は分からないが、基礎的な知識などは備わっているようだった。
「そうなのです。どうやらクルスちゃんは吸血鬼だったのです」
「なんと!」
クルスは目を丸くして驚く。
「さっきから、父上を噛みたい衝動に襲われておったのは血を吸いたかったからじゃったのか!」
「ええ!? 血を吸いたいの!?」
「おいしそうなのじゃ……」
「ちょっと待って、血ってどのくらい吸われるの? 死んじゃわない? 痛くない?」
「死ぬかどうかはさじ加減なのです。クルスちゃんも死ぬまでは吸わないのです。痛みはないと聞いたことがあるのです」
「そ、そうじゃあちょっとなら吸っていいよ」
「やったーなのじゃ」
リックは腕を差し出し、クルスはリックの腕に牙を刺し込み、
チューチューと血を吸い出す。
チューチューと吸い吸いひたすら吸い……
「いや、もう駄目! 吸い過ぎだよ!」
「あー!」
リックが急いでクルスを腕を離す。
「まあおいしかったからいいのじゃ」
クルスはニコニコと笑いながらそう言った。口元から血が垂れている。
「貧血になっちゃうよ……」
対照的にリックは顔が青くなっていた。
「こう見てると真祖には見えないのですね。この目で真祖だと確認したわけではないのですから、実力を知りたいのです」
「うーんそうだな……どうすればいいか」
「わしの実力が知りたいとな……うーん具体的には説明できんが、あのデカ物とか大体この部屋にいる奴らは一捻りに出来る気がする」
サイクロプス含めこの部屋にはまだ配置していない魔物が何匹か残っており、
全部B以上の魔物だが、クルスは楽に倒せるという。
「じゃあやってみるのです! サイクロプスと戦ってみるのです!」
「えー危険じゃない?」
「とりあえず軽く死なないように手加減してやってみるのです。これで実力の全ては分かるわけではないですが、もし軽く捻れるなら真祖で間違いないのです!」
「そうかー」
「あのデカ物と戦えばいいのじゃな」
クルスは軽く体をほぐす準備運動を始めた。
「よし! いつでもよいぞ!」
準備運動を終え高らかに宣言した。
「じゃあサイクロプス、クルスと戦って死なせないようにね」
リックはサイクロプスに向かって命令した。
どすんどすんとサイクロプスが動き出す……が、
一瞬、
わずか一瞬の間、
黒い線が横切ったと思ったら、
サイクロプスが後ろに吹き飛ばされていた。
ドシーン!とサイクロプスが倒れる音が部屋に響く。
その様子をリックとユーリはポカンとした表情で見つめていた。
「一応手加減はしておいたのじゃ」
クルスは余裕綽々という感じの態度でそう言った。
サイクロプスはどうやら気絶しているだけのようだった。
「ね……ねぇユーリ今の見えた?」
「全く見えなかったのです。とんでもないスピードだったのです」
「Aランクの魔物を一瞬で倒すなんて……SSランク級の実力を持っていてもおかしくはないね……」
「本当に真祖ならむしろ戦闘能力よりも恐ろしいものがあるのですが、強力な仲間を手に入れたのです……」
こんなレベルの魔物がいると、高レベルのパーティーでも即全滅である。
それこそ勇者でも勝てない可能性が高い。
「これでわしの実力が分かったじゃろ、所でわしはまだわからないことが多いのじゃが、ここは何をするところなのじゃ? わしは何かと戦わねばならんのか?」
クルスから質問が来る。
「えーと説明したいところだけど……まずは……」
リックは部屋を見回す。
壊れた壷の残骸やら、サイクロプスが気絶しているやら、とにかくめちゃくちゃになっている。
「片付けするから手伝って」
その後、部屋を片付けた。
部屋を片付けた後、魔物達をそれぞれの階に配置、
クルスだけが護衛として、リックとユーリと共に居ることにした。
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